#03.
「す、すいません!」 落としたフォークを拾い新しいフォークと取り替えるように店員さんに言ってくれたその男性はどうやら彼の同僚のようだーーー。
・
「おまえ・・・汗」
3人組で来ていたその人たちは4人がけの私たちの席に「失礼」と言ってズイズイと詰めて座ってきた。
ーーー強引だけど悪い人ではなさそう。
「今日のお昼予定あるとか言ってたくせに抜け駆け?」
1人の女性が彼に問う。
「ちげーよ。就活の相談に乗ってたんだよ、なっ?」
「あっ、はい・・・!!」
彼の隣に座るその人はふーんと言いながら私を見た。
なんか気まずくて私は視線を逸らす。
「終活ってまだ大学生?いーなー!オレもキャンパスライフをやり直したい!」
その女性の隣の男性が自分の大学時代を軽く話しながらも羨ましいとずっと言ってる。
「・・・で、2人はどういう関係なの?海斗がわざわざ私たちのランチを断るくらいだから単なる知り合いではなさそうだけど笑」
意味深にその人が言う、なんとなくこの人は彼に気がありそうな感じだなと女の勘が走る。
「え、彼女?!海斗、こんな年下ちゃんと付き合ってんのか!?」
「まじ?リアル大学生と?!このロリコンーーー笑」
と同僚たちの会話がどんどん広がるーーー。
私の入る隙間なんてないくらいにーーー。
「ちげーよ!」
でも海斗さんは同僚にからかわれるのが嫌だったんだろう、すぐに否定に入る。
「えっ。」
「・・・妹みたいなもんだ!就活の相談に乗ってただけだよ!」
海斗さんは私との関係を全否定した、
まるで年下なんかありえないとでも言うように全否定した。
「そうよね、海斗に限って年下なんてね・・・」
先ほどの女性が釘を刺すように言うけど彼は何も言わない。
悲しくて彼に視線を合わせたけど、
気まずいのか彼は私から視線を外した。
「てか、結構かわいい顔してるよね。名前は?」
「ーーー雪乃です。」
「雪乃ちゃんね。俺は陸ね、今後ともごひいきを。ほんと肌が白くてツルツルで雪みたいな子だね。ーーーオレ、彼氏候補になっても良い?」
なんて冗談を言いながら私の手に触るその人が気持ち悪くて震えてしまった。
「おい、こいつはお前みたいに軽い子じゃねーんだよ笑。悪ノリでごめんな。」
海斗さんは私に言う、けどもう苦笑いしかこぼせない状況になった。
「ーーーいえ。わたし次の予定があるので、そろそろ・・・」
自分のお昼の代金を渡して、お店を出た。
ーーー疲れた・・・。
店を出た第一声が大きなため息だった。
同僚の人たちが来るまでは2人で楽しかったのにな、と変な独占欲が自分に生まれていたことをこの時に初めて知った。
「雪乃、駅まで送るわーーー・・・」
そして店から歩き出そうとしたところ、彼が来た。
「いえ、大丈夫・・・もう昼休み終わりますよ?」
「少しくらい遅れても・・・」
「同僚の皆さんも待ってますよ。」
ガラス越しから見ているみんなの方を私は視線を送った。
「さっきは悪かったな、あんなこと言って・・・」
「同僚の皆さんに紹介もできない関係ってなんなんでしょうね。私だったら堂々と友達に恋人だよって言ってたと思います。」
「ーーー年が違うから恥ずかしいだろ。普通にこのおっさんが大学生と付き合ってるなんて、恥ずいだろ。」
「ーーー海斗さんは私が彼女でいることが恥ずかしいんですか?」
私は目に涙が溜まってるのを堪えた。
店内から見てる同僚の顔、
そして彼の前で涙は見せたくなかったから。
「そう言うことを言ってるわけではなくて一般論・・・」
「10個も違うと色々違うんですね。ーーー失礼します。」
私は深くお辞儀をして彼の前を去る。
ーーーその日、何度も着信があった彼からの電話を人生で初めて拒否をした。
・
それから一週間後、
私は先日受けた会社から内定をもらった。
ーーーだけど海斗さんと会社が近い、
ただそれだけの理由で喜ぶことが出来なかった。
いつからこんなに恋愛脳になってしまったんだろうと自分でも苦笑いがこぼれた。
一度内定が決まると不思議なもので続々と内定が決まっていく。
彼の助言があったからこその内定もあるんだと思うと少し複雑な気持ちになる。
結局メーカ1社、貿易関係の職場2社に内定をもらうことが出来た。
ーーーそこで私の就職活動は終了にした。
あまり長く続けていても良くないと聞くし、
自分自身も疲れ果ててしまいそうだから。
内定が決まったことを伝えたいーーー。
メールや電話で伝える方法もある、
だけどやっぱり相談に乗ってもらった以上は直接会って伝えたいし、
きちんとお礼も言いたい。
今、複雑な関係かもしれないけど・・・
やっぱりそこはきちんとしないといけないと思って私は海斗さんの会社に向かった。
・
恥ずかしいと言われてる手前、
嫌がられるかなとも思ったけど、喜ばれないって絶対に分かってはいたけど。
気まずいままも嫌だったし仲直りもしたかった。
ーーーそれに誰よりも今会いたかったから会いに行った。
エントランスホールにはたくさんの人がいて、
私みたいな普通の格好してる人は少なかった。
スーツの人が大半で、
そのビルに何かあるのか子連れの方も少しいた。
携帯を取り出し、彼にエントランスホールにいることをメールした。
ーーーもちろん仕事中だと思うし既読にはならない。
「ではまた連絡いたします。本日はありがとうございました。」
そんな時にエレベーターから降りて、
4人組のスーツ姿の人たちが会話してるのが耳に入った。
ーーー海斗さんの声に似ててチラッと見たら本人だった。
ちょうどお客さんを見送る時だったようだ。
相手にお辞儀をして顔を上げた彼は私に気がつき、
驚きを隠せない表情とイラついた表情に変わった。
「いやぁ、無事に終わってわかったですね!なんとか契約に持ち込めそうですね!これも海斗さんのおかげっす!」
海斗さんと一緒にいた人が彼に声かけてる。
話の流れから部下だとは思うーーー。
「ーーー悪いけど、先に行って報告書書いておいてくれ。ちょっと一服してから行く。」
「えっ、あっ、はい・・・」
タバコ吸わないのに一服ってという部下の表情だった。
彼はーーー・・・
わざと大きな足音で私の前を素通りして、「ちょっと来い」と小さい声で私の耳に聞こえるように言った。
ーーー喜んでもらえてない、
説教されるんだなってもうこの時点で分かった。
会社の裏側の鍵のかかってる部屋に彼は入った。
多分一部の人しか入ることが出来ない部屋なんだろうなってことは察した。
ここなら誰も来ない、誰にも見られないと分かってたから。
「・・・ここで何やってんの?」
冷淡な低い声で私に問いかける。
「内定もらったこと伝えに来た・・・」
「メールや電話でよくねえ?わざわざ会社に来て言うことか?」
「ーーー相談にも乗ってもらったからメールや電話じゃなくて直接伝えたかったし、あの日から気まずくて連絡とってなかったし仲直りしたかったから会いに来た。」
「今、この状況で仲直り?笑 出来るわけねーだろ。」
「ーーーゴメン。」
「大学生みたく自由に動けねーし、会社で遊んでるわけじゃない。お金もらって働いてんの、わかんないのか?」
「・・・」
「そう言うところ・・・子供っぽいところあるよな、雪乃。人が連絡した時は出ねーくせに自分の都合良い時だけこっちに来るのやめてくんねー?混乱するし迷惑だし振り回されたくないんだけど。」
よっぽどイラついてて珍しく感情的になってる。
「・・・寂しかったから。会いたいと思ったから会いに来たけどダメだったね。」
「1人時間大切にしろよ。」
「ーーーそう出来たらよかったんだけどね。やっぱ社会人と大学生はキツかったね・・・来てゴメンね。」
私は顔を見ることなく扉を開けて外に出た。
涙を我慢できるわけもなく、
誰の視界に入らない場所で大粒の涙を流した。
・
大丈夫、
私は大丈夫。
ーーー何度も自分に言い聞かせた。
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