【 君がいる場所 】#85. 指輪と呼び捨て*。

君がいる場所

#85.

朝を迎えたーーー・・・、
隣を見ると先輩の寝息が聞こえる。
距離ゼロで寝る幸せ、
先輩の寝息が心地良くて二度寝して私は寝坊した。

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バタバタと準備して、
なるべく音を立てないように自宅を出た。
結構ギリギリに会社に着いたり、
普段作ってくるお弁当を作れなかったりと私にしては珍しいことが連発で愛菜さんにニヤニヤされた。

ーーー奥田さんと勇気さんはずっと2人で会議室で打ち合わせをしながら設計図に目を向けている。
真剣な眼差し、
先輩もバスケに対して真剣だし、
何かに夢中になる姿を見るって素敵だなと思う。

この日のお昼は勇気さんと奥田さんに誘われて、
近くの美味しいラーメン屋さんに連れて行ってもらった。
「女の子はラーメン屋さんに来ないんじゃないの?」
「そうですね、私自身があまり外食しないのもありますけどラーメン屋はあまり入ったことないです。」
肉野菜ラーメンの小盛りを頼んだはずだけど、
野菜がたっぷりで食べられるか不安が残る。
「ーーー残しても良いよ、勇気が食うから(笑)」
「オレっすか!?」
奥田さんは年頃の娘さんがいるからかとても気さくで私が困らないような話を振ってくれる。
きっとこうして娘さんとも接して話していると思うと良い父親をしているんだなと思った。
「・・・えっ、払います!」
「いいっていいって。でも今日だけね?」
「ーーーすいません、ありがとうございます!」
食べ終わりお会計を済まそうとすると、
奥田さんが全員分の支払いを済ませた。
支払おうと何度もしたけど今日だけねと言われて、
今回はご馳走になることにした。
「ーーーごちになります笑」
仕事場に戻りまだ休憩時間が残る私は愛菜さんと雑談、
奥田さんと勇気さんはこの日は1日ずっと会議室で過ごしていた。

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仕事が終わり私は駅に急ぐーーー。
「先輩!」
先輩も筋トレで学校のジムに行くから、
帰りに夕飯を食べて帰ろうと駅で待っているとメールが入っていた。
「だから!お前は・・・走るなっちゅーの!」
先輩は注意しながら笑ってる。
自然と手を繋いで、電車に乗るかと思ったら・・・
「今日はこっち・・・親から車借りて来た。」
そう言って駅ビルの駐車場の方に歩く、
隣に歩いて今日の仕事のことを話す、
ただそれを話すだけでもすごく楽しい時間だった。

「次はいつ試合があるんですか?」
先輩は私が絶対に好きだと思うレストランを今日聞いて来たと楽しそうに運転している。
「ーーー再来週だな。今週は休み、だからオフもらってんだよな。」
「行っても良いですか?環と・・・」
「断る理由ないだろ(笑)」
私は前を向きながら答える先輩の身軽な片方の手を一瞬握った。
「・・・へへっ」
驚いてこっちを見る先輩に恥ずかしくてすぐに手を離す。
そしたら今度は先輩が私の手を引き戻し、
到着するまでずっと握っていてくれた。

都心から横浜まで下道で1時間くらい、
今日はマリンタワーにあるレストランに連れて来てくれた。
「うわぁ!夜景が綺麗です!」
案内された席がちょうど窓側の席で、
そこから見える山下公園の夜景がとても綺麗に映し出されていた。
「柊、好きだろ?(笑)」
「ーーーはい!」
ローストビーフを口に入れながら夜景に釘付けになる。
「そろそろこっちを向いてくれないか?笑」
その声にハッとして先輩の方を向くと、
カタンと一つの箱が先輩のポケットから出された。
「えっ・・・」
私はそっとその箱を持ち中を開けるーーー・・・。
「指輪・・・?」
「・・・デザインとか店員さんに人気なやつを聞いたから気に入るか分からないけど、遠征も始まって家にいないことも増えるだろうし不安要素を少しでも減らして欲しいと思って考えたんだよな。」
私はすぐに自分の薬指につけた。
「嬉しい!すごく嬉しいです!ありがとうございます!」
「ーーー似合ってる、良かった。」
これで一体今まで先輩からいくつの贈り物をされただろう。
でもその中で今日が・・・指輪が1番嬉しい。
やっぱり指輪は女の子にとってとても特別だから。

シンプルなデザインでシルバーリングにポイントとしてあるピンクのダイアモンドみたいな石が埋め込められている。
色が白い私にはぴったりだと自分でも思う。
「ありがとうございます!大切にします!」
先ほどまで夜景に夢中だった私は、
今は先輩を見ることに夢中になってるーーー。

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このまま帰りたくなくて、
少し公園を歩かないかと提案したのは私。
自然と手を繋ぎ、
自然と横に並んで歩く。
今なら恋人同士に見えるかな、と少しだけ自信が持てた。
知らなかったけど夜の山下公園はカップルだらけ、
公園に並ぶたくさんのベンチもカップルで埋め尽くされている。
私も・・・私たちもその一つの空いてるベンチに座った。
「ーーーこんな幸せで良いのかな・・・」
「何言ってんだ(笑)・・・はぁ、オフも明日で終わりかぁ・・・」
「少しゆっくり出来ましたか?」
「だいぶゆっくりしたよ笑。」
「ならあとは試合に進むのみですね、応援してますからね!」
「ーーー頑張るよ。」
もう9時をすぎそうだったので、
それくらいで横浜デートはお開きとなった。
だけど帰りの車の中も離れたくなくて、
私はずっと手を繋いでいた。

そして今、2人ともお風呂から上がりベランダで星を眺める。
「東京はさあまり星が見えねーよな。」
「・・・都会だからですよね。」
「おれ、小さい頃星を見るのが好きで。田舎が長野だったからよく星を見に連れて行ってもらってたよ。」
「ロマンチックですね。」
「いつか連れて行ってやるよ。」
「楽しみにしています。」
甘くない?昨日から先輩甘くない?
心の中で思ったけどあえて口には出さなかった。

ーーーそのまま自然と私たちは唇を重ね合わせた。
「んっ・・・」
少し重ねただけで体が熱くなるのを感じる。
先輩は私のバランスが崩れないように頭を後ろから支えてくれている。
「柊、舌出して・・・」
言われるがままに舌を出すと絡まる二人の舌。
また熱を帯び、
目がだんだんと重くなる・・・。
「んっ・・・」
「その顔、ヤバいわ・・・」
私の頭を支える先輩の手に力が入り、
先輩との距離がゼロになる。
「はぁはぁ・・・苦し・・・」
離してもらえなくて、息が苦しくなる。
「好きだ・・・花・・・」
先輩から好きだという言葉、
そして花という私の名前を呼ぶ声ーーー。
聞こえて嬉しいのに、
今は先輩の止まらない勢いに追いつくので精一杯でそんなことを考える余裕が持てなかった。

ーーー チュッチュッチュッ ーーー
誰もいないこの空間に鳴り響く唇や舌が絡む。
ネチネチと嫌らしい音を立てる。
先輩には珍しくすごく興奮して、私の唇をむさぶるように食べるようにキスをしてくれている。
私は先輩の胸元に手を置くのがやっとで、
置いてかれないように追いつくのが精一杯。
「ーーー悪い!取り乱した・・・」
そんな時に先輩の携帯が鳴りハッとした先輩が私に謝罪した。

謝罪なんかすることないのに・・・
悪いことなんて何一つしてないよ、
と思ったけど私は何も言わなかった。
先にリビングに戻った私の隣に電話を終えた先輩がやってくる。
「ーーー木曜の練習内容だったわ、監督から。」
「木曜からまた遅い日々ですね。」
「・・・夕飯、家で食う生活に戻したいんだけど負担になるか?」
「えっ!本当に?!嬉しいです!寂しかったから・・・」
「ーーー寂しいって昨日言ってたし、俺も外食に飽きたわ。花の作る飯が食いたい・・・」
「花ってさっきから・・・」
私は気がつけば涙を流してたーーー・・・。
「ずっとなんか恥ずかしくて・・・ごめんな。今なら言えるってさっき悟った(笑)」
「先輩・・・!」
「ーーーもう先輩じゃないんだけどな・・・」
ボソッと先輩が言った。
心の中では幾度となく樹さんと呼んでた、
でも本当に呼べる日が来るなんて・・・
「樹さん・・・」
「照れるな(笑)」
そう言って私たちは笑い合ったーーー・・・。

恥ずかしい、
嬉しい、
胸がくすぐったい、
そんないろんな感情を抱えた夜となった。

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