#10.
月曜の夕方に私は海斗さんから着信を受けた。
忙しい中の電話だったようで背後から「椎名さん!!!ミーティング!!」と言う声だったり、
海斗さんが小走りしている様子がうかがえた。
忙しい中に逆に電話をもらってしまったことに対して私は申し訳なさを強く感じた。
・
電話の内容としては会社見学の件、本部長は喜んで承諾してくれたという一言だった。
最短で金曜日の午前中、予定の確認の電話だった。
もちろん私に予定なんかあるわけもなくてその日に決定した。・
「会社のみんながいる手前、俺たちが交際していることは口外しないで欲しい。隠したいとかではなく、私情を挟んで雪乃をインターンに誘い込もうとしているなど変な噂を立てられるのはお互いにとって不利だと思うから。」
私の気持ちをフォローするかのように丁寧に伝えてくれた。
「もちろんです。」
「俺もお前のことは一切何も話さないから。じゃ、金曜よろしく!本部長にも伝えておく。」
本当に忙しくて彼はそれだけ言って電話を切る。
ーーーこの様子では金曜まで会えないと私は悟った。
でも大丈夫・・・
この前たくさん濃厚に愛された痕がまだ私の体にはたくさん残っているから。
しばらく消えそうにないから寂しくなったらこの体で海斗さんを想うから大丈夫。
金曜日を迎えるまでに一応彼の会社がどんなことをしているのか自分なり調べた。
私が思っていたより大きな会社でいろんな部門を扱っている会社だった。
ーーー大学で言えば総合大学みたいな、
一つのものだけに特化しているわけではなくていろんなものに特化して分野を広げ、
その分野ごとに専門の人がいるみたいだった。
私が一番興味を持ったのは航空製造部で多分飛行機の部品を全般に扱っている部署なんじゃないかと推測している。
もともt空が好きで飛行機も大好き。
大好きな飛行機が一から造られて飛行する瞬間を自分の目で見たいとも思った。
次に興味を持ったのは海斗さんが副部長をしている研究開発部。
まだ何に対して特化しているのかまで把握はできなかったけど、HPから取ると色んな分野に手を広げて研究開発をしているようではあった。
多分色々なところに足を運び目で見て、それらを元に自分たちで新しいものを開発していくんじゃないかな。
商品が出来上がるまで開発の力がなければ何もできないし、とても重要な部署なんじゃないかなと思う。
ーーーそこの部長にもうすぐなろうとしている海斗さんはやっぱりすごい人なんだと実感している。
ただ開発から製造・商品化となるにはかなり頭を使うと思うから直感で動く私には向いていない気もする。
三つ目に興味を持ったのは商品企画部。
どう言った商品になるかもわからないけど、ここは自分で企画して商品化する楽しさを味わえる気がした。
自分が発案したものが商品化になった場合、相当の喜びややりがいが得られるのではないかと悟った。
・
「今日はよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いします。海斗さんと本部長は急な会議が入ってしまってゴメンね・・・」
当時を迎えてエントランスで海斗さん達と待ち合わせをしていたけど急遽会議で有坂さんが来てくださった。
「とんでもないです。お忙しいのにこちらこそ申し訳ないです!」
「中田さんは礼儀正しいね!」
「そんなことないです!」
受付で来客証明を頂いて有坂さんの隣を歩かせてもらう。
「この前と印象がだいぶ違うよね(笑)」
「今日は就活の格好なんで堅物です!」
この前は完全オフで私服だったけど今日は就活と同じだと思っている。
髪の毛も一本に結びスーツを着用した。
本当は一本結びは顔がキツくなるから好きじゃないけど、今日は仕方ない。
「この会社は結構学生が見学に来ることも多いから、緊張しないで大丈夫だよ。」
「ありがとうございます。」
エレベーターに乗り9階で降りるーーー。
「9階は開発部全部でまかなってて、8階にはスタバがあるよ。本部長に言えば割引券もらえるから絶対に言ったほうがいい。」
「なるほどーーー・・・」
少し進むと大きな部屋がAやBやら書いてある。
「ここが大会議室ね、今本部長たちが会議しているよ。」
きっといくつかあるうちの一つの大きな会議室で打ち合わせをしているんだねーーー。
「ここが給湯室。何か飲みたいものがある時にボタンをこうやって押せば出てくる。」
そう言って試しにオレンジジュースを差し出してくれたのでせっかくだから頂いた。
飲み物だけじゃなくてエチケットみたいにキットカットやチョコレートなど小さなお菓子も置かれている。
「会社ってすごいんですね!」
「えっ、何が・・・?」
有坂さんはキョトンと不思議そうな顔をしている。
「だって飲みたいものも飲み放題でお菓子も食べられるなんて最高ですね!!私・・・ずっと食べているかもしれません!」
と言いながら一つ拝借した。
「あはは!確かに女子社員の出没率は高いらしいけど(笑)」
「でも太るかな!?食べすぎなければいいですかね?1日の摂取カロリーを超えなければセーフですかね!!」
「あははは!!ーーーごめん、ちょっとストップ!!!」
1人でべらべら話す私を有坂さんは一旦止めた。
「あっ・・・話しすぎましたね。すいません。」
「いやいや、そうじゃなくて!ツボった!!笑った!!・・・わはははは!!!」
すごく面白そうに笑っているけど、私は何か面白いこと言ったかなと考える。
でも楽しそうだから良いかなって思った。
「なんか・・・ごめんなさい」
「いやいや、笑ってごめんね。次にいこうかーーー・・・」
給湯室を出てトイレの場所と休憩室の場所を教えてもらう。
「結構広いんですね。」
「そうだねーーー開発部が一番大きいから階全部を使っているからね。」
私は田舎から都会に出てきた小娘のように右を見ては左を見てはとキョロキョロしている。
「雪乃ちゃん!」
有坂さんとフロアを歩くーーー、
そしてやっと会議が終わった人たちが会議室から出てきた。
「本部長さん、今日はありがとうございます。」
深々とお辞儀をする。
「有坂も助かった。」
ーーー本部長の隣にいる海斗さんが有坂さんにお礼を伝える。
「えっ、今お礼言いましたか?海斗さんがお礼、言いましたか!?(笑)」
「お前・・今の撤回するわ(笑)」
海斗さんは有坂さんと楽しそうに話しているーーー。
「嘘ですって!本部長と海斗さんの知り合いなら喜んで引き受けますよ。結構面白い子でしたし・・・」
「だろ???面白んだよ、この子・・・(笑)」
本部長が有坂さんに伝えて、私は海斗さんに口パクで何かしたのか?と聞かれて分からないと表情を返した。
今のこの状況だけ見ていてもこの会社の人間関係は良好なんだなって思う。
「あっ、そういえば吉岡に今回のミスは許されないって伝えておけよ。主任の役目だ(笑)」
「えぇぇぇ、罰ゲームっすか?」
就職をするにあたり人間関係って大事な要素の一つだと思う。
上司とのかみ合いが悪くて退社に追い込まれてしまう人も多くいると聞くから、
こういう楽しそうな現場を目の前で見るのは私にとっては良い刺激となる。
「仲良いよね。」
有坂さんと海斗さんのやりとりを眺めていると本部長が私に問う。
「なんか・・・兄弟みたいですよね。」
「椎名が副部長になってから部署の関係が良くなって、特に有坂と椎名の相性は良くて2人のおかげで部署がまとまっているのもあるかもね。」
「すごいですね・・・」
私は2人を眩しそうに見る。
クールで淡白だから友達なんかいないとか言ってたけど嘘。
彼がそう思っているだけで、きちんと周りに慕ってくれている人がたくさんいるってことがわかって嬉しかった。
「もう開発部内は案内したのか?」
「ーーーいえ、これからです。」
有坂さんは本部長に答えるーーー。
「有坂、午後一で客先だろ?あとは俺が引き継ぐから仕事に戻ってくれていいよ。」
「はい、じゃあお言葉に甘えて。」
有坂さんは社員証を使って中に入るーーー。
「本部長も午後打ち合わせっすよね?あとは俺が引き継ぎますよ?」
午後はみんな忙しいようでそろそろ準備に入るみたい。
「あの、私これくらいで十分です・・・」
と伝えたけど。
「何言ってんの?開発部、見てないんだよね?なんのために今日見学に来たかわからなくなっちゃうよ。」
「そうですけど。みなさんお忙しいですし・・・」
「俺は午後は打ち合わせ入ってないので、俺が引き継ぎますよ。」
海斗さんは本部長に伝えるーーー。
「ーーー断る。椎名が・・・お前が一緒に彼女と行動していたら怪しまれるだろ。一応今日は俺の知り合いで話が通ってるんだから。」
「そうっすね。ならお願いしますよ。」
「ラジャー。」
私は海斗さんに会釈して、
彼もそれに応えるように微笑を浮かべて開発部の中に入っていった。
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