「生まれたの?」
母さんが僕を見て言った第一声がこれだった。
息切れしていて、
急いで走ってきてくれていたことに少し申し訳なさを覚えた。
「うん、生まれたよ。男の子と女の子。」
「ーーー良かった。先生は?」
「今、授乳してる。」
「それ聞けて安心したわーーー。これ、先生に渡しておいて。役に立つか分からないけどいくつか選んだ本だから。晶、おめでとう。」
「ありがとう、母さん。」
あんなに急いで来てくれたのに母さんはすぐに帰った。
また明日赤ちゃんに会いに来る、と言って。
*
僕が聖ちゃんを病室で待つこと30分、
とりあえず入院セットの中身だけでも整理しておいてあげようとボストンバックの中を棚に入れ始めた。
「あれ、これ・・・」
そこで見つけた懐かしいモノ、
それは僕の日記だった。
ゴメン、そう呟いて中を開くとオレたちが離れ離れになったあの日の気持ち。
タイに行ってからの聖ちゃんの気持ちが3回、
僕が迎えに行って日本に帰る決意をした聖ちゃんの気持ち、
出産するまでの気持ちを何回かに分けて描かれていた。
ーーー知らなかった。
今までこのノートはどこに隠されていたのかも、
いつどこで書いていたのかも何も知らない。
けど僕はその中の聖ちゃんの日記を読んで、
自分が思ってる以上に聖ちゃんに想われていたことを改めて噛み締めた。
10分くらいしてから病室の外から小松さんと聖ちゃんの会話が聞こえて、
僕は咄嗟にそのノートをカバンに戻した。
そして何食わぬ顔で僕は小松さんに手伝って聖ちゃんをベットに戻すのを手伝ったーーー。
*
2人きりの病室には沈黙だけが流れ、
外を見る聖ちゃんは雨の音に耳をすませていたと思う。
僕と同じように。


聖ちゃんは少し驚いた顔をして目を見開いたけど、そのままほほ笑んで続けた。






僕たちは聖ちゃんが退院してからいつ生まれても良いように名前をずーと考えてきた。
雨にまつわる名前が良いということでお互い了承したものの最終的な決断が出来ずに出産となってしまった。
ーーーでも今日の雨、
そして大好きな聖ちゃんの漢詩からオレは待ってる間考えたんだ。

聖ちゃんはぼくの手を強く握り微笑んだ。
ーーーぼくはそんな聖ちゃんの手を強く握り返し、
微笑んで伝えた。

と。
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