【 君がいる場所 】#82. 従兄弟からの難題*。

君がいる場所

#82.

レトロなコーヒーショップに、
この沈黙な私たちはとても似合う。
コーヒーを頼んだ学くんに対し、私はカフェオレを頼んだ。

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「あまり時間がないから話をさせてもらうな。今、ばあちゃんが入院中なんだ。」
「え!!!???なんで??」
久しぶりの再会を喜ぶことなく本題に入る。
「もう85だからな、肺炎を起こして入院している。それで母さんがこれを花にって・・・」
彼の持つブリーフケースから茶封筒が出された。
それは戸籍に関するものと遺産相続放棄の書類だった。
「ごめん、理解できない。どういうこと?」
突然のこと、そして内容が難しすぎで頭がついていかない。
「花にはまだ難しいと俺も母さんに言ったんだけどさ。母さんはもうばあちゃんも歳だから何があってもおかしくなってことを考えてて、愛梨はともかく花にだけは遺産相続を分与したくないと考えているんだよ。母さんからしたら花はきっと死ぬまで許せないんだろうな・・・」
「ーーーそれは分かった。こっちは?」
相続はなんとなくわかった、もう一つの方が分からなかった。
「簡潔に言えば母さんは花に宮園の名を名乗って欲しくないんだそうだ。つまりな・・・言いにくいんだけど・・・今、ばあちゃんの方に戸籍があってさ、それを・・・」
同じ戸籍に見るのも嫌ってことなんだろうね。
お姉ちゃんは剛くんと結婚したから宮園の戸籍からは抜けているんだもんね、
残ってるのは私だけって事か。
「ーーー少し考えさせてもらっても良いかな。」
学くんはホッとした顔をした。
「俺は母さんはやりすぎだと思っているし、勝が死んだのは花のせいだとも思っていない。だけど・・・母さんは花を責めることで生きているんだよ。その気持ちもわかってやってほしい。」
学くんは中立の立場で1番辛いんだなと思った。
「うん、大丈夫。また連絡させてもらうね。」

私は書類をカバンにしまい、
愛菜さんたちと約束していた駅に向かった。
もう臨月の愛菜さんはお腹が目立つからすぐにわかった、
副社長も寄り添っていて愛されているのが凄く伝わる。
「遅くなってすいません!勇気さんは?」
「ーーーあの人、朝弱いからね(笑)」
そんな話をしていたら眠そうにしている勇気さんが合流して、私たちは向かった。

「花ちゃんの彼氏さん何番?」
彼氏と言えるのだろうか、と一瞬顔が曇ったけど今は楽しむしかないと先輩の背番号を教えた。
「えっ!あの人?めちゃイケメン!モテるでしょ(笑)」
「ーーーモテますね。実際にうちわ持ってる人達多いですしね・・・笑」
「花ちゃんはもっと構ってちゃんだと思ってた!」
「いや、かなりのかまってちゃんですよ?だからケンカばっかりです笑。私なんか彼女で良いのか、この4年間ずっと毎日考えています笑」
「一度離れてみるってのもありかもな。」
勇気さんが私に向かって言った。
「えっ?」
「ーーー自分が彼女でいる自信がないなんて相手にも失礼だろ?だったらいっそう一度離れてお互いに違う人を見るのも一つの経験だとオレは思うよ。」
「ーーー経験者は語るねぇ(笑)」
「うっせーな・・・」
愛菜さん相手だと勇気さんは結構話し、
この2人のやりとりを聞いているだけでも楽しくて、
私も副社長も笑った。

そして試合が始まる寸前、
先輩と視線が絡んだけど私はその瞳から目を逸らした。

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試合は無事に終わった、
先輩の復帰試合は無事に勝利へと導かれた。
高校時代から先輩のするバスケが好き、
バスケに対する眼差しが大好きで、
ボールを追いかける強い瞳、
相手を威嚇する瞳も大好きだった。
ーーー先輩のバスケする姿が私は大好きだったんだなと改めて実感した。

「うわぁ、選手が外に出てきてくれてるよ!」
「出たよ、ミーハー・・・」
「うっさいな!行くよ!」
勇気さんと愛菜さんは昔からの腐れ縁で仲良いけど副社長はヤキモチ妬かないのかなと思ったりした。
「あの2人にヤキモチ妬かないんですか?」
「あれに?妬かない(笑)どう見ても少年と少女に戻ってるからね(笑)どうぞ勝手にやってくれって見てるよ。」
愛菜さんと勇気さんが話に行ってる間、
私は副社長と少しだけ話をした。
「愛菜のミーハーやハイテンションに突っ込めるのは勇気だけだと思ってるしな。」
「ーーーそうなんですね。」
「まぁ身重だからそこは気にして欲しいとは思うけどな(笑)」
「確かに・・・」
愛菜さんがサインゲットして喜んでると、
バランス崩して倒れそうになった。
焦った私たちは駆け寄ろうとしたけど、
つかさず勇気さんが彼女に寄り添って助けた。
その眼差しが・・・
勇気さんの愛菜さんへの恋心を見てしまった瞬間でもあった。

そして私は少し視線を先輩の方にやる、
先輩はやっぱり人気だからすごい行列が出来ている。
私にはあそこに並ぶ勇気はない、
あんなところに並ぶなら帰って話した方が楽だと思ってしまうのは帰宅したら会えるという特権があるからだよねと思った。

お茶をしようという話も出たけど、
愛菜さんのお腹が張ってきたということで私たちはすぐ解散した。

自宅に戻った私は先ほど学くんから見せてもらった書類を丁寧に確認する。
遺産はもともと興味もない、だからすぐにサインを書いた。
ーーー問題は戸籍の方だ。
もし、戸籍を抜けたら私はどこに入るのだろう?
佐藤の家に入るのだろうか?でもそれにはきっといろんな手続きが必要で、向こうに迷惑をかけてしまう。
佐藤の戸籍に入らない場合、
私はどうなるのだろう?戸籍のない人になるのだろうか?
お姉ちゃんみたいに結婚すれば相手の戸籍に入るのだから、
先輩に縋ってみようか・・・
でも結局また迷惑かけるだけだと思って振り出しに戻った。
ーーー結論から言えば、
お父さんとお母さんがいなくなった今、
私は必要がないってことになるんだなと笑いと涙が溢れた。

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先輩が帰宅するまでの時間に色々考えた。
ーーーそして叔母さんを少しでも解放できるなら、
戸籍を手放そうと決めた。
おばあちゃんにもう会えなくなるのは悲しいけど、
それがおばさんのためになるのなら・・・と決めた。
それが私にできる唯一の償いなんじゃないかなと思った。

「明日の試合が終わったら3日間オフになったよ、仕事終わりでも良いから行きたいところ考えておいて欲しい。」
「先輩、ありがとう。」
「え、何が?」
「ーーーううん、なんでもないです。」
涙を堪えて笑顔で先輩に伝えた。
嬉しいな、私のこと考えてくれて。
その気持ちがすごく嬉しかった。

この日は久しぶりに同じ時間に横になった。
「ーーー手を繋いでも良いですか?」
「ああ・・・」
先輩に少し近づき、大きな手を握る。
この手が大好きだったなぁと目を瞑り涙が流れるのを我慢する。
「ーーー先輩」
「ん?」
「私、先輩のバスケしてる姿が大好きです。笑ってる顔が大好きです。でも最近は謝らせてばかりでごめんね・・・わたし、先輩に気持ちよくバスケして欲しい、邪魔したくない・・・」
涙を堪えるために私は手で目を押さえる。
「柊は邪魔なんか・・・」
「ーーーわたし、もう先輩のそばにいる自信ないです。」
「柊ーーー・・・」
先輩は横になってる姿からベットに座った。
「ごめんなさい、明日試合なのに・・・。」
先輩は私を抱き起こして強く抱きしめた。
何がどうなって抱き締める要素があったのか不思議だけど解くには力強すぎて出来なかった。
「ーーーこの前の件は本当に悪かった。愛想尽かされてもおかしくないことをしたと思ってる。だけどオレは・・・柊にそばにいて欲しい。邪魔だなんて思ったことは一度もない。」
先輩は私を腕から離し、今度は強引に唇を奪った。
驚く私に何度も先輩は唇を奪い、
しまいには舌を絡めてきた。
ーーーずっと求めてきた先輩の温もりを今感じることができて幸せと同時に苦しい。
「オレだって我慢してないわけじゃない。ーーーこれでもかなり我慢してるし限界が来ることだってある。それでも最後までしないのは柊のことが大切だから。お前のことが大切だから、大事にしたい。俺とお前との関係をずっと大切にしたいからこそだってのも分かって欲しい・・・」
私の瞳から涙が溢れ、
私は先輩の胸に手を添えるーーー。
それでも先輩は私の唇から自分の唇を離さない。
「ーーー好きだ。絶対に離さない・・・」
先輩は私の目を見て言った。
「ーーーありがとう。」
そう言ってもらえるだけで幸せ、
その言葉だけで十分幸せを感じたーーー。
ありがとう、ありがとうと何度も呟いて、
そのまま私は眠りについた。

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