#96.
わたし、もう大丈夫ーーー・・・
一人じゃない。
先輩の力強い言葉でそう思えた。
・
季節は夏も過ぎ、肌寒くなってきた10月。
「来週金曜から遠征して九州で試合、月曜に戻ってくるよ。」
「ーーー分かった。じゃあ、今週末はまだ空いてる?」
「空いてるよ。どこかいきたいところあるのか?」
「うん。・・・お姉ちゃんのところに会いに行きたいと思ってて、一緒に行ってもらえないかな・・・」
先輩は心底驚いた顔をしたけど、
私は笑顔で伝えた。
ーーーきっと穏やかな笑顔を作れていたと思う。
だって自然に出た笑顔だから。
「もちろんついていくわ。」
「ーーーだいぶ歩けるようにもなったし、元気な姿も見せたいし、何より甥っ子に会ってみたい。」
「ーーーお祝い買って行こう。」
「ありがとう。」
そして、お姉ちゃん夫婦に会いに行く前にお祝いは私が調達して今日を迎えた。
事前に剛くんには先輩がアポをとった。
きっと剛くんも驚いていたと思う。
それでも「楽しみにしてる」と言ってくれた事、すごく感謝している。
「大丈夫だよ、コーチも楽しみにしてるって言ってたんだから。」
「ーーーうん。」
緊張する私に強く手を握りしめて、何度も大丈夫だと伝えてくれる先輩の優しさが身に染みる。
「あーあ、来週はいないのかぁ。寂しいなぁ…」
「3日だけだから(笑)テレビの前で応援しててよ。」
「もちろんです!」
緊張を隠すためにわざと話をすり替えてみても、
そんな時間もあっという間に剛くんの住む自宅…
以前お世話になっていたアパートに着いた。
「お邪魔します・・・」
赤ちゃんが寝てることが多いからインターホンは鳴らさないでと言われていて、
到着したら剛くんの携帯に先輩が電話して開けてくれた。
「ーーーどうぞ。」
案の定、赤ちゃんは寝ていたーーー。
「お姉ちゃんは?」
「今、一緒に寝てるよ。」
「そっか。これ、お祝いです・・・」
「ありがとう。ーーー体重、少し戻ったか?」
剛くんは私の心配をする。
「大丈夫!わたし、もう平気だから!」
「ーーーそっか。」
紅茶を受け取り、一口飲む。
なんだかとても甘い香りの落ち着く紅茶だ。
「これ、美味しい・・・」
「だろ?この前、愛梨が花が好きそうだからって喜んで買ってきてた。」
「後でお礼言わないと・・・」
「・・・だな。樹はバスケどーなんだ?」
視線を私から先輩に変えた剛くん。
「ボチボチですね。もうすぐ引退ですし、そしたら就職ですもんね。新生活何が起こるかわかりませんけど。」
「なんとかなる(笑)花のこと頼むよ(笑)」
「大丈夫です!」
強く即答で言ってくれてこと、嬉しかった。
そして、しばらくしてからお姉ちゃんが赤ちゃんを抱えて出てきた。
「うわぁ、可愛い・・・。お姉ちゃんに目元が似てるね!口元は剛くんな気がする!」
北斗と名付けられた甥っ子は本当に可愛かった。
「・・・やばい、ずっと見ていられる・・・」
「だな笑」
まだ2ヶ月だけど、フニャッとした笑顔とか。
手を握れば握り返してくれる仕草とか。
全てが愛しく感じてずっと触れていたいと思った。
でもお姉ちゃんはやっぱりママになったんだ。
北斗くんが泣き始めるとつかさずオムツを確認して違うならミルクをあげる。
そしたらまた小さな天使は深い眠りに入った。
抱っこも剛くんではダメでもお姉ちゃんが抱っこすると泣き止む時が時々あった。
俺も頑張ってるんだけど勝てねえや、と言いながらも愛しい我が子を彼は見ていた。
「ーーーまた会いにきても良いかな?」
「もちろん!いつでも会いに来て。」
「ありがとう。」
ーーー帰りたくない気持ちがめちゃあったけど、
甥っ子をもっと見ていたかったけど、
泣く泣く私は先輩と一緒に帰った。
「本当に可愛かったぁ・・・」
「だな(笑)ずっと手握ってたもんな(笑)」
「可愛過ぎて・・・」
「でも少し、関係修復できたんじゃないか?」
「ーーーうん。もっと距離を戻せたら良いな。」
秋の季節の帰り道は、
肌寒いけど先輩が隣に歩いているだけで幸せに感じる。
落ち葉の音が心地よい気持ちにさせてくれる。
久しぶりに心が満たされている、
そんな気分のまま私は先輩と遊歩道を歩き続けた。
コメント