#11.
海斗さんたちが戻ったのを確認して、
私と本部長さんは一緒に開発部に入るーーー。
・
社員証がないと部署自体に入れないセキュリティの強さ・・・
「うちにもこれだけのセキュリティ欲しいです(笑)」
私と本部長が開発部に入ると一瞬で空気が固まったのが分かるーーー。
騒々しかった部内が一瞬シーンと静かになった。
ーーー本部長さんが言ってたのはこういうことか。
もし私が海斗さんと一緒に入って行ったらもっと視線やらを浴びることになっていたんだな、と本部長さんに感謝した。
「雪乃ちゃんの家は鍵?」
視線なんか全く気にしないで本部長は私に問いかける。
「鍵です。普通の鍵です!」
私も気にしないようにしながら返答するけど、本部長さんは楽しそうに笑っている。
「ーーー雪乃ちゃんって普通って言葉好きだよね(笑)」
と言われたので、そう言えばパーティーの時も普通の大学生って答えていたなと思い出して私も苦笑いが溢れた。
「みんなちょっと良いか!!!」
本部長は部内の真ん中に立ち、みんなの注目を浴びる。
個室が用意されている副部長の海斗さんも部屋からわざわざ出てくる、
他の社員の皆さんも仕事の手を止めて本部長に視線を送る。
「朝礼でも話した通り、今日見学に来た中田 雪乃さんだ。仕事の邪魔にならない程度に見学させてもらう。」
美琴さんも陸さんも知っていたようで、
やれやれと言った顔をしているーーー。
「椎名、お前も時間があるなら少し付き合ってあげてくれないか。」
「ーーー分かりました。」
良いなぁ、椎名さんに案内されるんだって。
結構可愛い子だなぁ・・・
など色んな言葉が耳に入るけど聞こえないふりをする。
やっぱり海斗さんは会社でもモテるんだなと悟った日でもある。
まずは製造開発課からの案内をしてもらえると一番奥まで3人で歩く。
「どうして私服の人とスーツの人がいるんですか?」
素朴な疑問を投げるーーー。
「ーーーああ。製造開発部の人は基本的に中での作業になるし汚れることが多いから私服で来てもらっているんだ。時々打ち合わせが入る時はスーツで来るか、会社にスーツを置いている人もいる。逆に営業や企画や流通など頻繁に打ち合わせがある人たちはスーツで出社することが多いね。椎名だったり有坂だったりオレとか・・・主任以上の人は急な打ち合わせに参加することも多いからスーツが基本になってるね。」
と製造開発部に着くまでの間に丁寧に教えてくれた。
「製造開発課の課長の森田です。」
丁寧に挨拶をしてくれ、私はその作業をただ目で見る。
決して綺麗とは言えないデスクに散乱されている図面の量に驚く、
ほとんどの図面にバツが書かれていて失敗なんだなと思った。
そしてその近くにあった豆粒みたいなものに目がいき、それが大量にあるからなんなんだろうと思った。
「この豆粒みたいなものはなんですか?」
その場にいた数人が固まった瞬間でもあって私は失言でもしたのだろうかと焦る。
「豆粒!?ーーーこれを豆粒って言ったか!?」
森田さんが私に向かっていう、すごく驚いた顔をしている。
「えっ、この小さい茶色いの。豆みたいじゃないですか?これは何に使うんですか??」
「豆つぶ・・・笑」
と耳元に聞こえてふと見ると海斗さんが笑いを堪えているーーー。
「大学生いやだ!!だからイヤなんですよ!!」
突然怒り出す森田さんーーー。
「ーーーー豆・・・(笑)」
森田さんが怒っているのなんか気にしないで笑いを堪えている海斗さん。
椎名さんが笑ってる・・・?あの子が笑わせたの・・・?
という声も聞こえてくるってことは普段の彼は笑わないのかなと思う。
「あははっは!!面白いじゃないか!!森田、若い子の意見も大事だぞ(笑)」
本部長さんが森田さんに告げる。
「そうですけど・・・豆粒ですよ!!??」
「豆じゃないならなんなんですか?!初めて見た人に分かるように教えてください。」
笑われてばかりでムッッとした私は森田さんに告げる。
「ーーーこれは詳しくは話せないが一つの部品だ。これは電車の接続図面だ、こっち側とこっち側をくっつける大切な部品がこれ。」
図面を見ながら詳しく教えてくれた森田さん。
「・・・なるほど、命みたいなものですね!」
「えっ!!!」
今度は全員が驚いて私を見る、なんなの一体・・・
「だってこの部品がなかったら動かないんですよね?私たちの体も心臓がなければ動かない、大切な命ですよね?それと同じなのかなって・・・」
「感心した!そう、そうなんだよ!命みたいなものなんだ!!だからこれがどれだけこの接続部分に大切なものなのか、失敗は許されないんだ!」
「ーーーいわゆるペースメーカー的存在ですね!」
さっきまで怒ってた森田さんは同志でも見つけたかのように私の手をガッシリ掴む。
それにびっくりして私の体もビクッと震えた。
少しだけ業務を拝見させてもらい、次は企画開発課に案内される。
ここには美琴さんがいて女性初の課長を任されていて、テキパキと部下に指示を出している。
厳しい元で育つとその人たちも慣れるのか、全くそつなくこなしている。
企画開発課は他の課に比べたら女性が多く10人中4人が女性だった。
ーーー基本的に新卒採用はしていない課らしくて、みんなベテランな人が集まっているイメージを大きく持った。
次に陸さんが主任を務める商品開発課は企画課から企画されたものを技術開発課が開発して製造され、流通を通して商品化にするのを主に行なっているという。
流通と似ているのかなとも思ったけど、微妙に少し違うことを指摘された。
そして先ほど案内をしてくれていた有坂さんがいる技術開発課。
企画されたものをどのように商品かに持っていけるかを念入りに話し合いながらみんなと協力して開発していく課。
コミュニケーション能力が求められる課でもある。
だからああやって楽しさやユーモアのある有坂さんが選ばれたのかなって勝手に思った。
技術職なので理系の人が多く、女性もおばさん1人しかいなかった。
「あとはこの前会った本間くんが営業部にいて営業部は10階にある。特に本間くんのいる貿易課は流通とすごく似ていて、海外を主に対象として営業をかける課になってる。開発部とは関係なさそうに見えるけど営業部と開発部は深い関わりを持ってるんだよ。時間があったら後で案内してあげるね。」
丁寧に本部長に捕捉された。
「ありがとうございます。」
「で、椎名は開発部全体をまとめている。一つの課がミスすればもちろん椎名や俺に報告が必ず来る。」
「ーーー大変そう・・・」
「問題が起きた場合、主任や課長で対応できなかった場合は副部長の椎名が対応する。基本的にそこで解決するけど稀に解決できないこともあって、そういう時は上の俺が対応することになっているよ。」
海斗さんの個室に案内されながら話を聞く。
副部長クラス以上は仕事量が半端ないのでゆとりを持った部屋が用意されているんだって。
ガラス張りになってて中からも外からも一応見れるようにはなっているって。
「この作りは他の部署も同じなんですか?」
「ーーー同じだね。」
海斗さんは自席に戻りながら資料に目を通しているーーー・・・。
彼のデスクも決して綺麗とは言えないけど、大量の資料や紙でたくさんで整理しきれないことは伺える。
「ーーー開発部は終わりだけど、他に見たい部署はないのか?」
海斗さんは私に問う。
こんな大量な資料を目の前にして航空製造部を見たいなんて到底言えない。
「大丈夫です、大体は分かりました!」
「どう?インターンやりたいって思った?」
ズイズイ本部長さんは私に近寄りながら聞いてくるので私は後退り。
「ーーーもう少し考えます。」
「待ってるから(笑)ーーーもう終わりならお昼だし、椎名、下まで送ってやれよ。」
「あーー・・・そうですね。ついでに昼も食ってきます。」
「今日はお二人とも、忙しい中ありがとうございました!有坂さんにもお礼をお伝えください!!」
深くお辞儀をしたーーー。
「陸ーーー!!彼女を下に送っていくから、そのまま飯行こうぜ!」
「おっ、おう!!!」
本部長に「またきてね〜〜」なんて軽々しく言われながら陸さんも海斗さんの隣に並び、
私は後ろに回った。
「お忙しい中ありがとうございました!お邪魔しました!」
大きな声で開発部に向かって挨拶をして、
エントランスまで私たち3人は移動した。
「どうする?飯食ってから解散するか?」
エントランスで海斗さんはいつもの海斗さんになり、私に問いかける。
「いえ、今日は帰ります。」
「ーーー俺もいるから大丈夫じゃない?」
陸さんはそう言ってくれたけど、その問題ではない。
「すいません、慣れない場所でめちゃ疲れて帰って寝たいです(笑)」
そう、ただ疲れた。
その理由だけでとにかく私は眠りたかったのだ。
「ーーーなんだそれ(笑)気をつけて帰りな。」
「今日はお忙しい中、ありがとうございました!」
お礼だけ伝えて私たちは解散した。
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