#79.
変な不安を抱えたまま4月に入り、
私は社会人になった。
私が就職を決めた会社は大きな会社ではなく、
個人事業のとても小さな会社。
同期という同期もいなく、
その日は会社に行って挨拶をして簡単な作業をして終わりだった。
ーーーそれでも慣れない仕事をするのは簡単なことではなかったし、
思っていた以上に疲労を感じた。
先輩は高校の時からバスケとバイトを両立していたから働く大変さを少しは理解できる、と言ってた。
だから・・・
4月に入ってから自分のご飯は自分で、
つまり夜ご飯は外食してくることが増えた。
私は自分の分だけの夜ご飯を作って1人寂しく食べ、
お風呂から上がる頃にいつも先輩は帰ってくる。
誰と食べて来たの?、
そんな軽い会話なのに毎日のことに慣れるのに必死な私は先輩との会話から生み出される衝突が怖くて聞く勇気を持てなかった。
朝はいつものように先輩の方が早い日が多い。
起きると私の分のご飯が出来上がり、
先輩は既に朝練に行ってて不在のことが多い。
私が働き出してから、
先輩の負担が増えた気がする。
私、本当に何もしていない、そんな気がした。
「柊さん、ここ訂正しておいてもらえる?」
私の仕事は一般事務、
家族で経営している建築事務所で現役設計士さんが2人、
社長さんと副社長も設計に携わってる。
副社長の奥様が事務全般を副社長と一緒に担っていたけど出産が近いということで退職することになり私が偶然その採用情報を見つけて駆け込みで申し込んだ形となった。
こじんまりしてて私にはとても向いている事務所だと思った。
それに良い意味でお互いに干渉することもないから、
職場の方とも良好な関係が築けている。
土曜日、
私が目を覚ますと珍しく先輩がまだ横に寝てた。
ーーーああ、そっか。
昨日は飲み会だって言って私が寝る頃になっても帰宅してこなかったんだ、
と昨夜のことを1人思い出していた。
先輩が飲み会に行くのはかなり珍しいことで、
ここ最近は夜ご飯を外で食べてくるにしても飲み会ほど遅くなることはなかった。
だから飲み会だと朝に聞いた時に驚いたけど、
正樹先輩と久しぶりに会うと聞いて私も嬉しかった。
正樹先輩と双葉は遠距離恋愛してて、
双葉は北海道で学生生活を送ってる。
私も時々双葉と電話するけど、
正樹先輩とテレビ電話で毎日話してるから寂しくないと言ってて強いなぁと感じていた。
男同士でもこういう恋愛の話はするのかな、と少し不思議に思った。
「ーーーおはよう。」
「あっ、おはようございます。」
窓越しに外を眺めながら色んなことを想像していると、
気が付けば目を覚ました先輩の声が上から降って来た。
「昨日は楽しかったですか?」
「ーーー楽しかったよ。久しぶりに正樹に会って、飲みすぎたわ・・・」
頭が痛いと伝えたいのか押さえながら私に笑顔で伝えてくれた。
「今日は練習あるんですか?」
「今日は休み、明日が朝から練習試合だわ。・・・どっか行くか?」
心の中ではやった!と叫んだ。
でもほとんど休みない先輩の貴重な休み、
それに二日酔いだろうからと私は遠慮した。
「ううん、今日は家にいようかなと思います。先輩はどこか行く予定あるんですか?」
「ーーー俺も今日はのんびりするかな。」
私はその言葉を聞いて微笑だけ浮かべ、
先輩に抱きつくように目を閉じてまた眠りについた。
ーーーそんな私を先輩は強く抱きしめてくれた。
でもそれだけ・・・、本当にそれだけなんだ。
いつから私はこんなに欲張りになったんだろう。
先輩と付き合ってもうすぐ4年なのに、
何もないって・・・
こんな悲しいことはない、
それに女性としての自信を失う。
先輩のことは大好きだし一緒にいれるだけでも幸せは感じる、
でも好きだからこそそれ以上を求めるのは贅沢なのかな・・・。
自分を大切にして欲しいと何度も先輩に言われた、
先輩の言ってる意味も理解できる。
でも・・・私の気持ちも大切にして欲しいと思った。
ーーーこの話題を出すと毎回喧嘩になる、
だからもう私からは言えなくて、
それが苦しくて私は先輩の優しさと自分の気持ちの葛藤が苦しくて涙を我慢して先輩に抱きついた。
結局私たちはお昼過ぎまで寝ていたーーー・・・
お互い疲れているんだね、って笑い合った。
土曜日は本当に寝て過ごし、
久しぶりに先輩とのんびりした日を過ごせた気がする。
・
日曜日、早朝に出かける先輩を見送る私。
前日のんびりしたから早起きできた自分に自信が持てた。
「昼過ぎまで試合があって、ミーティングもあるから夕方頃に帰ると思うよ。ゆっくりしろよ。」
「ーーーはい。頑張ってください。」
見送った私は携帯で先輩のチームの試合情報を調べた。
大学の対抗試合で本試合ではなくて、
体育館でしている軽い試合らしくて無料で応援に行けると書いてあった。
・・・ほとんど見に行かないけど、
たまに見に行ったって良いよね?
先輩驚くかな?と想像しながらニヤニヤして、
でもそれがすごく楽しい時間でもあった。
ーーー第二試合が始まる11時前、
私は無事に試合会場に着いた。
これからまた頑張っていきます👍
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