初めて指輪を人にはめるという行動は尋常じゃないくらいの緊張を覚えた。
僕は指輪をはめ終わると泣きじゃくる聖ちゃんを落ち着かせるためだけに彼女を抱きしめた。
ーーー自分たちが送別会の場にいること、完全に頭から抜けてしまっていた。
*
大きな拍手とともにハッとした僕は、ゴメンと聖ちゃんに口パクで伝えた。
彼女の方も我に返ったように恥ずかしそうに俯いてしまった。
「っということで、聖ちゃんに手を出そう者がいたら許さないから!」
僕は意味不明の言葉を残し、聖ちゃんと共に席に座った。
「おめでとうございます、結婚式楽しみにしてますね。」
さっきまで小声で囁いていた女子たちが次々と聖ちゃんにお酒を注ぎに来た。
本当に祝ってくれているだけなんだろうけど女子は裏がありそうで怖い。
実際に白石と岩崎は疑いの目を彼女たちに向けている。
「ありがとうございます。ーーーでもお酒は・・」
聖ちゃんも遠慮しているのかなぜか敬語だし、この微妙な空気から僕は逃げたくて仕方なかった。
それにやんわりとお酒を断っている聖ちゃんも少し気になった。
そして自分の中で元々そんなに強い方じゃないからこの日は控えているんだろうという結論に至った。
「結婚式、本当にみんな呼ぶわけ?みんなそれ目当てなんじゃないの?」
岩崎は聖ちゃんの方を見て苦笑いしながらも鋭いツッコミを入れてきた。
結婚式にそもそも率先して行きたいという人は中々いないと思うし祝福だと今は捉えたい。
「全員呼ぶかは聖ちゃん次第だけど彼女がみんなに来て欲しいと言ったら呼ぶ予定ではいるよ。結婚式って女性のためにあるもんだろ??だったら聖ちゃんが望む結婚式にしてあげたいと思ってるよ。」
「ーーーー本当に大好きなんだね、末永のこと!」
不覚にも割り込んできたのは香坂だった、そして彼女は続けた。
「興味本位で聞いたのは悪いと思ったけど、優は中学の時に流れた噂が嘘だと思えなかったから本当に好き合ってるなら駆け落ちでも何でもすれば良いって思ってたんだよ!ーーー2人の恋を応援してたってこと!」
「ーーーありがとう。」
オレは素直にお礼を伝えた。
そして宴会終了間際、九重が声を張り上げて伝えた。
「えーーーー!!!今回は聖ちゃんを呼び戻す会としていましたが、一応海老原の送別会も兼ねていたので時間もなくなってきたので挨拶を!!!」
そう言って海老原を無理やり前に立たせて挨拶をさせた。
海老原はもともと前に立って先頭を切るタイプではない。
それは今も変わっていなくて、
海老原は恥ずかしそうに前に出て自分の仕事のこと、今誇りに思っていること、
そして海外に出てこれからの目標をきちんと挨拶できていたことに感動した。
オレも負けてられない、そう強く思った。
だって・・・僕は聖ちゃんという大切な存在をこれから先守っていくんだから。
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