【 君がいる場所 】#101. 焦る心*。 – Itsuki Side –

君がいる場所

#101. – Itsuki Side –

花に会ってお土産を渡し、
寮に戻るとテレビの前に森田さん・吉岡さん、アリサさんが団らんしていた。

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「どこ行ってたんだ?コーチが探していたぞ。」
「自宅に戻ってアイツに会ってきました。」
「おーーー、お土産か!めちゃ悩んでたもんな!ちゃんと渡せたか?!」
吉岡さんたちと遊園地に行った時に買ったお土産の話になった。
これはアリサさんが可愛いと言って自分に買うか悩んでいたのをちょうど見かけて、
自分も花が好きなんじゃないかと思って購入に至った。
「はい、渡せました!」
アリサさんと遊園地の話題で盛り上がるも、先ほどから森田さんはテレビに集中していて全く会話に入ってこない。
「サプライズでお土産とかもらったら嬉しいよねぇ★」
「オレはそういうのしないからな!(笑)」
「期待してないわよ!」
2人のじゃれ合いが聞こえて、なんだかこっちまでもが恥ずかしくなる。
「ーーーなぁ、そのお土産って花ちゃん喜んだ?」
突然先ほどまでテレビに集中していたと思っていた森田さんが俺を見て問う。
冷たい視線、というよりも冷酷だった。
「どういう意味っすか?」
「さっきから聞いてればお前ら勝手じゃねぇ?花ちゃんの気持ち何も考えてねーのな(笑)笑えるわ…」
「な、何でそんな怒ってるの?」
アリサさんが森田さんに問う。
「なんでって…花ちゃん樹が遊園地行ったことはもちろんバイトしていたことも何も知らねーじゃん。」
ーーー俺は少し考えた。
「どういうこと?樹くん、花ちゃんに言ったって言ってたよね?」
「…言ったはずですけど。」
監督に直に頼まれた遊園地、娘さんを気分転換に連れ出してほしいと。
2人はさすがにオレも断り、ちょうどすれ違った吉岡さんカップルに監督が話してこの話が進んだ。
ーーーだけどこれは本当に急に決まった話で、2日前の電話で彼女には伝えた。
だけどオレはハッとした。
「ーーー言ってなかったのか?」
「いや、言ったはずなんですけど…。あの日、アイツ凄い疲れてて寝落ちしてて。もしかしたらオレが話したの聞こえてなかったのかもしれないって今…」
ーーー仕事が朝から急がしてって電話でも疲れている雰囲気がすごく伝わって来た日。
オレはとにかく伝えないと花を傷つけると思って自分のことでいっぱいだった。
「そもそもさ、それって行かなきゃならなかったのか?」
森田さんが視線の先にいる吉岡さんにまた問う。
「…監督の娘だし、監督に頼まれたら断れねーだろ…」
「それで彼女が泣いていてもか?」
今度は俺に問う。
「っえ?」
「…花ちゃん、あの日ここに来たんだよ。てっきり知ってるものだと思ったら何も知らねーで、可哀そうだったよ。彼女、ずっと泣いてたよ。私は先輩のこと何も知らない、って何度も言ってずっと泣いてたよ。…そんな彼女にお土産渡すって、残酷すぎるだろ…」
森田さんは俺を睨んだ。
「俺と飯食ってても話はずっと樹のこと。裏切られているかもしれないのに信じたいとも言っててさ、可愛そうだったわ。ーーーあんなに愛されているのにお前は何?ーーーそのお土産をもらった時、彼女どんな気持ちだっただろうね。」
何も言い返せなかったーーー。
森田さんが正論すぎて返す言葉も俺には見つからなかった。
「お前が彼女を幸せに出来ないなら…オレがもらうわ。」
「えっ!?」
オレは森田さんを見ると真剣な眼差しだった。
「お前、何言って…」
冗談が過ぎる、と吉岡さんも割り込む。
「ーーー冗談じゃねえよ。あんないい子、傷つけてさ…お前にあの子はもったいないわ。」
そう言って森田さんはその場を離れようと立ち上がったけどソファに携帯が置いてあることに気が付く。
それをすぐ隣に座ってたアリサさんが取ると、
ちょうどメールを受信したようで彼女はそれを見てしまった。
「えっ…森田君、これ…」
「ーーー返せ。俺、出てくるわ。吉岡、ミーティング欠席でよろしく。」
「おい!出るってどこに…」
吉岡さんが森田さんを呼び止めたけど、森田さんはこちらを振り向くことさえしなかった。
「ーーー多分、花ちゃんに会いに行くかもしれない。」
アリサさんは言いたくなさそうに言葉を濁しながら言う。
「今のメール…花ちゃんで今から会えますか?って書いてあった…。どうするの?良いの?」
ーーー待って、花が森田さんに送ったっていうのか?
「すいません!オレも出てきます!!」
「は!?お前、コーチに呼ばれてんだろ!」
吉岡さんの声を聞かずにオレも寮を飛び出した。
携帯を取り出して花に電話を掛けるーーー。
森田さんと約束をしているなら出かけてしまった可能性もある、
間に合わないかもしれない、
だけどオレは自分に賭けて、
幸いにも電話に出た彼女に安堵を覚えた。

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俺から電話が来て不思議そうな声をしている。
「もしもし」
「花、今から家に戻るから絶対に動かないでそこにいて!!」
「今から?ーーーこれから出かけるの…」
「頼む!急いで戻るから…」
花に断れるも、オレは電話を切って急いで向かった。
自分勝手だと分かっているし、
愛想着かされてもおかしくない行動もしている。
だけどきちんと話し合わないといつもみたいになかったことになって流れてしまいそうで、
花を失いそうで怖い。
「花!!!いるか?」
いるかいないか…
物静かな部屋に不安を覚えるも、明るい照らしに安堵も覚えた。
「どうしたの!?何かあったの?」
奥から何事かと駆け寄ってくる花をオレは強く抱きしめた。
「ーーー出かけなくて良かった。」
「あんな電話もらったら出かけられないよ。何かあったのかなって…」
花は俺の腕から離れて早く入ったら?とリビングまで進んでいき、
本人はキッチンに戻った。
「だけど手短にお願い出来る?わたし、人と約束しているから…」
いつもだったら誰とどこで約束しているのか彼女から言ってくる、
だけど今日はいくら話を聞いても自分から言おうとはしない。
ーーーそれは本当に森田さんに会うと言うことなんだろうとオレは思った。
「行くな。」
「えっ?」
「頼む、今日だけでも良いから行かないで欲しい…」
花は俺を見て苦笑いをこぼす。
「どうしたの?何かあった?」
あまりにも穏やかで優しい口調だった。
「ーーーいや。遊園地のこと…」
「森田さんに聞いたんだね。なら話は早いよね。ーーーこれやっぱり返すね。」
彼女はオレが先ほど渡したキーホルダーを出してきた。
「これは花のために…」
「わたし、先輩がバイトしていることも何も知らなかった。」
「監督に頼まれてて花も仕事で忙しそうな一週間だったからタイミング逃して…」
花は笑った。
「そっか…何年生の子なの?」
「高校三年、花の一つ下で今大学受験を控えている。」
「そっか。相変わらずモテるね(笑)」
「ーーーそういう感情は持たれていないよ。」
むしろ兄貴みたいに慕われていると言っても花は良い気分しないと思って言わなかった。
「…どっちでも良いや。」
一瞬花の笑顔が消え、さっと真顔になった気がした。
「言わなくてゴメン!花には言ったつもりでいたんだ…隠していたわけでも事後報告しようと思ってたわけでもない。」
「もし私が先に聞いていたらきっと先輩は遊園地に行けなかったよ。わたし、嫌だもん、そんなの。」
彼女は微笑を浮かべた、そして言い加えた。
「でも、私もこの前森田さんとご飯に行ったしきっと人のことは言えないよね。」
「ーーー俺は男女の友情は成り立つと思ってるって前にも言ったけど、そこに恋愛感情がなかったら二人でご飯行っても良いとは思ってる。だけど…森田さんは正直あまり良い気分はしない。」
「お互い様なんだね(笑)」
また微笑を浮かべた彼女。
きっと今までの彼女だったらこの時点で既に涙を流していた。
だけど今日は涙の一粒も流さないことにオレは少しの違和感を覚えた。
「花、本当に悪かった…」
「前もそうだったよね。」

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オレは花を見た。
「麗華さんと二人でいるのを見かけた時、先輩は一人でいるとウソをついた。今回は本当に言い忘れただけかもしれないけど、本当は反対されるのを分かっていたから言わなかったんじゃないの?」
「それは本当に違うんだ!」
「ーーーたとえそれが違うとしても、そう思ってしまうのは仕方ないよね?わたし、何か間違えてるかな…。それに先輩は人の気持ちは簡単に変わるって電話でこの前言ってたばかり。ーーー本当は私のこと…」
花が次に何を言うのか予想が付いた。だから絶対に言わせない、言わせてたまるかと思って遮った。
「違う!オレは花のことが好きだし大切に思っている。俺の行き届きのなさで悲しい想いをさせているし愛想着かされてもおかしくないとは思っている。だけどオレは以前と同じよう…それ以上の気持ちを花に抱いている。」
「…だったら…」
花は言いかけてその言葉を飲んだ。
「話してくれてありがとう。起こったこととは言え話してくれてよかった。」
「花、言いたいことがあるなら今言って。」
「ーーーううん。だったら不安にさせないでよって思ったけど、私も先輩中心の生活だからだなって思って…(笑)」
「ーーー花。」
泣きそうな顔をしていても涙を流さない。
「さ!何か食べる??お腹空かない?その前に森田さんにお断りのメールだけするね…」
ため息をついて携帯を取り出す彼女。
俺の背丈から見えた受信歴の1番上には森田さんがいる、頻回にやり取りをしているのがうかがえた。
花は俺の目線にも気が付かずに森田さんにメールを打つ。
ーーー自分の目の前で異性…自分の先輩にメールを打つ花を見ていられなくてオレは彼女を背後から抱きしめた。

「な、なに!?」
「ーーーオレ、花を離したくない…」
自分で蒔いた種とは言え、心からそう思っている自分がいる。
「どうしたの?」
「ゴメン。勝手でごめんな…」
花は大丈夫だよ、と言って携帯をやめて俺のことを優しく包み込んだ。

花は優しい。
出会った頃から変わらずに今も優しい。本当に…。
色んなことを背負ってきて、
だからこそ人の気持ちに敏感で寄り添うんだと思う。
オレは花に甘えたーーー。
花は俺を嫌いにならないだろう、ずっと好きでいるだろうと変な自信がどこかにあった。
ーーーだけど彼女が以前言っていた通りで、絶対はこの世に存在しないんだと痛感している。

今、少しずつ花の心の距離が離れているように感じる。
今までは俺の前ではありえないくらい涙を流していたーーー。
今は…全く涙を流さないどころか笑顔を作ろうとしている。
だけど彼女は森田さんの前では涙を流した。
ーーーあんなに仲良かった須永の前ですら滅多に涙を流さなかったのに。
それはつまり…
心を閉ざし始めているんだろうと思っている。
逆に森田さんに恋愛感情じゃなくても人としてでも心を開き始めているんだとオレは悟った。
どんな感情かは分からない、
だけど彼女が森田さんに惹かれ始めているのは確実で、オレは凄い焦りを覚えた。

ーーー失った信用を取り戻す。
もう一度彼女の心を取り戻す。
そのために変わるべきなのは自分だと悟った。

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