#69. – Goh Side –
樹に電話をかけながら、
俺は花の部屋に入るーーー。
いつもと変わりない部屋、
何か変わったことはないか確かめたかったが、
俺の知る限りの変化は何もなかった。
・
「・・・電話に出ねえわ。ちょっと出てくる。」
樹は多分練習だろう、
時期的に今は追い込んでてもおかしくない。
オレは何度か電話しても繋がらず、
樹の大学に向かう。
「剛!待ってよ・・・!」
「愛梨は家で待ってて良いよ、疲れたろ?」
「ううん、私も行く!花がどこにいるか知りたいし・・・」
オレは何も疑うことなく愛梨と樹の大学に向かった。
そして愛梨を連れてきたことを心底後悔したーーー。
「えっ!!モデルのHANAじゃない?!えっ!なんでこの大学に?!」
噂に噂が広まりどんどん人が集まるーーー・・・。
人だかりに挟まれ、
その輪から出られなくなる。
ーーーせめて自分だけは抜けたいと、
必死に人を掛け回してオレは愛梨を置いて体育館に向かう。
愛梨が来ていることを聞きつけたバスケ部の連中も練習を抜け出して校内に向かってる。
「樹!」
その中でも1人興味を出さずにシュートの練習をしている樹をオレは見つけた。
「えっ、コーチ!?どしたんですか!?」
「あのさ・・・」
オレは少し遠慮がちに体育館に靴を脱いで入る。
「剛!酷いよ、置いてかないでよ!」
「ああ・・・悪い悪い。巻いたのか?(笑)」
「愛梨さんもきてたんですね、どうかされました?」
樹は俺たち2人がいることに驚きながらも、
いつもの冷静な対応をしている。
ーーーこいつは何も知らない、確信した瞬間でもある。
「花と・・・長崎帰って来てから連絡取ったか?」
「ーーー柊とは・・・」
樹の返事が聞ける時に、また愛梨を追って男女問わずの人たちが寄って来る。
「・・・ファンサしててやれよ。樹と話して・・・」
「イヤよ!私だって剛と一緒にいたいもの。」
愛梨は強い口調で俺に言う。
ーーー無理だろ、こんな騒がしくちゃ話したくても話せない。
もしくは樹と俺を話させないようにしてるのか?
と変な疑問を持ってしまう。
「ーーー部室に行きますか。」
だけど樹がナイスアイディアを出してくれ、
俺たち3人は部室に向かう。
初めて入る樹の通う大学の部室、
強豪校だけあり部室も大きく、
部員一人一人にロッカーが与えられている。
共有するのはシャワー室と筋トレ室だらしく、
マネージャーはまた別でマネージャー用の部室が用意されていると聞いた。
「で、柊のことですよね。」
適当にベンチに3人で腰掛け、
樹は俺に問いかけた。
「ーーー長崎に一緒いたことは知ってる。花が長崎から帰ってから連絡取ったか?」
「帰って来たの3日前ですけど・・・俺たち、1週間連絡取らないとか普通なんで連絡は取ってないです。」
「でも、昨日会ってたろ?その時の花の様子、変じゃなかったか?」
「昨日?・・・会ってないっすよ。オレは正樹と飯いってましたし・・・」
「約束してたんじゃないのか?」
「ーーーしてない・・・ってか柊に何かあったんですか?」
あまりにも質問ばかりするから、
樹もオレに質問を返して来る。
「・・・何でもないの。内輪のことなのにごめんね?」
焦るように愛梨が伝える。
「花が多分いなくなった・・・」
「剛!!」
オレが話したことを愛梨はすごく怒ってた。
ーーーだけどオレは樹は知るべきだと思ってる。
「いなくなったって?!どういうことですか?!」
「昨日、お前と会うって言って花は夜出かけたんだよ。オレも愛梨と会ってて・・・朝帰ったけど花がいなかった。」
「それだけなのよ?過保護にも程があるでしょ(笑)ごめんね?」
愛梨は笑ってるーーー。
「・・・いえ。柊がいなくなったと思う根拠はあるんですか?」
だが樹はオレの言葉を信じた。
「花は・・・どんな時も何かあったら困るから出かけるなら必ず連絡入れるようにと伝えてあった。だけど・・・昨日出かけてから一度も連絡が取れない。」
「電話は?」
「留守電につながる、電話に出ねえ・・・」
ーーー樹は立ち上がり、自分の携帯をロッカーから出し花に発信していた。
「ーーーもしもし。」
花は・・・樹の電話に出た。
「柊?・・・今どこにいる?」
樹は冷静を装いながら、
彼女に対して怒り、そして不安を抱えた表情をしてる。
「どうして・・・?」
わざと俺たちに伝えるように樹はスピーカーにした。
そこから聞こえる花の反応は、
樹の問いかけを疑う、そんな声だった。
「ーーー今から会えたりするか?」
誘導的に花を呼び出してる樹ーーー。
「・・・剛くんに頼まれた?剛くんが絡んでるなら・・・先輩とも会えないよ・・・」
樹は大きな深呼吸をしたーーー。
「今どこにいる?・・・今から行くよ。」
「・・・先輩に会いたくて大学に来た。」
「えっ!今行く・・・」
「ーーーどうしてお姉ちゃんと剛くんも一緒にいるの?」
俺たちは花の言葉に息を呑んで、
3人顔を見合わせる。
そして樹はハッと部室から唯一見える大きな窓の方に顔を出す、
そしてそこには花が立ってた・・・。
見えたんだ、俺たち3人が一緒にいるのが。
「・・・花!」
俺たちを見た花は、
そこから逃げ出すかのように走った。
ーーー自分の足じゃ追いつかれるのを彼女は知ってる、
それでも全速で走った。
樹は・・・窓の外を飛び越えて一瞬で彼女を後ろから抱きしめた。
「いや!離して!」
「ーーー落ち着いて、頼むから。」
冷静に樹は花を落ち着かせるために強く抱きしめる。
「バックハグかっこいいねぇ・・・」
こんな時でも愛梨は樹の行動を褒めている、
俺は疑った。
ーーー自分の血の繋がった妹が心配じゃないのかと。
「花、何で急に出て行ったんだ?あの日、オレ、傷つけるようなこと言ったのか?あまり記憶なくてごめんな・・・」
花は首を横に強く振った。
「そんなことないよ!違う!剛くんとお姉ちゃんには幸せになってもらいたくて・・・でもお姉ちゃんと幸せになるためには私が出ていかないとダメでしょ?」
「ーーーだからってすぐに出ていかなくても・・・」
「私がずっと剛くんに甘えていたんだよ、ごめんね。」
「ーーーなんで急に出て行ったんだ?」
オレはその理由を知りたいーーー。
「誰かになんか言われたんじゃないのか?」
花の答えを待っていると樹が口を挟んだ。
「ーーー違う。」
「柊の性格を考えると自分からアクション起こすとは思えない。誰かに何かを吹き込まれて自分を追い詰めたんじゃないのか?」
樹は10年花と一緒にいるオレより、
彼女のことを知り尽くしてるし、
きちんと見てくれていたーーー・・・。
「そんなことは・・・」
「ーーー花、もう良いよ。」
花が必死に否定してる中、
今度は愛梨が口を挟んだ。
「お姉ちゃん・・・!!」
「私よ、私が花に出て行ってって頼んだの。」
「違うよ!私が出て行くから戻って来てって頼んだの!」
「ーーーなんで?こいつ、まだ18だよ?未成年だぞ?」
昨日から小さな疑問が積み重なり、
やっと一つに繋がった。
ーーー全て愛梨が絡んでいたんだ。
「剛が・・・花ばかり気にかけるから!自分の気持ちを認めないから!だから離婚しようって言ったのに、今度は花がのこのこやって来るし・・・」
「だから・・・オレが好きなのは・・・!!」
「ーーー私からお父さんとお母さんも奪って剛も奪うの!?って言ったら花すぐ出て行くって言ってさ・・・」
オレが好きなのは愛梨だって言おうとした、
だけど今の言葉を聞いてオレは怒りを止められなくなった。
「ーーー愛梨、お前何したかわかってる?花は自分をずっと責め続けて過ごして来た、それをお前知ってるだろ?それなのに何でそんなことが言えるんだ・・・」
「ーーーどうしても剛と2人でいたいの・・・わかってよ。」
「愛梨はずっと勘違いしてるけど、俺にとって花は分身なんだよ。」
「・・・分身?」
それには花が反応した。
「ーーー良と花を俺は重ねている、花が成長するのを見て良を見ている。だから・・・俺が花に恋愛感情を持つはずがないし、花も俺をお兄ちゃんのように慕ってるんだよ。花は・・・俺をお前と重ねている。寂しく過ごして来た時間を俺を通して愛梨を見てるんだよ。ーーー分かんねえの、血の繋がった姉だろ?」
「分かんないよ!全然分かんないわよ!」
「愛梨が俺に対する気持ちと俺が愛梨に持つ気持ち、同じくらいだと俺は思うよ。」
・
「ーーー花ひどいこと言ってごめん。」
愛梨は最後きちんと花に謝罪した、
花は笑顔で何も言わなかった。
「とりあえず帰ろうか・・・ーーー」
俺は花と愛梨に提案する・・・
「ゴメン、少しだけ剛と2人にさせて欲しい。今後のこと、もう一度きちんと話し合いたい。花のことも全部含めてーーー。」
愛梨は俺と花に頭を下げる。
「じゃあ私は漫画喫茶かどこかに・・・」
花が笑顔で答えようとすると、
花の肩の上に樹の手がポンと乗った。
「・・・柊は一旦俺が預かりますわ。1人にさせるのもちょっと不安ですし。」
「練習は?」
「ーーー今日は自主練の日だったから大丈夫。帰る支度するから部室戻るかーーー・・・。落ち着いたら連絡くださいよ。」
樹は花の手を引いて部室に戻る、
その後ろ姿を見て樹の逞しい姿に微笑みが溢れた。
良を超える男だ、
たとえ良が生きて成長してても樹に出逢ったらきっと勝てなかったなと俺は微笑んだ。
ーーー花、よかったな。
と同時に思った。
「・・・俺たちも帰ろう。」
愛梨の手を引いて、
迷惑かけてしまった樹の大学を去った。
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