#06.
「今日はありがとうございます、よろしくお願いします。」
海斗さんはいろんな方に丁寧に挨拶をしてて、
初めて彼の仕事している姿を見るのは新鮮で嬉しく思った。
・
「後ほどゆっくり話しましょう」
2人はそれだけを交わし、私も兄の隣を歩く。
会場に入ると多くの方々が私たちを見る。
「ほら、お前を見立てた甲斐があった。みんながお前を見てる。」
「わたし?!なぜ?」
「ーーーオレのおかげだな。雪乃はもっと自分に自信を持つべきだよ。」
兄はそう言ったけど、
私的には兄にみんな関心があるからのようにしか思えない。
「中田社長!」
ここに来て何人の人に呼ばれただろう。
兄は結局すぐ戻ると言って知らない人のところに行った。
私は暇なので美味しそうなスウィーツコーナーでお皿いっぱいに盛る。
「こんな食えんのか?」
私の器から一つシュークリームを取り頬張る人。
「海斗さん!もう落ち着いたんですか?」
「ーーーおう。」
「初めて仕事してる姿見てキュンってしちゃいましたよ。」
「そりゃどうも。・・・お前は中田社長と抱擁してたな笑」
「妬いた?ねぇ、妬いた?」
「妬かねえ笑」
チッとふざけて舌打ちすると海斗さんは笑った。
「ーーーいつもの雪乃と雰囲気違うからドキドキするわ。とても似合ってる。」
「ありがとう!また新しい私を見つけたね!」
「ーーーだな。」
それからすぐに海斗さんは知り合いの貿易関係やメーカーの方を紹介してくれた。
まだ大学生なの?!見えないね!と何人の方にも言われたけど普段の私を見たら見えるんですと言いたくなった。
貿易とメーカーは私は似ていると思っていたけど、やっぱり違いはあった。
だけどその違いで自分がどちらに向いてるのか分からなくなる。
「まあさ結論からすると行ったら結局ホーム的になるから、思いつきで行くってのも一つの手だよ。」
メーカー勤務の海斗さんの知り合いが教えてくれる。
この人は海斗さんの大学の友達らしくてなかなか2人の会話も新鮮で面白い。
ーーー友達なんかいなかったとか言ってたのに、嘘じゃないと心で思った。
「どうして2人ともメーカーにされたんですか?」
「オレは製造に興味があったから。モノがどのように作られ相手に届くのか見てみたかったから。」
海斗さんはすぐに私に答えた。
「ーーー俺は受かった会社がそこだったから笑」
友達は結構適当だったらしい。
「もし真剣に悩むのであれば製造か売買か、どっちが良いかってところじゃないかね?貿易は国を跨ぐから楽しいと思うけどメーカーにもメーカーの良さがあるからね。」
言葉たらずな海斗さんに捕捉するようにその友達は加えて言った。
なるほど・・・ーーー。
「ーーーたくさん教えてくださりありがとうございます!」
「いいえ。またいつでも声かけてねー。」
気さくで優しいその人が海斗さんの友達とは意外。
基本的に海斗さんは私と行動してくれていたけど、
人望が厚いのが分かるほどにたくさんの人に呼び止められたり声をかけられたりしていた。
「すごいね、海斗さん。」
「なんで?」
「信頼されているのがとても伝わる。すごい・・・」
海斗さんの直属の部下もお酒を持って来たり、
私に挨拶したりとなかなか2人だけの空間を取るのは難しいけどこう言う場所に出ていくのも社会勉強なんだなとも思った。
ーーー声をかけられるたびに海斗さんは私を紹介する。
さすがに彼女です、なんて紹介はしない。
私だってそこはわきまえているしなんとも思わない、
中田の付き添いで来たけど今離れてるので一緒にいてくださってると私から言い続けた。
会も終盤、
兄だけでなく海斗さんも上司に連れて行かれ消えた。
「ーーー楽しんでる?」
知らない男性に声かけられ、気がつけば3人の人に囲まれた。
「あっ、はい・・・」
「スパークリングワイン飲む?」
「ーーーいえ、大丈夫です。」
知らない人は苦手だ・・・ーーー。
なんか拒否反応が昔から勝手に出る。
「さっきから可愛い子だなって話してたんです。」
1人が私に言う、多分私よりいくつか年上のまだ若い人だと思う。
「えっと・・・ありがとうございます。」
助けが欲しくて海斗さんの方を見るけど、
上司の方々と話していて私に気がついてない。
「名前はなんて言うの?何歳?どこの会社?」
質問がすごい・・・。
兄を探すけど見当たらないーーー・・・。
みんなしてなんなのよ!と思う。
「あのっ・・・」
「その初々しさも可愛いねぇ」
その人が私の手を触れようとした。
「いやっ・・・」
私は手を振り払った、そしてその人が酔っ払っていて逆上する。
私の手を掴んだその人、強くて振り解けない。
どうしよ、困った、怖いと思ってたその時。
「ーーー田中、その手を離せ。」
私が困りに困って泣きそうになってたところに、
向こう側で話していたはずの海斗さんの姿がある。
「椎名さんもどうですか?これから持ち帰りしましょうよ。この子、めちゃ可愛いじゃないですか。」
「聞こえないのか?今すぐに手を離せと言ってる。」
「ーーー椎名さんは女に興味ないか。」
思い出した、この人。
私が海斗さんに会いに行った時、一緒にいた部下の人だ。
「何度言わせる気だ、彼女の手を離せと言ってる。」
ーーー冷静に、でも怒ってる海斗さん。
「ねぇ、名前は?名前くらい・・・」
海斗さんの話を無視するこの人、相当酔ってる。
「オレの女から手を離せと言ってるんだ!」
えっ、とその場にいた3人が硬直した。
「離してください、本当に・・・」
「は?マジっすか?椎名さんの女?」
痛くて手首が赤くなってくるーーー。
それを聞いて私を掴む力が弱くなった。
「そうだと言ってる、だから離せ。」
「ちぇ、つまんねーな。仕事も出来て若くて可愛い彼女っすか。はいはい、人様のものには興味ないんで!」
その人がパッと手を離し、私は反動で床に転ぶ。
「大丈夫か・・・?」
床に転んだまま立てないでいる私に海斗さんは目線を合わせるようにしゃがんで話しかける。
「大丈夫・・・」
「なわけないよな、手が震えてる・・・。」
海斗さんは私の手を引いて、空いてるソファに腰掛けた。
「ーーー迷惑かけてごめんなさい。」
「いや、部下が申し訳なかった。美琴!ちょっとこっち頼める?」
何よと文句言いながら海斗さんの方に来て事情を聞いて私の方に来る。
「田中と話してくるわ・・・」
海斗さんは部下と話に行こうとするから、
私は彼の裾を掴んで私は止めた。
行かないで欲しい、と。
ーーー海斗さんが事情を本部長に話すと電話を出した時「椎名!何事だ?田中がパワハラだって来たけど・・・」と本部長が兄と一緒に走って来た。
「パワハラなんかじゃありません!私が・・・あの方にしつこく言い寄られてるのを助けてくださったんです!パワハラだなんて不謹慎です!」
その言葉に腹が立ち海斗さんの前に私が本部長に向かって話した。
やってしまったと思い海斗さんを見ると笑いを堪えている。
「ーーーね、本部長さん。こいつ面白いでしょ笑」
お兄ちゃんが本部長に言う。
「なかなか面白い妹さんですなーーー。初めまして、椎名の上司の町田です。」
「ーーー兄がお世話になっています。フツーの大学生の雪乃です。」
「フツーのって・・・笑」
そこでみんな笑いが起きた。
「妹!?あなた中田社長の妹なの?!」
唯一美琴さんだけ驚きを隠せてなくて驚愕中。
「・・・はい。真ん中にもう1人いますけど、私は末っ子で唯一の女子なので甘やかされて・・・あの通り激甘です。」
「ーーー椎名もお世話になってるとお兄様から先ほど聞きました。」
私に話しかける本部長にハッとした。
「あのっ!」
「なんですか?」
「・・・椎名さんとお付き合いしても良いのでしょうか?!」
本部長はじめ全員が驚いて口を開けてる。
「というと?」
「おつきあいさせていただいて仕事に支障はありませんか!?昇進に響きませんか!?私でも釣り合いますでしょうか!?」
「あははは!いやぁ、面白い子だわ、うちの会社に欲しいわーーー!」
その場にいた全員なぜか大笑いしてて、海斗さんも笑いを堪えるのをやめて笑ってる。
こんなに大きく笑う海斗さんを見るのは初めてで、
彼が笑ってるならまぁ良いやって思った。
「真剣に聞いてるんですけど!」
「ごめんね笑。君が心配していることは何もないですよ。椎名は難しい性格だろうけど仲良くやってくださいな。」
「うわぁい、本部長さんに許可もらったよ!!やったね!」
海斗さんに私は伝えたけど、彼は恥ずかしそうに本部長に言った。
「・・・なんかすいません。」
「いや、気に入ったよ!なかなか面白い子だ!今度みんなでゆっくり話したいな。もうすぐお開きだからな。」
結局私は最後の最後まで居座った。
ーーー疲れたけど、
楽しかったから居座った。
海斗さんと一緒に帰れるかなと思ったんだけど、
彼は会社のみんなと飲みに行くことが決まった。
ーーー結局小春ちゃんも莉子ちゃんも来れなかったし、
素直に帰ろうと自宅に戻った。
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