#90. – Itsuki Side –
結局、
この日のオレは練習すらにも参加できなかった。
・
「ーーーお前、なんかあった?」
更衣室でシャワーを浴び、
ベンチに座り髪の毛をわしゃわしゃ拭く。
こんな時も考えてるのは彼女のことーーー。
病室を出てから既に7時間が経過してる、
手術は終わったんだろうか。
無事なんだろうかーーー。
命に別状はないのだろうか。
自分に知らせたくないならそれでも良い、
だけど誰か彼女の今の状況を知るものはいないかと携帯を取り出す。
「おい、樹!聞いてるか?!」
「えっ、あ、すいません!何すか?」
「ーーーなんかあったろ?お前が練習に支障をきたすなんてありえねーだろ。」
「ーーーすいません、明日までには切り替えます!」
「・・・そうじゃなくてなんかあったのか?花ちゃんか?」
吉岡さんはオレの隣に座るーーー・・・。
今まで恋愛して来て誰かに相談したことなんて一度もないし、そんなこと自分の恥だと思ってた。
ーーーだけど花は・・・
花のことはオレの心をかき乱す、
自分だけで対応できないこともあって吉岡さんに相談した。
「昨日・・・家に帰ったらアイツがいなかったんですよ。家も綺麗に掃除されてて、冷蔵庫もたくさん作り置きされてて・・・昨日、あいつが外食して来てって言ったのはきっと家のことをするためなんっすよね。」
「ーーーお前なんかしたの?」
「いや、ちょっとこの前討論して。今までの積み重ねでしょうね。ーーーあいつ、すごい心が弱くて。守れない自分の責任ですね・・・」
「ーーー花ちゃんの心当たりあるのか?」
「ーーー愛想つかして出て行ったと思ってたんですけど、人づてに入院してると聞いて今朝会って来ました。」
「入院!?なんで!?」
吉岡さんは驚きすぎて声が大きかったーーー。
「・・・手術って言ってましたね。」
「さっきから言ってました、とかお前本人に聞いてないのか?」
「・・・聞きましたよ、教えてはくれませんでした。病院には来ないでと、完全に拒絶されてます。何かの病気だったのか、どこか悪かったのか、それとも・・・気がつけなかった自分にも問題ですけど、アイツが消えそうで怖いっす・・・バスケに集中しなきゃスタメン外されるの分かってるけど、アイツが心配でそれどころじゃないって言うか・・・」
「いや、それはそうなるの仕方ないだろ・・・」
オレは、はぁぁぁと頭を抱えた。
「ーーー行くぞ。」
そんなオレとは逆に行動に移すのは吉岡さんだった。
「え、どこに?」
「ーーー花ちゃんのところだよ。」
「いや、アイツ手術終わってるかも分からないっすよ?」
「ここでウダウダ言ってたって何も解決しねーだろ?だったら会って話すしかない。ただ樹を拒絶する可能性もある、だからアリサを連れて行く。」
アリサとは吉岡さんの彼女のことだ。
ーーー自分が答える前に吉岡さんは彼女に電話して、
すぐに待ち合わせをした。
・
大学から病院は近いーーー・・・。
家から病院も近いーーー。
「ーーー503・・・」
吉岡さんが病室を見つけて、
オレは大きな深呼吸をして中に入った。
ーーー吉岡さんとアリサさんは外のベンチに座って待ってると。
「手術、無事に終わったのか・・・?」
オレの顔を見るなり驚いていたけど、
オレはお構いなく問いかけた。
「ーーー終わったよ。あとはリハビリ頑張らないと歩けるようにならない。」
「足の手術だったんだな・・・リハビリ出来ることは協力するから頑張ろうな。」
オレは椅子に腰掛けて花の手を握った。
「・・・かんないよ・・・」
「えっ?」
「ーーー先輩には私の気持ち分かんないよ!普通にスポーツもできて才能に恵まれてて・・・わたし、頑張ってるよ?・・・これ以上、頑張れって言わないでよ・・・!!」
オレの、頑張れと言う言葉が彼女を追い込んでしまったようだった。
「ーーー」
オレは何て言葉をかけたら良いのか分からずに黙った。
「・・・帰ってください。お願い、もう来ないでーーー・・・」
花は両手で顔を覆い、涙を隠したーーー。
「悪かったーーー。」
オレは何も言えず病室を出た。
・
「あのさ、明日部活休んで良い?」
花の病室を出て、
オレは吉岡さんとアリサさんと一緒に飯に来た。
どんなに苦しくてもお腹は空くーーー。
花とオレの会話を外で聞いていた吉岡さんも、
想像以上に花の心が壊れているのを知り、
どうしたら良いのかと3人で練っていた。
ーーー花の望み通り、会わないのがきっとベストなんだと思う。
「アリサが?」
吉岡さんが疑問を問う。
「ーーー何となく松村くんに会うのを拒否してるのは理由がある気がする。わたし、女だし・・・女同士で話せることもあると思うからダメかもしれないし拒絶されるかもしれないけど行ってくるよ。」
「ーーーいや、多分オレが頑張ろうと言ってしまったから彼女は・・・十分頑張ってるのを認めてあげられなかったからだと。」
「いや、ちがうと思う。絶対何かあると思うの、私の勘が働くのよ。ーーーお願い。」
「・・・オレは良いけど。花ちゃんはお前のこと知らないんじゃねーの?」
「向こうが覚えてない限り。印象は悪いと思うけど、行くだけ行ってみる。・・・病院でたら連絡入れるから。」
「ーーーりょーかい。」
オレは2人に頭が上がらないーーー。
恋人とのことをこんなに相談した経験もないし、
こんなに行動してくれる人も今までいなかった。
・
次の日、
アリサさんは就活の面接の後、
面会時間を狙って花の病院に足を運んだと聞いた。
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