【 君がいる場所 】#74. 知らない事情*。

君がいる場所

#74. Itsuki Side

今オレは須永たちとカフェにいる。
いつもみんなで集まっているカフェにーーー。

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柊と最後に電話で話したのは1ヶ月半前、
わけわからず疲れすぎて情緒不安定の彼女ーーー。
バイトなんて減らせば良いだけなのに頑固な彼女にそれは通用しなかった。
「柊ってここに来るのか?」
会ってない連絡とっていないからこそ気になった。
もし来るならバイトを辞めるよう直接話そうと思ってた。
「来ないんじゃないですかね?学校にも来てなかったよね!」
「学校にも?」
「ーーー来てなかったっすよ。おれ、同じクラスだし。」
「風邪かなんか?」
「先生も分からないって言ってたから無断欠席?(笑)ってか、先輩連絡取ってないんすか?」
ーーーまぁそうなるよな、とは思った。
「最近あいつ機嫌悪くてさ、だから落ち着くまで連絡控えてるんだわ。」
「女子はね・・・笑」
そこで笑いが起き、
何だかここにアイツもいれば良いのにと思った。

もうすぐ卒業のことだったり、
部活のことや俺たちの試合のことを話してるうちに時間はあっという間に過ぎていく。
ーーーそしてオレの携帯が鳴る。
剛さんだし、後で良いかと思ったが環がコーチも呼んでというのでオレはその場で電話に出た。
「おつかれ・・・」
「ネットニュース見たか?!」
挨拶もなくコーチはオレにいう、
焦るオレは須永の携帯でネットニュースを見て近くのビルで火事があったことを知る。
「これがどうかしたんすか?」
オレ以外のメンバーが電話の耳元に自分の耳を当ててる。
邪魔だったから音を小さめにスピーカーにする、
そうするとコーチの焦る声の響きだったりが耳元よりも分かった。
「・・・花が・・・花が・・・このビルにいたんだ。」
耳を疑った瞬間だったーーー・・・。
「ちょっと待ってください・・・何で柊が?!アイツ、鎌倉に・・・」
「鎌倉?ーーー悪い、とにかくオレはアイツが搬送された病院に行く。お前も・・・来れたら・・・」
「すぐ行きます!」
オレは店を出て病院までタクシーに乗った。
ーーーその間、
ほんの15分ではあったけど、
一年・・・いや、もっとを使った感覚を覚えた。

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「コーチ!」
ちょうど警察官と話しているコーチを見つけて叫ぶ。
「・・・呼び出して悪かった。」
元気のないコーチを見ると胸が痛むーーー。
「柊は?!」
「今、治療受けてる。大きな怪我とかはないが、消防に見つけられた時・・・倒れ込んでて救急に運ばれてオレに電話が来たらしい。・・・花はカプセルホテルに住んでいたこと知ってたか?」
「えっ!鎌倉の親戚の家って・・・」
「オレは・・・花はお前と暮らしてると思ってた。」
今話していた警察官から聞いてコーチも驚いたと。
「彼女は鎌倉に行くからって出て行きました・・・」
「ーーーそれがカプセルホテル、か。」
俺たちは2人とも沈黙となったーーー。
「・・・そのカプセルホテルに行って花の荷物とか色々手続きしてこないといけないから、ここを頼みたいんだ。それで呼んだ。」
「ーーーもちろん、大丈夫です。彼女の治療が終わったら連絡します。」

それから程なくして治療室から出て来た彼女を見て、
痩せこけている彼女を見てオレは驚いた。
「今点滴で眠ってるので数時間したら目が覚めると思います。ただちょっと栄養失調気味なため数日間入院になりますね。」
対応してくれた先生はオレに言った。
「ありがとうございます。」
病室に運ばれ、
オレはその場でコーチにメールを入れておいた。

柊が横になってる姿を見るのは何度目だろうか。
彼女はよく入院するなぁと思いながらも、
火傷の処置をされ手に巻きついていふる包帯を触り、
彼女の細さを病的なものだと感じてしまった。
ーーー彼女が苦しんでる時にまた何もしてやれなかった、
そんな悔しさだけがオレの中に残る。

柊が目を覚ましたのは先生が予想していたよりはるかに早く30分後だった。
「柊!分かるか?!」
モソモソ動き出した彼女をオレは上から覗き込み問いかける。
何でいるの?と言いたげなのを我慢して彼女は驚きつつも首を縦に振る。
ーーーそしてオレはナースコールを押し、
医者が花に数日入院となるけど問題ないことを伝えていた。
「ーーーゴメンな、あの時そばにいて無理矢理にでも引き止めておけばよかったな・・・あの電話の時、ちゃんともっと話を聞けば良かったよな、後悔しても遅いけど・・・悪かった。」
オレは彼女の手を強く握りしめた。
「ーーー自分を責めないで下さい。」
オレに微笑を向け話しかける彼女は今にも消えてしまいそうだった。
「何か欲しいものとかあるか?」
ただそれを伝えただけだったのに、柊の瞳から涙が溢れた。
「・・・ごめんね、先輩。」
オレはその涙を拭うが、彼女の瞳から涙が止まることはなかった。
何の涙なんだろうかーーー。
心配かけたことへの涙か、
それとも他に何か意図があるのだろうか。
「柊ーーー・・・」
オレは彼女に問いかけようとした、
だけどそのタイミングでオレの携帯のバイブが鳴った。
「・・・もう行ってください。来てくれてありがとうございました。」
彼女はそう言って窓際の方に向きを変えた。
ーーー小さくて細くて、
本当にオレがいなくなったら消えてしまいそうなほどに彼女の存在が薄く見えた。
「ーーーすぐ戻る。」
オレは病室から出て携帯が使えるエリアに移動、
相手は監督だった。
大した内容でもなくオレはすぐに電話を切って、
柊の病室に戻ったけど、
彼女は眠りについたようでスヤスヤと音を立てて眠っているのが見えた。
オレはコーチが来るまで柊のそばにいた。

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オレの家に来た時と同じスーツケースをコーチは持って来た。
それを見てオレは複雑な気持ちになったーーー。
柊を止めていたらこんな苦労しなくて済んだのかな、と。
だけど他人のオレが踏み込んで良い領域もきっと決まってて、
彼女の中でそういうのは強くて、
オレもあまり強くは出れなかった。
「ーーー遅くなって悪い。」
「いえ、無事に終わりましたか?」
「ああ。花の荷物は全部持って来てチェックアウトもして来た。ーーー先生はなんか言ってたか?」
オレは数日入院になること、
それ以外に問題とされることはないと伝えコーチを安心させた。
「ーーーオレはそろそろ帰ります。須永たちもカフェで待ってるんで・・・」
「あいつらに来るなって伝えておけよ、花は嫌がるだろうから。」
「分かってますって。また来ますーーー。」
柊が望んでいるか分からない、
だけどオレはコーチにまた来ることを伝えて病院を後にした。

カフェに戻り須永たちメンバーは安堵の表情をした。
「・・・花の家がそんな複雑だなんて知らなかった。」
環や双葉は柊を想い、悲しそうな顔をした。
正樹も須永も深刻にコトを捉えていた。
俺たちに何か出来ることはないか・・・
全員で話し合ったけど、
励ます会を開くことしか頭に浮かばなかった。
結局は柊に会わなければそれは実行出来ない。
来ない方が良いと言われている手前、
結局何も出来ないという結論に至った。

・・・オレは帰宅してからずっと考えた。
今の柊にとって何が1番良いのか、
そして今のオレが彼女にしてやれることは何か。
オレは真剣にその課題と向き合った。

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