#68. – Goh Side –
1日だけで、
一年くらいの労力を使った気がした昨日。
ーーー花のおかげで、
愛莉が戻って来た。
・
仕事が終わってから愛梨と待ち合わせをし、
俺たちは彼女が気に入っているレストランに入る。
美味しそうに食べ、
本当に満足そうに、
幸せそうにしている彼女の表情が大好きだ。
「あの・・・モデルのHANAさんですよね?サイン貰えたりできますか?」
そして時々、彼女を知る子たちから声が掛かる。
愛梨はそんな声にも嫌な顔せず、
優しい笑顔で対応する、
そんな彼女も大好きだ。
「ーーーこの前雑誌でご結婚されたと読みました。こちらが・・・?」
「ーーーはい、主人です。」
「えーー・・・旦那さんもカッコいい!」
お世辞でも愛梨の隣にいるとこう言ってくれる人がいて嬉しく思う。
「これからも応援しています!」
最後まで笑顔で対応する愛梨、
俺と向かい合わせになるとどっと疲れた顔をする彼女の面白い表情も俺は大好きだ。
高校受験のために上京した東京で彼女はスカウトされ、
生活のためにと始めたモデルの仕事。
絶対にテレビには出ない、
モデル一本で行くという約束をして。
その仕事が彼女に合っていたのか、
愛梨は楽しく仕事をこなしていた。
・・・遠距離だった俺たちに寂しいという言葉は通用しなく、
毎日楽しむ彼女を俺はひたすら応援した。
俺が大阪に大学で行っても愛梨は文句も言わず、
応援し続けてくれた・・・ーーー。
そんな女は中々いないと、
自分のいく先を応援してくれる人は中々いないと俺は思った。
そんな愛梨だけど、
最近は仕事を休んでいる。
結婚してから遠方の仕事は断ってるが、
日帰りで行けるモデルの仕事も断り、
今は完全に仕事から離れている。
専業主婦になりたいなら俺はそれを受け入れる、
だけどあんなに大好きで天職だと言ってた仕事を簡単に放り出して良いものなのかと少しの疑問は残る。
ーーー何度愛梨に伝えても、
彼女は必ずこういう。
「剛と過ごす時間をもっと増やしたい。」
「私がいたらダメなの?」
ーーー最近の彼女は心が不安定で、
少しでも彼女の心を乱してしまったら手に負えなくなる。
そして必ずそこから花の話へとなり、
離婚という文字を口に出されることが増えた。
ーーーどんな彼女も俺は大好きだから結婚もした、
だから離婚なんて考えてもない。
だが最近彼女の心が読めないことも増えた。
勝手に家を出てアパート借りたり、
そうしたと思えば何度も電話してくる。
ーーー今どこで誰と何をしてるのかと。
だったら帰ってこいと言っても無理の一点張り。
それに花と暮らせと言ったり、
花といるのを見るのが辛いと言ったり今の彼女ははちゃめちゃだ。
「・・・う?」
「・・・」
「剛!?」
「えっ、悪い・・・何だっけ?」
「もうっ!この後どうするって話。」
時計を見るともう9時だーーー・・・。
酒を飲んだから結構長くいたんだな、と思った。
「・・・9時か。そろそろ帰るか?」
「ーーーわたし行きたいところがあるんだけど、行かない?」
愛梨はねだる時にする得意の顔で俺に頼み、
俺はその顔をされると断れないーーー。
のも彼女は知っている。
「ーーーいいよ、行こうか。」
俺たちは店を出る、
迷惑をかけたからと愛梨に奢ってもらった。
なんか女に奢ってもらうのってどうなんだ、
と心の中では思ってたけどここは甘えることにした。
路地を少し歩き、
細く迷路みたいな道に入るーーー。
ここの道はよく知ってる、
愛梨と付き合いたての頃によく来た街だ。
「愛梨・・・」
「懐かしくない?昔よく来たよね。ーーー久しぶりだから行かない?」
「今から?酒飲んでるぞ?」
「良いじゃない。わたし・・・剛と行きたい。ねっ、行こ!」
迷路の道の先に繋がるのは一つのホテル、
ラブホテルだ。
半強引に愛梨は俺の手を引き、
流されるまま俺は彼女の犬のように言いなりだった。
だけどホテルに入ってしまったら終わりで、
雰囲気と愛梨の色気に俺の気持ちはかき乱される。
愛しい妻が目の前に立ち、
少しの酔いで頬を赤らめる妻を・・・ーーー。
俺は容赦なく優しさのかけらもなく、
この数ヶ月抱けなかった分の思いを込めて彼女を抱いた。
「・・・付けないと・・・」
途中、愛梨は俺に言った。
「子供欲しいんだろ?だったらいらない。」
俺は愛梨の言葉を遮り、
彼女が眠りにつくまで何度も何度も抱いたーーー。
・
結局そのまま眠りについてしまって、
起きたのは夜中2時。
ーーーヤバいと思って携帯を確認するも花からの連絡は入っていなかった。
「ーーー久しぶりすぎて優しくできなくて悪かった。」
朝6時、
もう一度目覚めるとシャワーから出て俺の隣に座る愛梨がいた。
「ううん、嬉しかった。一つ聞いても良い?」
「なんだ?」
「・・・剛はさ、子供欲しいって思わないの?」
「えっ?」
俺は愛梨を見た。
「ーーーなんとなくそんな気がしたの。夫婦なのにいつも付けるし・・・さっきも欲しいんだろってまるで私だけが欲しいみたいに聞こえて悲しかった。」
「ーーーそんなことない、俺も願ってるよ。」
俺は愛梨を抱きしめて、
もう一度彼女を抱いた。
ダメだ・・・
彼女が愛しすぎて好きすぎて、
何度抱いても抱き足りない・・・ーーー。
子供欲しくないわけあるかーーー。
欲しいに決まってる・・・ーーー。
愛梨と自分の子供、
いたらどんなに幸せだろうか、って。
だけど・・・
子供ができた先のことを考えると怖い。
それが正直な気持ちだ。
母さんはいつもイライラしてたーーー・・・。
虐待こそしなかったものの、
良を溺愛していた。
良が出来たことに関しては自分のことのように喜ぶ、
それと同じことを俺がしても当たり前のような視線を送ってた。
ーーー母からの愛に良も怯え、
俺は良を守ると決めたんだ。
2人で支え合おうと約束したーーー。
だけど良は病で亡くなった・・・ーーー。
良が亡くなってから、
今度は俺を溺愛するようになった母さんから逃げるように俺は家を出たんだ。
だから..
もし自分に子供が出来たら・・・
花はどうなる?、
花に対して関心がなくなるじゃないかと俺は怖かった。
ーーー花は俺の子供じゃない、
だけどここまで時を一緒に過ごしてきた花はどうなる?
そう思うと愛梨と自分の子供がいる生活を想像出来なかった。
《 あぁ・・・そういうことか・・・》
そして愛梨が花に対して異様に嫉妬心を出してくる理由が分かった。
ーーー俺は花を良と重ね合わせているんだ。
だから花を切り離せない、
良を見捨てると同じように思ってしまうから。
花を通して良を見てる、
だから見捨てられない。
・・・弟と重ね、
花をまるで自分の子供・・・
分身のように思ってしまっていたんだと気がついた。
・
愛梨と俺は2回戦を終えて、
もう一度シャワーを浴びて自宅に戻る。
「ーーー仕事が休みで良かったよ笑」
「それ狙ったからね(笑)」
幸せそうに呟く愛梨を愛しいと思った、
やっぱりこいつと一緒に過ごしたいと思った。
9時過ぎ、自宅に戻ったーーー。
「花?帰ったぞ・・・」
だけど花の姿がないことに俺はすぐ気がつく。
「バイトでも行ったんじゃない?」
「ーーー何かあったら困るから出かける時はどんな時でも連絡するように伝えてあるんだ。無言でどこかに行くはずはないよ。」
「昨日彼氏さんと会ってたんでしょ?泊まったんじゃない?」
ーーー愛梨は俺から視線を逸らした。
何か知っている、そんな気もした。
だけどその前に愛梨の言うことも一理あるような気がしてオレは樹に電話した。
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