#104.
ハロウィン当日、
私は環たちいつものメンバーと先輩の試合に行く約束をしていた。
「樹さんには黙って来た?」
「うん、言われた通りに試合に行くこと言わなかったよ。」
環には先輩には絶対に内緒で試合に行くよって言われていたから、
何がなんでも口を滑らせないようにと言われていたから私も言いたいのを必死に我慢して今日を迎えた。
「でもどうして今日は先輩に内緒で行くの?」
「今日は試合後にファン交流ディがあって、一年に一度しかないハロウィン交流会だし、ファンも参加型のイベントだから絶対に内緒にして驚かせたかったんだ!!」
「ーーー先輩、突然行って怒らないかな。」
「樹は怒るんじゃなくて恥ずかしくて怒ってるように見えるんだよね(笑)誤解招きやすいよね(笑)」
一緒にいた正樹先輩が環に代わって答えてくれた。
若干不安ではあったものの、私は笑顔で返事をして…
そのまま私たちは体育館に向かった。
久しぶりに行った先輩の試合、
以前行った時よりも混雑していて前に進むにも中々苦労する。
「大丈夫?俺のシャツ引っ張って良いよ。」
私の前方を歩く須永君が声かけてくれて最初は遠慮していたけど押されて倒れそうだったので甘えることにした。
ーーー須永君の話によればファン参加型のイベントは年に1度しかないし、
増してやハロウィンとなるとみんな本気を出して挑んでくるから過去一で混雑するんだと教えてくれた。
それは先輩の試合だからではなくて、
大学のリーグ戦もファン参加型試合は一番混むと教えてくれた。
私は目立たないように、控えめに行動しようと思って後部座席に座った。
本当は私がいつ来ても良いようにいつも1番前の席を取ってくれている、
だけど今日は環も後部座席に座ったし私も先輩に内緒で来ている以上、目立つ行動は控えた。
やっぱり何度来てもバスケのルールは分からない。
分かろうとしてないんじゃなくて、本当にルールが複雑で私にはとても難しい。
だけど理解してない私でも分かるくらいに今日の対戦相手はとても強く、
先輩のチームが手に出せない程だった。
「ーーー負けることもあるんだね。なんか先輩の学校は強いって思ってたからビックリした。」
「そりゃ負けるよ!絶対に負けないチームなんて存在しないと思うよ(笑)」
どんなに応援しても届かない声がある、
その象徴のように今日の試合は完全完敗だった。
試合に怪我で出られなかった日、先輩は非常に機嫌が悪いことがあった。
今回は試合で負けてしまったから、また機嫌が悪いんじゃないかなって思って様子を見たけど・・・
ハロウィンのイベントがあるからなのか、
とても忙しそうにしていて、吉岡さんたちと楽しそうに団欒している姿も見えてちょっとホッとした。
それに日曜日に会ったばかりだし、昨日も電話で話したばかりだったからあまり距離感がなくて。。。
なんだか先輩を身近に感じることができて胸の鼓動が高鳴った。
しばらくしてからハロウィンイベント開始のアナウンスが流れて、
座席に座っていた私たちも順番に選手たちが並ぶ体育館に案内をされた。
事前に配布されていた色分けでどの選手に当たるかが決まり、
私は緑色で吉岡さんのチーム、ピンクだった環は森田さん、須永くんも私と同じで緑。
正樹先輩は黄色で樹先輩のチームだった。
「交換する?」
正樹先輩はそう言ってくれたけど、まだダメ!今じゃない!と樹先輩にまだお披露目は出来ないと私より先に環が断っていた。
「須永と一緒で心強いね!良かったね!じゃ、後ほど!」
マイペースな環は言いたいことだけ言って自分の色の列に並んだ。
ーーー本当に人がたくさんでこの中で一体何をするのだろうと不思議で仕方ない。
1つ目のゲームはボディしりとりで体のジェスチャーで何を伝えているのかを想像して、次の言葉を考えて体で伝えるゲームだった。これは私たちのチームは完敗で、特に須永くんは私が何を体で伝えているのか全く理解してくれなくて、ただ私の動きが面白からとお腹を抱えて大笑いしていた。
2つ目のゲームはキャッチボールクイズと言ってバスケットボールを誰でも良いから投げてそのボールを受け取った人がお題に答えるというゲーム。これに勝敗はなかったけど、自己紹介を兼ねていたり他の人との交流を兼ねて選手たちが考えてくれたんだと思う。
3つ目のゲームはドッチボール。
ーーーほとんどの参加者が女子しかいないこの状況で須永くんや正樹先輩という稀に来た男性メンバーが活躍する場でもあった。
「ーーー柊、あっちで座ってる?」
私の足が悪いことを知ってる須永くんは気を遣ってくれている。
だけど私はそれに甘えることしかできない。バッティングに行っただけで足に炎症を起こして手術になった経緯があるので、無理は出来ない。
「役に立たなくてごめん。」
須永くんが吉岡さんに説明して私はベンチに座らせてもらった。
ーーー吉岡さんからも「応援しててね」と普通に話しかけられたけど、彼は私の存在に気がついてない様子だった。
それもそのはず、今日はセーラームーンの格好だから。
最後の仮装ダンスで先輩がタキシード仮面になると正樹先輩を通して聞いたから私はセーラームーンを選んだ。
本格的に髪の毛のかつらをウサギヘアで購入して、衣装も買った。
顔もバレないように伊達メガネをして完全変装している。
こんなミニスカ普段履かないから寒いし恥ずかしいけど、今この場所でだけだからと思い我慢している。
あわよくば先輩と踊れるかなと思ってセーラームーンにしたけどこんなに人がいたら厳しいかなと今は半分諦めている。
ベンチからドッチボールの試合を眺める。
人が多すぎてチームの中でも何組かのグループに分かれて何回かに分けて試合が行われた。
樹先輩たち選手は全ての試合に参加していたけど、みんながみんな楽しそうにしていたし、
協力しあっているのを見て凄いなぁと感心した。
この短時間で距離は縮まるんだな、と。
だって普通に樹先輩はファンの女の子とボールを当てたらハイタッチしてる、
楽しそうに笑ってる。それがちょっと羨ましかった。
環を見ても同じくすごく楽しそうに試合に参加している。
森田さんと意気投合したのか抱き合って喜んでる、それが環の良いところでもあるんだけどね。
流石の環の強さでこのチームが優勝した。
正樹先輩や須永くんのいるチームを負かしたことにめちゃくちゃ喜んでいる環に私も笑いが起きた。
最後のファンサービスダンスでは基本的にファンの子と順番に踊ることになっているみたい。
環は私にグッと堪えてねと事前に伝えてくれていたので、先輩が誰と踊っても気にしないように覚悟を決めてきた。
だけどいざ本番になると、誰と踊るのかなと気になって仕方なくて視線を追っては下に下ろしてしまう自分もいた。
さっきハイタッチした子と踊るのかな。
今誘われている子と踊るのかな、と思うと少し複雑な心境になる。
気になるけど見たくない光景…
だけど着替え終わって戻ってきた先輩は「ゴメンね。」とハイタッチした子にも踊ってと頼まれた子にも断ってこっちに歩いてきた。
「セーラームーン、俺と踊ってくれますか?」
私が座るベンチの前に立ち、私にダンスを一緒に踊れと言っている。
先輩の背後にいるファンの子達は「えーーーー!!!」と叫ぶ。
「えっと….私は…」
戸惑いを隠せずに困惑した表情で先輩を見上げる。
「ーーーバレバレなんだよ。俺がお前以外と踊ると思うか?(笑)で、踊ってくれますか、姫。」
「ーーーはい」
私は差し伸べられた先輩の手を取った。
放置されたファンの子達はぶつぶつ文句言いながら引いて行ったけど、私は先輩の印象が悪くなるようで嫌だった。
「ーーーどうせ環が考えた案なんだろ(笑)」
「そうですけど・・・乗ったのは私だし、タキシード仮面の隣でセーラームーンしたかったし(笑)」
「・・・隠すの苦手なのによく頑張ったな(笑)」
私を抱きしめるように先輩は踊ってくれている。
「ねえ先輩。」
「ん?なんだ?」
「後ろからの視線がすごく熱くて怖いです(笑)だから・・・踊ってあげて?」
「いやいや、これは任意なんだよ。ほら、吉岡さんだって踊ってないだろ?」
「そうだけど・・・ちょっと気の毒じゃない?それに先輩の印象が悪くなるの嫌だ。・・・私なら大丈夫だから。覚悟決めて見ているから。」
真剣な眼差しで彼に伝えた。
嬉しかったけどーーー
真っ先に私のところに来てくれて嬉しかったけど、選手だったらファンも大切にしないとダメだと思う。
「ーーーじゃあこの後、まっすぐ家に帰って。家で待ってて。俺も帰るから。」
「え、みんなとのご飯は?」
「ーーー行かない。セーラームーンで待ってて。家で踊るぞ。約束できるか?」
「ーーー約束する。」
その言葉を聞いて先輩は私に微笑んで、彼を待つファンの子たちの方へと歩き出した。
多分1人一分くらいしか踊ってないーーー。
それでも任務は果たしたとでも言いたい、そんな顔で先輩は私を見ていた。
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