【 君がいる場所 】#97. タイミングが悪くて…*。

君がいる場所

#97.

金曜日の早朝、
私は九州に向かう先輩を自宅から見送った。

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寂しくないと言ったら嘘になる。
本当はめちゃくちゃ寂しい。
でもきっとそれは先輩も同じだと信じたいから私は笑顔で送り出した。
ーーーそれに応えるように先輩も笑顔で行ってきますと言った。

私は二度寝して仕事に遅刻しないように向かう。
もし今日が土曜日だったら・・・
きっと私も先輩を追いかけて福岡まで行っていたかもしれない。
だけど大丈夫。
たったの3日、月曜日には先輩に会えるから。
そう切り替えて仕事に集中した。

私の仕事ぶりはだいぶ慣れてミスもかなり減った。
逆に先輩たちのミスをこちらから指摘することも今は多くなった。
ーーー自分で少しずつ成長している、そんな気がしている。
職場は楽しい、仕事も楽しい、職場の人たちも私は大好き。
今のこの環境にはすごく恵まれていると思う。
ただランチだけ・・・
男性の多い職場だからラーメンが多くて、コッテリが苦手な私は自宅からお弁当を作ってくるようになった。
そして生後3ヶ月のベビを抱えた愛菜さんと一緒に食事をすることが増えた。
女同士の話・子育ての話・先輩との恋の話などいろんな話をする。
今この時間は非常に充実していて楽しい時間。
食事中は基本的に就寝しているベビがフニャッと笑ったり突然泣き出したりする姿も愛しいと思う。
そして愛菜さんの赤ちゃんを見る度に、北斗くんに会いたいと思う自分もいる。
親バカ・・・叔母バカっていうのはこういうことを言うんだなと思った。

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家の掃除や買い出しや作り置きをしていると週末なんてあっという間に過ぎていく。
特に先輩がいなかった今週は断捨離をしたこともあって時間は本当にあっという間だった。
一緒に暮らしてまだそこまで長くはないはずなのに、
自分のものだけでも3袋も不用品が出てきたことに驚いた。
ーーー元々物を持つ人間ではなかったから余計に不要だと感じるものが多いのかな。

不要な服や雑貨を捨てるのはもったいなくて売りに出た日曜日、先輩から着信を受けた。
ーーー邪魔はしてはダメと思ってこちらから連絡していなかったからこそすごく嬉しい着信。
何してんだ、から始まり先輩の試合のことだったり福岡のご飯の話。
日常のささやかなことを話してくれる、
それが私はすごくすごく嬉しかった。
「で、お土産何が良い?」
電話の内容はわかってたけど、いつものお土産催促。
本当は無事に笑って帰ってきてくれるだけでも良いと思ってはいるけど先輩にはそれは通用しない。
だからいつも適当に頼むけど・・・
福岡は明太子が有名だけど、お土産に明太子を頼むわけにはいかない。
「博多通りもんが食べたいです。」
昔おばあちゃんの家によく置いてあったこのお菓子、甘くておいしいお菓子だなと思ったの。
「ーーー食いもんかよ(笑)」
楽しそうに私の話を聞き、楽しそうに電話を切る先輩に早く会いたいと心から思った。

そして先輩が帰宅する月曜日、初めて午後休を取った。
福岡には先輩は飛行機で行った。
新幹線でも行けるけど長過ぎて逆に疲れるだろうというコーチの的確な判断だと言ってた。
帰りも飛行機なのは知ってたし、ある程度の時間は冷蔵庫に貼ってある日程表で確認した。
午後四時半、羽田空港に着陸予定。
出てくるのは五時前だと思って私は四時過ぎに羽田に向かった。

空港って不思議、
飛行機に乗るわけじゃないのに気持ちがワクワクする。
到着ロビーで待ち、出てくる人を眺める。
幸せそうな家族。
楽しそうな友人同士や恋人。
空港にはいろんな物語がある、そんな気がした。

そして本当に五時前、先輩は到着ロビーに来た。
「はなちゃん!!」
最初に出てきたのは森田さんで、彼はすぐに私に気がついた。
ーーー声が大きくて気まずくて私は会釈で返す。
「・・・樹は荷物をまだ待ってるから、もうすぐじゃないかな?」
森田さんと一緒にきた吉岡さんが丁寧に教えてくれる。
「ありがとうございます。約束しているわけではないので、待ってみます。」
「ーーーでもこれからミーティングあるから少ししか会えないかも?」
「大丈夫ですーーー。」
そんな話をしていると、樹先輩が吉岡先輩の彼女のアリサさんと一緒に出てきた。
アリサさんは私が入院した時にお世話になって顔見知りだから知っているし、何かと応援してくれている。
「えっ、花!?約束してたっけ?」
「・・・ううん。会いたくて来ちゃった。」
素直に気持ちを伝えると先輩は一瞬だけど私から視線を逸らした。
「会いたくて来ちゃったって、俺も昔は言われてたんだけどなぁ。今は邪魔者あつかいだよな、アリサ!」
吉岡さんがアリサさんにちょっかい出していたけど、
アリサさんは少しだけ2人で話してていいよって時間をくれた。

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「ごめん、今からミーティングをそこのホテルで・・・」
「ううん。ただ私が寂しくて来ちゃっただけだから。逆に迷惑だったかも、ゴメン・・・」
先輩の表情を見て喜ばれていないのは分かったから来てしまったことを後悔、そして謝罪した。
「ーーー樹!行くって!!」
「はい!」
タイミング良いのか悪いのか、ちょうど全員集まったようで森田さんに呼ばれた。
「じゃ、私も帰ろうかな。ーーー楽しんでね。」
「なるべく早く帰るから、ゴメンな。」
私は苦笑いをこぼして、先輩とは逆の方向を歩き出した。

そう。
先輩とは約束していたわけじゃない。
ーーー私が勝手に来たの。
これからミーティングがあるなんて知らなかった。
てっきり解散できるもんだと思ってたの。
だから…突然行ってももっと喜んでくれるかと思ってたの。
自分の行動が情けなくて、
先輩の態度が悲しくて悔しくて私は涙を流しながら歩いた。

「花!待って・・・やっぱ・・・」
少しずつ歩きエスカレーターで降りる時、追いかけて来た先輩に手を掴まれた。
・・・咄嗟に振り返ってしまった私の涙を見た先輩は心底驚いた。
「ーーー見ないで。」
涙を流してるのを見られたくなくて、
驚いて硬直してる先輩の手を離して自宅に急いだ。
ーーーそんな噛み合わない、
私たち2人だった。

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