#02.
「10年後の自分は何していたい?」
私は自分の就活のやり方において友人ではなく、
彼に相談した。
人生の先輩でもあり大好きな人でもあるから。
・
10年後の自分ーーー。
何をしているんだろう。何をしていたいんだろう。
「質問を変えるわ。雪乃は自分の将来を描いたとき、どんな自分でいたいと思う?」
「・・・どんな自分・・・」
髪の毛をドライヤーで乾かしてもらいながら彼の問いについて真剣に考える。
「ーーーそれが今の雪乃の課題だな。」
「次に会う口実が出来た!」
「なんだそれ(笑)オレも大学の時、行き詰ったことがあって恩師に同じ質問をされた。」
「どうやって返したの?」
「雪乃と同じですぐには答え出せなくて悩んだな。ーーーけどこの悩む時期があったから行きたい道を選べたし、今の仕事に就けた。悩んだ方が良いよ。」
「ーーーありがとう。」
私はちょうど私の首元にあった彼の手を握った。
彼はそんな私を背後から優しく抱きしめる。
少しずつ彼の手が動き始め、
私は彼の方を向くと優しいキスが舞い降りてきた。
そのまま抱きかかえられ彼の膝に座らせられる。
こういう雰囲気になったら止められないのは彼も私も同じーーー。
好き同士だから、相手を愛しいと思うからこその感情だと思う。
ーーーそれから先、何度も何度も彼は私を求め続けてくれ、
眠りについたのは朝方だった。
やってしまった・・・
ただでさえ毎日ほぼ終電で時間がない彼なのに朝方まで眠らせずに仕事に行かせてしまったことを悔やむ。
学生の寝坊は出来る、
だけど彼にはそんなこと出来ないのに、と「お邪魔した。またな。」という彼のメモ書きを見て悔やんだ。
彼は私に比べたらとても無口だけど、
私を愛してくれているのはとても伝わる。
言葉では決して言わない人だけど、身体で伝えてくれる。
「・・・ふふふ、なにこれ(笑)」
鏡を見て身体中につけられた多くのマーク、
まるで自分のだからとでも言いたいような独占欲の表れで、
それを見ているだけで前日の行為を思い出してはにやけてしまう自分がいる。
口で伝える愛情表現もとても素敵だと思うけど、
彼のように体で伝えてくれるのも私はとても素晴らしいことだと思う。
私は身支度を整えて、学校の図書館に向かう。
筆記用具を取り出して自分が今やりたいと思っていること、好きなことや、
将来どんな自分でいたいか…
など彼が教えてくれたように自分なりに考えた。
すぐには答えが出なかったり考えて苦しくなることもあったけど、
二週間かけてやっと答えが見つかったような気がした。
・
昔から人前に出るのが苦手で、
どちらかと言えば引っ込み思案で表に出るタイプではない。
だけど話は好きでよく話すから、
人を助けることにやりがいや達成感を感じる。
そんな思いから人と人を繋ぐ架け橋のような存在になりたいと思った。
色んな会社をネットで見ながら自分の気持ちと兼ね合わせ、
営業マンを筆頭に表に立つ人を陰で支えられるような事務が向いているのではないかと考えた。
事務にもいろんな仕事があってそれこそ悩んだけど、
人と人を繋げるような仕事がしたいと言うことで…
貿易やメーカーなど人から人に渡る業種の事務を中心に応募するようになった。
「貿易やメーカーで就職頑張ります!」
夜に用件だけ彼にメールしたけど、
忙しかったのか既読になって返事は来なかった。
・
着々と時間は過ぎていき、
彼が私の体に残したマークもほとんど見えなくなり体が寂しさを訴えていた。
分かっている、彼が一人の時間をどれだけ大切にしていることくらい。
分かってる、彼の仕事がどれだけ忙しく責任ある仕事をしていることも。
ーーーもうすぐ大切な昇進がかかっていることも全部理解している。
でもね寂しさには勝てない時もある。
私も一人時間が好きで、
1人でいることが全然苦じゃないはずなんだけど、
彼との付き合いが長くなるとその軸が少しずつずれてきているのも気が付かない振りをしていて、
だけど本当は心のどこかでは気が付いていた。
でも・・・
1人の時間を大切にしているという一つの共通点から仲良くなった以上、寂しいなんて言葉を言ってはダメな気がして言えない。
恋は盲目、なんて言葉をよく耳にするけど今初めてこの意味を知った気がする。
・
結局、私が彼に会えたのは・・・
ある日のお昼。
彼の会社の近くの貿易会社に面接に行った。
前日にそのことを伝えていたから、
「昼飯一緒に行くか?」」と言ってくれて喜んで承諾した。
「面接の手ごたえは?」
「わかんないーーー!なんか面接だったけど英語の筆記試験も受けさせられて何かあるのかな?」
「ーーー貿易なら語学力を見る会社もあるだろうし、その結果で審査が変わる会社もあるだろうな。」
「そっか。はぁぁぁ・・・クリスマスまでには決まりたいなぁ・・・」
「なんだそれ(笑)」
「クリスマスは楽しく過ごしたい!友達とクリパする約束しちゃったし空っぽの自分でいたい!(笑)」
「意味、わかんねーーー(笑)」
パスタを頬張りながらしかめっ面をする彼、
私もそんな彼を見て微笑が浮かび、
目の前に湯気が立ち美味しそうなパスタを食べ始めた。
それから少し彼の就職活動の時の話を聞いた。
彼の場合はとても素敵な恩師に出会え、
その教授から色んな情報をもらっては相談に乗ってもらっていたと。
1人ではパンクしていたからその教授がいて助かったと。
友達とは会話はしても性格的に話すタイプではなかったから友達も少なく、
いても当たり障りない会話で友達と就活の話をすることはなかったと。
人と比べても自分は自分だから相手にするだけ無駄、
比較するくらいなら友達ではなく教授や人生の先輩を選んで相談するべきだと教えてくれた。
彼らしい考えだなと思ったけど、少し冷めてることに苦笑いがこぼれた。
「へぇぇぇーーー・・・でもそれって寂しくねえの?」
と突然知らない声が私の上から降って来て、驚きすぎてフォークを落としてしまった。
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