#66.
私は先輩より一足先に空港に到着した。
剛くんのお迎えも断ったし、
東京までの道のりをどうやって帰ろうか考える。
ーーー電車に乗るか、
バスで帰るか…
だけど私は両方の選択をせずに、カフェに入った。
ーーー私は先輩を待つ選択をした。
2時間なんてあっという間だから携帯を取り出して、
SNSを開く。
須永くんの写真や双葉の写真がアップされていて微笑む。
滅多に自分のには投稿しないけど、
長崎で撮ったハートストーンを私は投稿してみた。
そしてカフェオレを飲み干して、
到着ロビーへと向かう。
到着は定刻で遅延はなし、
もうすでに着陸していてきっと今頃荷物を受け取っているだろう。
「あっ…樹先輩!」
なんて思ってたら先輩が到着ロビーから出て来た。
私の呼ぶ声にフッと顔をあげ、
私を見た先輩は心底驚いてこっちに走って来た。
「えっ、どういうことだ?遅延したのか?…いや、メールきたよな…」
1人テンパってる先輩を見て笑いが溢れる。
「ふふ…待ってたんです。」
「え?」
「まだ一緒にいたかったし、羽田から一緒に帰れるかなって思って…」
先輩は私の顔を見てフッと笑った。
「ーーーこれは嬉しい誤算だったわ。バスで帰るか?電車が良いか?」
先輩は私の手を当たり前のように取り、
バスのチケット売り場まで向かった。
ーーー暗黙の了解でバスになった。
「電車じゃなくて大丈夫ですか?」
「ーーーバスの方が長く一緒にいれるだろ。」
「あっ…はい…」
恥ずかしいことをサラリと言うから私が恥ずかしくなった。
でも確かに先輩の言う通りでバスだったら1時間くらい隣り合わせに座って寄り添っていられる、
電車だと人目が気になるからと思った。
なんだか心が読まれている気がして悔しい気持ちもあったけど、
それ以上に先輩と一緒にいられるのが嬉しかった。
・
タイミングよくバスが来て、
今私たちはバスの中にいる。
ーーー何か飲むわけでもなく食べるわけでもなく、
手を繋いでいるだけ。
この手を一瞬でも離すのを惜しむかのようにずっと強く握ってた。
東京の夜は長崎に比べてゴミゴミしている気がする。
もちろん東京の良い部分もたくさんある、
でも先輩と良い思い出がたくさん出来た長崎に今戻りたいと思ってしまった。
「・・・また行こうな。」
「えっ?」
私が不穏なことを思っているのに気がついたのか、
先輩が私に話しかけてくれた。
「長崎でも…違うところでも。なんなら海外でも良い。また旅行に行こうな。」
「ーーーはいっ!!」
私はきっとすごい笑顔だったと思う、
先輩はそれを見てフッと笑った。
そして空いているバスの中で一瞬、
ほんの一瞬だけ唇を重ね合わせた。
なんとも幸せすぎるバスの時間だった。
でも1時間なんてあっという間、
すぐに新宿に着いてしまった。
「ーーー飯でも食うか?」
「良いんですか?」
時計を見ては5時、
軽くお腹が空いて来た時間。
「良いも何もお腹すいたんだよ(笑)」
「なら食べましょ!何が良いですか?」
「…柊は何が食べたい?」
「うどんが食べたいです、寒いから…」
了解、と言って先輩は私の手を引いて美味しいうどん屋に連れて行ってくれた。
手打ちうどんでうどんが作ってるのがガラス越しで見られ、
私は数回しか見たことなかったから動画まで撮ってしまって先輩に笑われた。
「今、毎日何をしてるんだ?」
「今ですか?」
「ーーー進路も決まってて、学校も行かないなら暇だろ(笑)」
「確かに…ずっとバイトを入れてましたけど、少し休憩しようかなって思っていました。」
「俺はいつも練習だったなーーー。今は練習終わりにバイトしてアパート代と生活費をなるべく自分で稼いでるよ。」
「ーーー何のバイトしてるんですか?」
ほんのちょっと先輩と連絡を絶っただけなのに、
いろんな環境が変わってて時の速さに驚く。
「家庭教師だよ。」
「モテそう…」
「…小学生相手にモテててどうすんだよ(笑)それに相手は4年生の男子だ(笑)」
私は苦笑いをして反応した。
ーーー長崎に来てくれてから先輩はよく話すし、
よく笑う。
嬉しいな、幸せだなって思う。
この笑顔、ずっど見ていたいなって思った。
「どした?」
先輩をみすぎてしまったようで、
先輩は不思議そうな顔で私を見る。
「いえ、なんでもありません…」
私は先輩から視線を逸らした。
・
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
「ーーー家まで送るよ。」
「いや・・・」
うどん屋を後にして私たちはホームに行く。
私の住むマンションは新宿から30分、
先輩はそこから二駅先に引っ越しをした。
「暗くなっちゃったし送るわ。」
「でもそしたら先輩が遅くなるし明日練習なんじゃないですか?私は明日休みだから…」
「俺が送りたいって言ったら納得するか?」
ーーー納得はしないけど、
若干言いくるめられた気がした。
結局最寄りに着いたのは7時前、
夕飯も食べたし遅くなっちゃった。
「明日はバイト入れていますか?」
「ーーー明日は8時までバイト入ってる。帰ってくるの9時過ぎになるから会えないと思うわ。」
ーーー読まれてたか、と思って恥ずかしくなった。
「また時間ある時にします!」
前を向いて私は先輩の手を少し強く握って伝えた。
「ありがとうございました。」
「ーーーまた連絡するな。」
「・・・はい、私も連絡します。気をつけて帰ってくださいね。」
「柊ーーー。」
「はい?」
マンションのいつものベンチで少し会話する。
先輩は私の名前を呼んで抱きしめて来た。
「えっ?」
「ーーーちょっと充電な。」
すぐに離して、じゃーな!と消え去った。
・・・突然で何が起きたか分からなくて、
私はしばらく放心状態だったと思う。
・
程なくして家に帰宅した私は剛くんが不在なことに気がつく。
ーーーそういえば私から連絡するのも忘れてた。
普段なら飛行機到着してから何も連絡しないと連絡来るのに今日は何一つ来てなかったことに今更ながら違和感を覚える。
ーーー何かあったのかな。
一瞬にして不安になった私は、
リビングに向かうけど誰もいない。
と言うよりも数日帰宅している気配が何となくないことに気がついた。
新聞が2日分あったり、
洗濯物がたまっていたり・・・
不安になった私は剛くんに電話した、
だけど電話が繋がることはなかった。
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