#77.
学校の式典はとてもつまらない、
だけど卒業式だけは別物だと思った。
・
卒業式が終わり、
多くの保護者や卒業在校生で賑わう体育館周辺。
友達同士や後輩たちと写真を楽しむものが多い。
ーーー遠方で遠いからと祖母に断られ、
妊娠中のお姉ちゃんには頼めなくて私の保護者は誰も来れなかった。
あえて言うなら今となっては義兄に当たる剛くんが、
先生として出席していたくらい。
「花!あとてでね!」
ご両親が参加した環や双葉は一度家に帰る。
残された私も、と足を一本前に出す。
「花!」
不意に呼ばれた声に振り向く、
何気に人気で卒業する女子の囲いを抜けて剛くんが走って来た。
「どうかしたの?」
「ーーー卒業おめでとう。」
「ありがとう。」
「落ち着いたら飯でも行こう。」
「・・・ありがとう。」
私は剛くんに微笑んだ。
ーーー先輩と暮らし始めてから、確かに心は穏やか。
でも剛くんたちとの距離は広まった。
あんなに連絡取っていた剛くんと連絡取らなくなったし、
お姉ちゃんなんて全く様子を知らない。
先輩は何も聞いて来ないけど、
何となくそれに気がついているし、
気に留めているような気もしている。
そして私も剛くんとの気まずさをどうにかしないといけないとも思ってはいる。
「今日はもう行くねーーー。」
でもそれは今じゃないのも分かってる。
「・・・近いうち連絡入れるから。」
私は頷いて手を振り校門に足を進める。
卒業式の今日はちょっと気持ちがセンシティブ、
友達や先生との別れで悲しみもある中、
自分だけが保護者が来ていないことに悲しさがないわけじゃない。
気にかけてくれる友人も大切な人も幼馴染もいる、
でも私が心のどこかで求めているのは、
血の繋がりのある誰かなんだと思う。
「えっ?」
後一歩で校門という時に、
凄い勢いで校門に走ってきた人がいるーーー。
驚く私、
荒い呼吸を止めるのが困難な人。
「樹先輩だ!きゃー!センパーイ!」
一瞬にして女子や男子に囲まれる先輩、
私はあと数歩歩けば届く先輩の姿にただ驚くだけ。
先輩は後輩たちに囲まれるのを無視して私の目の前に立つ。
「ど、どしてここに?」
《 あの2人ってまだ付き合ってたの?!長くない!?》
そう言った声も嫌でも耳に響く、
それが届くたびに先輩は声の方を睨んで暗黙で黙らせた。
「ーーー間に合って良かった・・・。卒業おめでとう。」
息を整えて先輩は私に笑顔を向けてくれた。
「ありがとうございます。」
「ーーー何となく泣いてる気がした、それに早くおめでとうと言いたかった。」
その言葉に私は我慢していた涙を瞳から溢れさせた。
「・・・なんで・・・何で分かっちゃうかなぁ・・・」
そんな私を先輩は優しく包み込むように抱きしめてくれた。
「ーーー泣きたいだけ泣いて良いよ。」
なんか、今日の先輩は優しい、と思ったのはここだけにしておこうと思った。
しばらく胸を借りて泣かせてもらい、
私もすぐに落ち着きを取り戻した。
「ーーー帰るか。」
「えっ、帰るって?大学は?」
「お前を家まで送ったら行く。」
今日は朝から大学に行ってたし、抜けてきてくれたんだと思ったら嬉しくて顔がニヤけた。
「あの、先輩!一枚だけ・・・写真撮ってもらえませんか?」
手を繋ぎ校門を出ようとした時、
数名の女子たちが先輩に声をかけた。
「いや、俺はもう卒業してるし・・・」
「花、お願い!一枚だけ記念に・・・」
その子たちが先輩を本気で好きだったのか、
憧れていただけなのかは知らない。
でもこの子達の気持ち、私も分かる。
「ーーー1枚くらい撮ってあげても良いんじゃないかな?わたし、撮るよ?」
だから私は先輩に一緒に撮ってあげるように伝えた。
ーーー最後は逆に高校の思い出として、
先輩と私のツーショットを彼女たちは撮ってくれた。
考えてみたら先輩と写真撮ることなんてない。
先輩の卒業式も撮ることなかったし、
一緒に出かけても私が先輩の後ろ姿なりを隠し撮りしてるだけで2人で撮るという概念がなかった。
「ーーーなんでニヤニヤしてんだよ。」
「これ、待ち受けにしても良いですか?」
私は自分が想像していたより先輩とのツーショットが嬉しくて先輩にそのまんまを伝えた。
「・・・どうぞ。写真そんな嬉しいか?」
「そりゃ嬉しいです!先輩とのツーショットですもん!」
「・・・これからたくさん撮りゃ良いじゃんか。」
ーーーなんかその言葉も嬉しかった。
「卒業式にまさか来てくれるなんて思わなかったし、ツーショットまでゲットしちゃうし、今日すごく良い日です!」
「ーーー本当は1番におめでとうって言いたかったけど、それは無理だったな(笑)」
ふふッと笑って私は先輩に肩を寄せて、
幸せオーラを丸出しして歩いた。
・
アパートに着き、
先輩は練習に行くもんだと思ってた。
「えっ?戻らないんですか?」
「ーーー戻るよ、だけど一つだけ・・・」
私はソファにカバンを置いて先輩をポカンと見た。
そんな私を先輩はただ抱きしめた、それだけだった。
「制服姿の柊とこれで会えなくなるんだな。」
「えー、何ですかそれ。制服姿の私が良かったんですか?(笑)」
「そうじゃねーけど、3年も一緒にいると寂しく感じるもんなんだなと(笑)」
「ーーー制服は消えても私は消えませんからね。」
「消えたら困るわ・・・」
私たちは笑い合った、
そして、自然とどちらからともなく唇を重ねた。
いつからか自然と手を繋ぐようになり、
自然と唇を重ねることもできるようになった。
一緒に暮らさなかったら、
私たちはきっとずっと出来なかったかもしれない。
そういった意味でも、
あの時、私に一緒に暮らすことを提案してくれた先輩に・・・
未成年ながらに同意してくれた剛くんに感謝したいと思う。
「ーーーじゃ、練習に戻るわ。」
ハッとしたのは先輩、
急に私から体を離して玄関に向かう。
「先輩!」
私はその背中を見つめ、
後ろから抱きついた。
うわっ、と驚く先輩だったけど何も言わずに私の手の上に自分の手を添えてくれた。
「・・・なんだ?」
「大好きです・・・」
「ーーー知ってるよ。じゃ、行ってくるわ。」
求めていた答えとは違うけど、
今は今で幸せだから良いやって、
そう思えた自分が・・・
本当に今は愛されている実感があるんだなって痛感している。
ネガティブに捉えることなく、
普通に過ごしていられる。
それが私にとってどれだけ幸福なことか・・・
それだけでも自分の進歩を感じた。
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