不思議と普段鳴らない携帯は、こういう時に限って何かと音を立てたりするものだ。
九重から中学の同窓会の誘いだったり、
こんな時に限って聖ちゃんだったり、と。
「ーーーはい」
ぼくは無視することも出来なくて電話を取ってしまう。
聖ちゃんからの用件は大したことではなくて土曜日に予定があるかの確認だった。
ーーー嘘は言ってない。
同窓会は昼間だし聖ちゃんには全然会える時間だとは思うけど、なにも感づかない聖ちゃんに無性に腹が立った。
まだ聖ちゃんは何かを話したそうだったけど、ぼくは半強制的に電話を切った。
ーーー電話の向こうで彼女が苦しんでいるとも知らず。
自分のことだけで精一杯だったぼくは、
彼女の気持ちなんて考える余裕も、
電話越しに何かを伝えようとしていたのにも気が付きもしなかった。
*
最近喧嘩するたびに思う。
聖ちゃんと話すとイライラする、こんなに好きなのに優しくなれない。
まだ片思いだった時の方が優しくなれたーーー。
やっと想い合ったと思ったら今度は周囲によって引き離されて・・・
それから自分の気持ちに蓋をして、やっと迎えにいけたのに・・・
これじゃ同じことの繰り返し。
分かってる、
頭では分かってるのに気持ちが付いていかない。
何も手につかない状況で俺の仕事終わりを待っていたのは聖ちゃんからのメールだった。
行かないーー、行かないーー。
そう思っているのに僕の苛立ちはまだ治ってないのに勝手に足が聖ちゃんのいる方向に動き出す。
だけどオレは店内に入ることは出来なかった。
きっと今会ったら僕の浅はかな感情でまた聖ちゃんを傷つけてしまう、
そう思ったから。
ぼくは聖ちゃんを外から眺めながら電話した。
この前どんな思いで聖ちゃんにプロポーズしたと思ってんだよ。
外から見る聖ちゃんが涙しているのが見え、ぼくは何も答えられなかった。
ただ呆然とその場に立ち動けなかった。
ーーー聖ちゃんが感情的になって物を言ったのが初めてだったから。
「ごめんなさい・・」
その言葉を最後に聖ちゃんは電話を切り、
店を後にした。
ーーーそしてオレは一つの影に気がついた。
聖ちゃんが店を出たと同時に動き出した一つの影に。
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