#08.
月曜日、私は久しぶりに大学に行くーーー。
就職課に行き、内定を三ついただけたことを報告。
そして現状で職種で悩んでいることも伝えた。
就職課の人が決められることでもないから、
もう少し悩みます、と報告して次は図書館に向かった。
・
就活を早く終わらせたい理由の一つに卒論がある。
ーーー早く卒論に手をだすことができれば、最後は自由になる。
早く自由になりたい。
勉強から、調べ物から解放されたいーーー。ってのも本音。
私の卒論は・・・
私が文学部の日本文学科だからゼミも日本文化について。
だから卒論も海外から見た日本を題にして書くつもりである。
多分、思いつきで書けばスラスラ書けそうな気もするけど。
私は実際に海外の人にインタビューをしたり自分で街中を散歩しながら見て感じたことを見て書きたいと思っている。
「雪乃!!!」
図書館のラボでパソコン操作をしていると友人のキイナが立っている。
「キイナ!久しぶりだね!!!全然学校に来ないからどこ行ってんのって思ってたの(笑)」
キイナは海外旅行が好きでよく行ってしまうから・・・
「バイトが忙しくてさ。でも流石に単位が厳しくなってきて今日は来た(笑)雪乃は?何してるの?論文?」
「就職課に行ったついでに論文に少し手を出してみようかなと思ったんだ。今日もバイト?」
ーーーバイトが休みだったらカフェでも誘おうかなと思った。
「そう!今、毎日バイトなんだ!でも好きな人と職場も同じで毎日会えるから楽しいし幸せだよ!」
キイナは同じ歳なのに私よりも全然しっかりしていて尊敬している。入学当時から仲良くしてくれてて、私のダメなところもしっかり伝えてくれる大切な友人の1人。
今のバイト先はホテルの受付で同じ職場の社員の方と付き合っているって前に教えてくれた。
バイトは大変だけど好きな人に毎日会えるから幸せだとさ。
不純な理由でしょ?と言ってたけどそれできちんと仕事しているのなら私は偉いなと思う。
「バイトや就活や色々、落ち着いたらゆっくりご飯にでも行こうね!」
忙しく突然現れて、
今の会話がまるで夢だったかのようにキイナは消えていったけど、
とてもイキイキしている、私はそう感じた。
私もちょっと見習ってバイトでもしてみようかなと本屋で求人雑誌を立ち読みするーーー。
いや、待ってよ。
就活も完全には終えきれてなくて、論文に手もつけてない人が何言ってるのと雑誌を閉じる。
そしてふと、キイナは論文大丈夫なのだろうかと人ごとながら心配になる。
「大事な話がある。急で申し訳ないが、今日の夜、会えたりする?」
すごく珍しい、海斗さんから今日の今日の連絡だなんて初めてに近い。
「大丈夫です。お仕事に時間も場所も合わせられます。」
よほどのことだと思った私はすぐに返信をした。
彼の仕事に合わせて会うのは8時、
遅いからという理由で私の最寄りのカフェまで来てくれた。
「ーーー悪い、待たせた・・・」
少し早めに到着したので先にラテを手にした。
来るのは海斗さんだけだと思ってたら知らない男性2人と一緒だった。
「えっと・・・これはどういう・・・」
私は戸惑いを隠せないーーー。
「紹介する。こちら俺の直属の部下で開発部製造科主任の有坂と流通課の主任の本間だ。」
戸惑いながらお互いにみんな視線を合わせる。
「初めまして、中田 雪乃です。」
とりあえず自己紹介はしておくことにしたーーー。
「海斗さんにご紹介にあがった本間です。」
「有坂です。よろしくお願いします。」
2人は私に名刺を渡す。
2人とも年は海斗さんより少し若い感じで、とても爽やかな青年という印象が強く残る。
「えっと。。。話が全く見えないのですが、どういったお話ですか?」
海斗さんは私に視線を合わせる。
「本部長、覚えてるか?」
「はい、もちろん。」
「本部長が・・・雪・・・いや。中田さんのことをすごく気に入ってしまってさ。」
海斗さんは雪乃と言いそうになり言い換えていた。
「ーーーはい」
「ずっと面白い子だって言ってて、美琴にも君を受け入れたいって話してたくらいに本気らしいんだけど。きっと理由は面白いだけではないんだと思うけど、本部長なりに考えがあってのコトだとは思うんだけど・・・どうしても一緒に働いてみたいと言うんだよ。だから・・・今日、急遽、今ここで話をさせてもらっている。」
「えっ!!!私がですか?海斗さんの会社に!?無理です!!無理無理無理です!!!」
「俺は無理だろうって断ったんだけど・・・あの人も諦めが悪くてさ・・・(苦笑)な?」
と本間さんと有坂さんにも確認をとっている。
「ーーーはい。面識ない僕たちも呼ばれまして、海斗さんだけだと丸め込まれそうだから説得してこいと言われました(笑)」
海斗さんも部下2人に対して複雑な表情を見せている。
「本部長の考えとしては、インターンをやってみないかと提案してきた。3ヶ月かけて開発部の製造科と流通課の両方で働いてみないかとのことだ。謝礼もきちんと出すと言っている。」
「謝礼って。。それに急に言われて、今すぐにやります!なんて答えを出せません。」
私も混乱してしまって苦笑いしか今は作れない。
「うん、気持ちはわかる。あの人、強引だから・・・」
「海斗さんも結構強引だと思いますけど・・・(笑)」
有坂さんが笑いながらいう。
「ーーー否定はしねーわ。どちらかというと俺は反対なんだよ。・・・自分の知り合いがインターンでも部下になるのは非常にやりにくい。」
「ーーーですよね、私もそう思います。」
「だけど俺たちは本部長を信頼しているからこそ彼の思ったことは絶対だ。本部長が言うなら・・・って気持ちもある。」
「・・・うん。」
「戸惑う気持ちも混乱する気持ちも理解する。この話をしている俺ですら混乱してる。だけど・・・お前にとっても良い経験になるとは思う。」
海斗さんは複雑そうな顔をしている。
そうだよね、インターンを受け入れたら彼の部下になるんだもんね、それは複雑だと思う。
「どう言う意味ですか?」
有坂さんが付け加えた。
「つまり僕がいる製造科と本間がいる流通の両方でインターンを通したらメーカー職としての製造の過程を学ぶことが出来るしそこからどうやって流通されていくのかを自分の目で見ることが出来るってことだよ。」
海斗さんの伝えてくれていること、
本部長が伝えようとしてくれていることも理解できる。
だけど私はそこまで見込まれるほど優秀じゃないーーー。
それに急すぎて困惑を隠せない。
「僕は中田さんにインターンとして来てほしいと思っています。」
有坂さんがまた話すーーー。
「それはどうしてですか?」
「ーーー海斗さんに入社当時に教わったように中田さんにも製造から流通に至るまでの開発部の楽しさを多く学んでほしいと思っているからです。それに社会勉強にもなると思うので、別の会社に就職してもプラスにはなると思いますよ。」
今日仕事で来れなかった本部長の代理で話してくれているのだとは思う。
だけど本部長のためにここまでする3人、
本部長ってすごい人なんだと思った。
それだけの人望がないと人の心は動かせないと思う。
特に複雑な心境の海斗さんなのに、本部長のために自分の感情を我慢している。
それってすごいと思う。
「ーーー今すぐ答えは出ないと思う。少し考えると良いよ。」
私が答えに困っていると、時計を確認していた有坂さんが海斗さんに時間ですと伝えていた。
「ーーーそうしてもらえたら助かります。」
「心が決まったら俺でもいいし、俺に言いにくかったらこいつらのどちらかに連絡してもらえれば助かる。」
「なるべく早く連絡入れるようにします。」
「ーーー頼んだ。今日は時間とってくれてありがとう。」
海斗さんは微笑を浮かべて言った。
「海斗さん、そろそろ行かないと・・・システム部との打ち合わせに・・・」
「分かってる。すぐ行くから外で待っててくれ。」
私が帰り支度をしていると海斗さんは部下2人に外で待つように伝えて、
少しだけふたりの時間を作ってくれた。
「仕事に戻るの・・・?」
「俺たちが会社を出る時にトラブル発生して、戻って打ち合わせだ・・・」
「そんな・・・明日でも明後日でも私は良かったのに。」
「ーーー本部長にも毎日言われそうだしな(笑)」
「せめて会社の近くでよかったのに・・・」
「ーーーそれはあいつらにも推奨されたけど、帰りが遅くなるし心配になるから俺が却下した。」
「ーーー過保護ですね(笑)」
「お前にだけな(笑)」
嬉しさと恥ずかしさでお互いに視線が絡んで微笑が生まれる。
「じゃ、本当にそろそろ・・・」
「あの!!!」
海斗さんが動き出した一歩を私は止めた。
「どした?」
「今日・・・どんなに遅くなってもいいからウチに来てほしいです。」
「ーーーラジャ。」
片手を大きく上げて店から出ていく姿を見送り、
部下と合流したところも目で確かめる。
部下の人たちと会釈を交わして彼らは職場に消えていくーーー。
この日は本当に忙しかったようで、
結局彼が私の家に来ることはなかった。
「悪い・・・会社に泊まりだ。」
たった一行、そのメールだけが虚しくも携帯に届いた。
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