#98.
1人トボトボと帰宅する途中、
私は自宅の近くに新しくオープンしたカフェを見つけた。
その名も【 HANABIYORI 】で自分の名前が入っていることになんだか小さな幸せを感じた。
・
自宅に戻ってテレビを見ていると先輩が帰宅した。
時計を見ると20時を過ぎた頃、案外早かったなと思った。
「・・・ただいま。」
「おかえり。夕飯は?」
もうすっかりと落ち着きを取り戻していた私は何事もなかったかのように先輩に問いかけた。
「軽くミーティングで出たから大丈夫。」
「オッケ。・・・今日は急に行ってゴメンね。」
私は今日のことを素直に謝罪した。
驚かせたかったとは言え相手の都合を考えずに勝手に行ったのは私。
きっとそれは先輩の中ではダメだったんだと思う。
「ーーー本当は嬉しかった。」
上から降ってきた言葉に耳を疑うように先輩を見ると、さっきと同じように私から視線を外した。
「えっ?」
「来てくれたことも花に会えたことも本当はすごく嬉しかった。だけど恥ずかしーだろ、先輩や監督がいる中で…。」
あっ、そっか…
迷惑だから視線を外したのではなくて、恥ずかしかったから視線をそらしたんだと納得する自分がいる。
もうすぐ付き合って3年がたつというのに不安になると普段は理解できていることが出来なくなるのが嫌だな、と自分自身に思った。
「いやな態度取って悪かった…」
その言葉を聞いて私はなぜか先輩のことが愛しくなり強く抱き着いた。
「いつも謝らせてばかりいるよね、私も先輩の都合とか全く考えられなくてゴメンね。」
先輩は私と視線を絡ませて、私を抱き上げた。
うぁぁ、と言う私の声にクスッと笑っては私をキッチン台スペースに乗せた。
「これで目線が同じになるだろ。」
ふざけるように先輩は私の目を見て笑って、すぐに唇を奪った。
私もそれに応えるように必死に食らいつく。
「…はぁはぁ」
それでも彼は強く私の唇を奪うから私の息遣いが荒くなる。
「ーーーお前は、普段幼いのにこういう時は大人のフェロモンを出すよな・・・」
「えっ、どういう・・・?」
私から唇を離したと思えばよく分からないことを口走る先輩に疑問を問いかける。
その答えは返ってこなかったけど、彼は私を強く抱きしめて言った。
「今度の遠征、一緒に来いよ。同じ部屋とかはさすがに無理があるけど、応援に来て欲しい。」
「ーーーうん。私も行きたい。」
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時計の針はもうすぐ日付が変わろうとしている。
私はお風呂から上がってからずっと先輩の手を握っている。
ーーー正確に言えば彼の寝顔をずっと眺めているが正しい。
少しだけ寝かせて、と言われてすぐ眠りについてから一時間半、
少し足にしびれを感じ始めたけど、これはこれでとても幸せな時間。
ーーーそれよりも先輩が極限に疲れていることが伝わって来て気を使わせてしまっていることに申し訳なさを感じた。
0時を回ったところでこのままソファで寝かせるわけにもいかないと思った私は先輩を起こす。
何度声を掛けても「ん・・・」と言う言葉だけが返って来てまた眠りについてしまう。
ーーー何度起こしても起きる気配がなかったので、
私は寝室から布団を持ってきて先輩にかけて自分も寝室のベットで眠りについた。
1人で寝るのは好きじゃない、不眠症だから不安だったけど…
近くに先輩がいると言うことだけで安心感があって、ぐっすり寝ることが出来た。
・
朝、目覚めると先輩は私の横に抱きしめるように眠ってた。
ーーーいつどのタイミングで寝室に移動してきたのか分からないけど、
同じ空間にいられることがすごく幸せを感じた。
私はぐっすり眠っている先輩を起こさないようにベットから出て仕事に行く準備をする。
先輩が休みの日は私も休みたくなる、
だけど私はこれでも一応社会人だからそうはいかない。
ーーーそれに自分に合わせられることを先輩は嫌うから、私は自分の優先すべきものを優先しなければならない。
朝食を作っててもお弁当を作っていても先輩が起きる気配がない。
出勤時間ギリギリに寝室を覗いたけど起きる気配が本当にない。
ーーー気持ちよさそうに眠っててそれはそれで羨ましい気持ちにもなった。
私も一緒に横になりたいという気持ちを抑え、
眠る先輩の頬に軽く触れて行ってきますのキスを落とした。
ーーーそれでも起きなかったので私はそのまま仕事に向かった。
《 朝食うまかった。お弁当もありがとうな。花も頑張れ。》
先輩からのメールは11時ころ来ていて、昼休みにそれを見た私は愛菜さんに分かりやすいと言われた。
ほんの少しのメールでやる気が出る、私も単純だとは思うけど…
折角お休みの先輩に合わせて今日は絶対に定時で帰りたいと午後は午前以上に力を発揮した。
「ーーーえ・・・」
定時で上がった私は急いで先輩に今から帰るとメールを送るけど既読だけで返事はなかった。
特に気にすることもなく職場の最寄り駅に向かうと、
自宅にいるはずの先輩が私を待ってた。
「暇だったから迎えに来た。駅前に美味しそうなカフェが出来てたから、飯食って帰らないか?」
嬉しくて、それこそ驚きで私は先輩の腕に力強く自分の腕を絡ませた。
「私も昨日そのお店を見つけていきたいと思ってたの!HANAって名前が入ってるんですよ!!」
「ーーー楽しみだな(笑)」
新しく出来たカフェはオープンしたばかりですごく混んでいて、
さすがに待てないと思って結局いつも行く定食屋さんで夕飯を食べて帰宅した。
「いつも夕飯しか出かけられなくてごめんな。」
家についてくつろいでいると先輩が突然言った。
「えっ、どしたんですか?」
「いや。本当は週末とか出かけたいだろうなって思ってさ。」
「ーーーもともとインドアなんで出かけたいと言うよりは先輩と一緒にいられたら嬉しいかなって思うだけです。」
「・・・いつかその敬語も先輩も取れたら良いんだけどな(笑)」
「あはは・・・」
・
その夜、私たちは初めてキス以上まで進んだ。
もちろん最後まではしてない、
だけどこの日、先輩は自分を止めることが出来なかった。
「ーーー最後までしないから。頼む・・・」
そんな苦しそうな先輩を見るのは初めてだった。
彼は優しく私を包み込み、そっと下着を外し、そっと私の膨れ上がる部分をいじった。
「んっ。」
彼の手が触れるたびに私は自分じゃない声が出て、先輩もそんな声が愛しいと言ってくれた。
「あぁぁ・・・」
彼の口の中に私の膨らみが運ばれたときーーー。
感じたことのない快感が走って自分でも知らない声が出た。
「声止めないで・・・」
焦って口を押える私を、
まるで赤ちゃんのように私の膨らみを吸う彼が見上げて言った。
ーーー欲しい。
この人が欲しい。
そう強く思った。
多分、そう思ったのは私だけじゃない。
ーーー先輩も同じだったと思う。
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