【 10歳年上の彼 】#05.

10歳年上の彼。

#05.

彼は合鍵を持ってるからいつもは入ってくる。
それでも今回はわざわざインターホンを押して来たから、
彼なりに気まずさや距離を感じているってことだと思う。

スポンサーリンク

「ーーーどうぞ。お茶でも飲みますか?」
彼を招き入れるか迷ったけどここまで来てもらって追い返すのはやっぱり良くないと思う。
「いや、いーや・・・」
手にペットボトルを持ちながら彼はそれを飲み干しては片手で潰す。
多分酔い覚ましだろうーーー・・・。
私は何となく彼の隣じゃなく向かい側の床に座った。
「・・・最近イラついててさっきは怒鳴って悪かったな。」
頭をくしゃくしゃにしながら彼が言う。
「いえ。」
私も大人気なかったことを伝えようと思ったけどもうやめた。
「さっきだけじゃない。ーーーこの前もイラついてオレの言葉で傷つけたと思う。何度も連絡しようとしたんだけどさ、本当にここずっと忙しくて会社に泊まることがほとんどで・・・」
謝罪なのか言い訳なのか分からないけど、
彼は彼なりに言葉を選んで話してるのは分かった。
「ーーー多分、イラつかせてる原因を作ってるのは私だと思います。大切な昇進があるのに理解せずに会いに行ったり子供じみたことばかりしていたのは私ですから。ーーー海斗さん。」
私は大きな深呼吸をした。
「なんだーー。」
「私たち、別れましょう。」
驚いたように彼は私を見たけど、
私は真剣な目で彼から視線を離さなかった。
「雪乃・・・」
「さっき…美琴さんと少し話して、美琴さんなら海斗さんの側にいてもあなたが困った時に助けてあげられる。学生の私では何も出来ないんだと思い知りました。今まで・・・ありがとうございました。」
「何勝手に話進めて・・・。美琴と帰り際に俺も少し話したよ。ーーー仕事仲間として大切だとは思うけどそれ以上の気持ちがないこともハッキリ伝えて来た。」
「ーーーそう、ですか。」
「オレが愛しいと思うのは雪乃だけだーーー。」
「でも隣にいたら恥ずかしいんですよね?わたし、1人が好きだったけど。海斗さんに出会って1人が嫌いになりました。」
海斗さんから視線を外す私。
涙腺崩壊しそうだだったから。
「ーーー子供なのはオレだよな。ダチにどう見られるか臆病になって雪乃を恥ずかしいと思ってた。ーーーこんなに愛しいと思ってるのにバカだよな。」
今日の海斗さんは優しいーーー・・・。
「いえ・・・」
「オレは一日に何度も雪乃のことを考えるよ。」
「えっ?」

スポンサーリンク

「仕事の合間に雪乃が何をしてるのか、お前と会った日を思い出したり一緒に過ごした週末を思い出して笑みがこぼれたり。それだけじゃない、終電のフリしてお前の家に泊まりに行ったり。会いたいのが我慢出来なくなったら口実作って会いに行ってたんだ。ーーーもっと早く来るべきだったのに、何となく別れを決めてるって気がついてたから来れなかったわ。ただオレもこんな気持ち初めてだからどうして良いのか分からず、連絡するのも会いに来るのも怖くて出来なかったわ。」
「ーーー何で今日そんなによく喋るの?」
私は彼を見たら、彼は笑った。
「はは、そうか?ーーー必死だからだろうな。雪乃を引き止めようと今必死だからだろうな。内心焦ってるよ。こんなおっさんが学生相手にキモいだろ。」
「ーーーうん」
「ひどいな笑。これでも必死だし、何よりお前を離したくないと思ってるから・・・」
「キモいよ!そうやって抱えて!何も話してくれないから分からないんだよ!歳が関係ないって付き合う時に迷った私に言ったの誰?!そうやって抱えて今本心言うことがキモい!」
私の罵倒に微笑を浮かべながらキョトンとしてる。
「ーーー雪乃って切れると怖いな・・・美琴とやり合ってる時もオレの知らない雪乃だったな。」
「これぞっていう時は言うので・・・」
「きっと俺が知らない雪乃がまだたくさんいるんだよな・・・」
海斗さんは私を見て苦笑いをこぼす。
「ーーーそうなのかな。」
「・・・もっともっと雪乃のことを知りたい。」
「でもワタシ・・・美琴さんに海斗さんとはもう会わないって約束しました。」
「ーーー陸と美琴には雪乃と付き合ってること正直に話したわ。」
「えっ・・・」
恥ずかしそうに海斗さんの顔が少しずつ赤くなるの分かった。
「マジか!それなら先に言って欲しかった!協力したのに!と陸には言われたわ。その時に美琴には気持ちに応えられないこと伝えた。自分が思っているよりも周りは応援してくれるのかもしれないな。」
「ーーーだね。これからも会っていいの?」
「ああ。自分が毎日頑張れるのは雪乃がいるからなんだよ。」
私は涙を流して彼に抱きついた。
「ーーーありがとう。」
「一つだけ質問させてもらいたんだけど、中田社長とは意味ありな関係なのか?」
「ーーー本人から聞いてないの?」
私たち3兄弟は昔から父の会社のことで色々言われてきた。
親のお金で生きてきている、とか筋金とかいろいろ。
長野では父の会社は有名で都内でも名も知れるほど有名な会社だった。
だからそれで…お金だけのために兄たちに近寄ってきた女性たちもいた。
私たち兄弟はだからこそ警戒心が強くなったーーー。
「ーーー本人から聞いてくれって言われたよ。」
海斗さんならきっと大丈夫、変な人じゃないと分かっているけど兄が明かさなかったからには私も少し疑ってしまう部分があった。
海斗さん自身ではなくて、彼の周りの人たちを・・・
「そっか・・・今度ちゃんと紹介するね。」
海斗さんはなんとなく私が言いたくないのが分かったのか、それ以上は何も聞いてこなかった。

スポンサーリンク

それからすぐに海斗さんから土曜日空けておいて欲しいと連絡を受けた。
彼の会社が主催する異業者交流会があり、そこに兄も参加する。

そして私に至っては貿易の方もメーカーの方も呼んであるからそこから学べることもあると思うと言ってた。
きっとそれも一つの理由だけど、海斗さんは早く兄を紹介して欲しいのかなとも思った。

「これはどう??」
着ていくドレスがないという話を兄に訴えた私は、
急遽兄の仕事終わりにブティックに連れて行かれた。
好きなものを着ろと言われたけど私が着るのはピンクとか可愛いらしい色。
「ーーーダメ。幼い!」
兄の好みではないようで全部がダメ出しで何も決まらないーーー。
そして結局私ではなく兄が最終的にスタッフのお姉さんと一緒に決めた。

スパンコールが入ったブラックのマーメイドドレス。
こんなピチピチのドレスを着用したことがなくて恥ずかしかったけど、
「細身で色白の雪乃さんにはとてもお似合いですよ!」とスタッフの方が言ってくれて図に乗ってしまってコレに決めた。
「当日は三時に迎えにいくから家にいろよ。」
「ーーー分かってる!」
海斗さんは主催者側だから忙しくて一緒には行けないから陸たちと落ち合わせて行って欲しいとと言われたけど、
陸さんのこともよく知らないし抵抗があったので、
中田さんと一緒に行くねと伝えた。
「ーーー了解。」
電話越しの向こうで沈黙が一瞬あったけど、承諾してくれた。

当日は三時に本当に迎えに来た兄はスーツを新調したようでいつもと違うスーツだった。
がっしり体型だからピチピチだけど紺色でタイトなスーツがとても似合っている。
まずは先日行ったブティックに寄って髪の毛のセットをしてもらう。
また髪型もいつ違い、自分では絶対に真似できない髪型だった。
最後にラメスプレーまでかけているし、兄様様の日になった。
「ーーーあとから小春と莉子も来るから。」
「本当に!?小春ちゃんと莉子ちゃんに会えるの!?嬉しい!!!」
兄の車の中で会話が弾む、だからあっという間に会場に着いた。

「中田社長、今日はありがとうございます。ーーー雪乃さん?」
ホテルのエントランスで美琴さんが招待客一人一人に挨拶している。
「先日は・・・」
「見違えたわ。とても似合っているわよ。」
「え、ありがとうございます!」
美琴さんに褒められるとなんだか意外で疑ってしまうけど、なんとなくライバル心があった彼女に認められた気がして嬉しかった。
「な?似合ってるって言っただろ?」
「慶ちゃん、すごいじゃん!」
私たちはペラペラ話しながら会場である3階に移動する、
そして海斗さんが受付をしていた。
すぐに私たちに気がついた海斗さんは微笑を一瞬浮かべた。
「なぁ、今さ、お前の彼氏どんな気持ちだと思う?」
「え?知らないよ笑」
「まだ俺たちが兄弟って知らないんだろ?」
「知らないけど・・・」
そういうと兄はわざと海斗さんの前で私を抱きしめた。
「ちょ、ちょっと!何するのよ!!!」
私は兄を突き放して睨むーーー。
海斗さんの方を見て兄が笑ってるから私もそっちに視線をやると、
彼は少し顰めっ面をしてる。
「ははは!!絶対疑ってるよな〜〜笑。」
ケラケラ笑いながら海斗さんのいる場所に受付に行った。

気が気じゃない私はただ兄の後ろついて行った。

コメント

タイトルとURLをコピーしました