#72.
眩しい光に目が覚める、
でも一緒に寝てくれていたはずの先輩の姿はもういないーーー・・・。
何しているのか分かっているのに、
どうしても孤独が勝り寂しさだけが残る。
・
私は布団から起き上がり身支度をする。
そんなとき、剛くんからメールが届いた。
午前授業で終わる今日、
昼ごはんを一緒に食べようと。
ーーーお姉ちゃんとどんな話がされたのかきっと私に話してくれるんだろう。
私は先輩が用意しておいてくれた朝ごはんをありがたくいただき、
お礼のメモを残しておいた。
ーーー大学の授業に加えて、練習。
時々バイトもしてるって言ってたーーー。
毎日忙しくしているのに一人暮らし、
そしておうちも綺麗にされていて凄いなと思った。
きっと私には出来ない、そう思った。
って感心している場合ではない。
ーーー私は急いで不動産屋に行った。
でも・・・
どこの不動産屋も未成年の私に貸してくれるほど甘くはなかった。
成人している保護者のサインがあっても、
高校生1人を住居させるのを許可する不動産屋はないと断言されてしまって私は途方に暮れたーーー。
「ごめん!遅れちゃった!」
不動産屋さんにいろんな話を聞いていたら、
剛くんとの待ち合わせに見事に遅刻してしまった。
「大丈夫、先に注文しようか。」
剛くんは・・・あまり元気がないように見える。
きっと彼の望む形の話し合いが出来なかったのかな、と思った。
「私はピザランチにする!剛くんは?」
「ならおれはパスタにするかな。樹の家に泊まって大丈夫だったか?」
「ーーー事前に知らせていたんだってね。ちょっと苦しくなっちゃって、でもそばにいてくれたよ。」
「安心したわ・・・悪かったな。」
「きちんと話し合いできた?」
聞きたくないような、でも聞かないといけないことを私は直接尋ねた。
「ーーー結論から言うな。愛梨は今、妊娠してる。」
「えっ!!」
「だから情緒不安定ってのもあるんだけど。」
「おめでとう!!」
「ありがとう。だからどうしても花が一緒に暮らすのを受け入れられないって言っててな・・・」
「ーーーだよね、そうかなって思った!」
妊娠してたらそうなるの仕方ないって、
どこかで認めてる自分がいた。
「・・・子供が生まれて仕事復帰したとき、花にまた頼ってしまう自分が嫌だと。・・・それに直面したとき、自分が産んだ子が花に懐いてしまったとき、きっとまた花に苛立ちを感じてしまうだろうと愛梨は言ってる。だけどオレはそこは協力し合えば・・・」
「剛くん、それは間違ってるよ。」
「えっ?」
剛くんは少し苦しい顔をしながらも、
私の方を見た。
「確かに3人で暮らせば楽なこともある、でもそれっめ不自然なんじゃないかな。本来は2人で暮らすはずの家に私がいるって・・・まして子供も産まれるなら私はいるべきじゃないよ。」
「未成年だぞ?」
「ーーー先輩が家が見つかるまでいて良いって言ってくれたんだ。」
嘘をついたーーー。
剛くんはその言葉に心底驚いてる。
「樹が?・・・今スタメンがかかってるか、就職にも有利になるからすごく大事な時期なのにそんなことあいつが本当に言ったのか?」
「・・・言ったよ、確かめても良いよ。」
嘘だけど、革新的なことを言えば剛くんは確かめないことを知ってるから私は確証的に伝えた。
「ーーーオレはきっとこれからも花のことをずっと心配すると思う。それは愛梨の妹だから・・・」
「剛くんはこれまでたくさん色々してくれたよ。もうそれで十分。ーーーありがとう。お姉ちゃんの妹だってこと考えないで。父親になるなら、お姉ちゃんと子供のことを考えて。」
「それはもちろん・・・」
「ーーー私の荷物そんな多くないし、取りに行こうかな。お姉ちゃん、今いる?」
「ーーーいるよ。でもそんな急がなくても・・・」
「先輩の家にお世話になるよ。でもきちんと家も探す、見つかったら連絡入れるからさ。」
私はそれを伝えて食べかけのピザをパクりと食べた。
「・・・いざという時に助けてやれなくてゴメン。」
「何言ってんの、剛くんは小さい頃から今も変わらずに私のヒーローだよ(笑)」
彼は本当に悔しそうに今にも涙を流しそうに目に涙をためていた。
1人になりたいと言った剛くんを置いて、
私はまだ住むアパートに戻る。
お姉ちゃんは寝室で寝ていて、体調が良くないんだと悟った。
ーーー起こさないようになるべく静かに大きなスーツケースを出してそこに私の必要なものを入れていく。
そして昨日着替えてない下着と服を取り替えたくてシャワーに入った。
「ーーー剛と会ったの?」
シャワーから出て冷蔵庫から炭酸水を取り出すとき背後からお姉ちゃんの声が聞こえて、
驚きのあまりにボトルを落としてしまった。
「ひっ!び、びっくりした・・・」
ちょっと顔色が悪くよく見ると痩せてしまったお姉ちゃんの姿がある。
「驚かせてごめんね。剛から・・・花に伝えたって連絡来たから。」
「ううん。わたし・・・剛くんとお姉ちゃんに甘えててゴメンね。」
「ーーー私の心が狭くてごめんね、花。生活費とかのことは心配しないで、私が・・・」
「お姉ちゃん、子供が生まれるんでしょ?私は大丈夫だから子供に当ててあげて。」
「花・・・」
「私は大丈夫だから!」
きっとお姉ちゃんは少なからず罪悪感を感じてる、
でもこれだけは認められないんだと言うことなんだろう。
だから生活費を出すと言ってる、
だけど私はこれまで支えてくれて金銭面でも支援してくれていたお姉ちゃんを恨んでないし、
逆に感謝しかない。
ーーー剛くんに対しても同じ。
「先輩の家に少しお世話になることになったんだ。だから心配しないで、何かあったら連絡するから。」
「ーーーこんな心の狭いおねえちゃんでごめんね。許してね・・・」
お姉ちゃんはひざまずいて泣いていたーーー。
大丈夫、私はきっと大丈夫だからと強がりを見せて2年半お世話になったアパートを後にした。
・
さて・・・
どこへ行こうかーーー・・・。
遠くはるか遠くに行ってしまおうか、
それは違う。
先輩と約束したばかりだから、
いつも破ってばかりだときっと愛想もつかされちゃう。
私は進んでいた道を反対方向に向けて歩く。
駅から乗ること二駅、
さっき出たばかりの先輩のアパートの前に来た。
オートロックも何もないアパート、
先輩の玄関外の前で替えの帰りを待とうと決めた。
後一泊だけ・・・
明日までお世話になりたいと伝えよう。
そして今後のことをきちんと自分の中で整理しようと決めた。
帰宅するのが早いと言ってた先輩、
本当に帰ってくるのが早くて4時過ぎには帰った。
「ーーー柊?こんなところでどした?入ってれば・・・」
そんなこと言われてもパスコードを知らない。
「ーーーダメでした。」
「えっ?」
私は階段登り私の方に歩く先輩に駆け寄って抱きついた。
「・・・剛くんと決別してきました。お姉ちゃんとも・・・わたし、1人になっちゃいました。」
先輩は事を察したように、
私の肩を支えて震えて泣く私を抱きしめてくれた。
ただずっと外にいるわけにもいかないから、
先輩はゆっくりと私を歩かせ、
中に入れてくれた。
「事情は分かったーーー。・・・大丈夫か?って言って大丈夫なわけないか。」
「ーーーあのっ・・・」
「ん?」
「今大変な時期だと言うのは承知しています。でも、後一泊だけさせてもらえませんか?図々しいのも分かっています!でも・・・」
「ーーー好きなだけいれば良い。」
「えっ?」
「アパートが見つかるまででも、好きなだけここにいると良いよ。ーーー無理してアパート見つける必要もない。」
真剣な眼差しで先輩は言った。
剛くんに嘘ついたことが本当になったーーー・・・。
「・・・ありがとうございます。でも明日までで大丈夫です!」
「ーーー明日以降は?」
「鎌倉に親戚がいて、そこに行こうかと・・・」
前に剛くんに手紙が来ていた事を思い出したーーー。
私を引き取りたいと。
会いに行った時は何も言われなかったけど、
きっとお父さん側の祖父母はこう言う事を見越していたんじゃないかなって今になって思う。
あの時断っておいて薄情だけど、
今はもう頼れる人がいないーーー。
だからお世話になろうかなって思い始めている自分がいた。
「とりあえず分かった。ただオレはいつ来ても歓迎だと言うのを忘れないでくれ。」
「ーーーありがとうございます。」
・
結局お世話になることになり、
私たちは昨日と同じように同じベットに寝た。
また過呼吸起きる可能性だってあるだろう、と。
ーーーそれを聞いて私は先輩の可能性を潰してしまわないかと不安になった。
私の周りにいる人の多くは私からいなくなる。
父も母も良くんも仲良かった勝くんもみんな消えた。
おじいちゃんもいなくなったーーー・・・。
私に良くしてくれる人はみんな消える。
その証拠にお姉ちゃんと剛くんも私は失ったも同然だ。
「ーーー先輩・・・」
私は横になる先輩に抱きついて自分からキスをした。
ーーー良くしてくれる先輩に何ができる?
「ど、どした?!」
「・・・私を抱いて・・・」
先輩が私のいろんな事を知って、
剛くんみたく私に過保護になってしまう気がして不安が襲う。
ーーー恋人という関係じゃなく、
隣にいる人になってしまうんじゃないかと不安が襲う。
私は自分のパジャマを自分で脱ぎ、
先輩のお腹に乗り唇を落とした。
「柊、待て!な、なに!?どした?!」
そんな私を阻止して距離をキープして先輩は焦って言った。
ーーーこの前までは先輩が我慢できないって言ってたのに、
きっと私には魅力がないんだろうなって思った。
「ーーー抱いて欲しいんです。」
「・・・またそれか。はぁぁ・・・」
大きなため息をつく先輩、
でも私は真剣だった。
「嫌なのは分かってます、でも・・・」
「今色々あって不安なのかもしれないけど、柊のことは今は抱けないーーー。」
そう言った、真面目な顔で。
そして私のパジャマを今度は先輩が着せた。
「・・・私のことは抱けないって、他の人なら抱けるってことですよね?」
「いや、そういう意味じゃ・・・」
「なんちゃって・・・笑。冗談ですよ、おやすみなさい。」
ーーー涙が出そうになるのを堪えて、
私は元いた場所に戻り目を瞑る。
今大事な時期って言ってたよね・・・
なのに何をやっているんだろう、と自己嫌悪。
2日一緒にいただけでこうも甘えが出る。
ダメだ・・・
先輩とは適度な距離を保って過ごさなきゃダメだと確信した。
ーーーいつか嫌われる、
いつか先輩も私の前から消える、
それは絶対だから。
・・・私は始発の電車で鎌倉に向かった。
まだ眠る先輩の横顔を眺め、
昨日のお礼で今度は私が朝ごはんを作った。
・
そして私は鎌倉に着いた。
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