#62.
それから1か月、
私の長崎に行く日程が決まった。
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バイトも頑張ったし、
お給料もらった日は達成感で軽く涙が出た。
「ーーー10月13日に出発する。」
「その日、体育祭だろ?」
「・・・夜、出発する。」
剛くんと囲む食卓で、
旅行会社に行って予約を取ってきたことを伝えた。
本当は他日程が良かったけど、
格安チケットを選ぶとこの日しか空いてなかった。
剛くんは少し考えたように、
だけど《 思う存分楽しんでこいよ 》と言ってくれた。
体育祭当日までの1週間、
私は少しバイトを減らし休む時間も大切にした。
ーーー毎日のバイトで体が悲鳴を上げていたこと、
自分の体だからわかってた。
「年内最後の登校日が体育祭だなんて寂しい!3年は基本的に見てるだけでしょ?辛くない?」
双葉が私の隣にやってきてブツブツいってる。
「・・・確かに。でも双葉は楽しみなんじゃない?」
「まぁ・・・」
うちの高校は卒業生代表が何名か体育祭に来る、
今年は正樹先輩と樹先輩が来ることは須永くんからの情報で知っている。
「本当に好きなら手放したらダメだよ。」
「花は・・・?もう先輩のこと好きじゃない?」
そんなことない・・・
今でもすごく好き、だけど樹先輩が言うように良くんが心にいることも確か。
まだ前を向けていないから前を向きに長崎に行く。
「ーーー幸せになってもらいたいな、って思う。その相手が環でも、ね(笑)」
「花・・・」
双葉は何か言いたそうだった、
だけど良いタイミングで集合の笛が鳴ったから私は向かった。
正直、毎年体育祭は嫌だったーーー。
高校に限らず足を故障してから毎年出番がないし、
出る幕ないのに出席する意味はあるのかなって。
でも今年は最後の年だから・・・
高校3年間に関しては濃かったな、って思うし。
出番がなくても友達の活躍姿をーーー、
後輩の活躍する姿を見れるのが幸せだなと思った。
ほとんど登校日がない三年生、
須永くんは後輩に混じって騎馬戦を楽しんでる。
環も後輩に混じって二人三脚を卒業生と一緒にやっている。
徒競走でも全力で走り一位を取り喜ぶ、
その姿を見てるだけでも微笑みが起きる。
卒業生の姿も見えるーーー。
正樹先輩と樹先輩、井上先輩の本気の徒競走。
正樹先輩の勝ちだった。
同じ学年の3人だからすごく楽しそうに笑ってて、
体育祭をすごく楽しんでいて私も微笑んだ。
それに3年と卒業生による仮装リレーが1番盛り上がり、
須永くんはマリリンモンローに。
草田くんは暑い中チップの着ぐるみで、
正樹先輩はマドンナ、
樹先輩はセーラームーン、
その相手として井上先輩がタキシード仮面になってリレーをしていて体育祭1番盛り上がっていた。
ーーー私はみんなの活躍する姿を、
目立たない屋上からずっと眺めていた。
「あれ?花、ここで何してんの?」
そこに環が現れた・・・。
クラスの男子を探してて見てないかと。
ーーー校庭を眺めていたから誰も見かけてないと答えた。
「ーーー戻らないの?」
「わたし、出番ないし?ここから眺める方が色々見れるから楽しいかな・・・」
環に笑顔で伝えたーーー。
さっき環の出番が終わった時、
事前に樹先輩とハイタッチをしていたのを見た。
正樹先輩や須永くんみんなとしていたから環の性格から成り立つ関係なんだろうけど、
樹先輩と仲良くしているのを見ても前ほど黒い感情が浮かなくなった。
ーーー諦め、
そして慣れたんだと思う。
この人たちの関係に私がいなくなっても、
何も変わりはしない、
そう確信も出来た。
「体育祭終わったら時間ある?樹さんと花に会いに・・・」
「環、双葉から聞いたよ。環の好きな人は樹先輩じゃないって。誤解してごめんね。」
「なら・・・!!樹さんと・・・」
「でも、先輩は環のことを好きなんだと思う。」
「そんなはずないよ!!何いってるの?!この1か月半、先輩がどれだけ落ち込んで苦しんでるか・・・」
環はこの1か月半の先輩の様子を私に伝えようとした。
「環。・・・環は環で、私は柊以上にはなれなかった。」
自分の決断を揺るがれそうで環を遮った。
「ごめん、何言ってるか意味が・・・」
「たとえ先輩が環のことを後輩以上に見てないとしても、環と一緒にいるのを仲良くしてるのを見るだけで嫌な自分が生まれると思う。わたし・・・ずっと先輩と仲良くする環に嫉妬してた、友達失格だよね、ごめんね。」
「あの日、私は正樹先輩に振られたの。仲良かったしうまく行くと思って樹先輩は告白しろって私に言ってしまった責任を感じたんだと思う。ーーー傷心だったとはいえ人の彼氏にあんなことして最低だったと思う、ごめん。でもキスしてないから!寸前で先輩の手で止められたから!最低だけどゴメン!」
今、やっと環と冷静に話せてる気がする。
私は校庭を見たーーー・・・。
「見て、まるで高校時代に戻ったように楽しそうに無邪気だね。少しでも練習の気晴らしになってると良いよね・・・」
「子供みたい(笑)」
環は私の横に立ち並んで校庭を見た。
「ーーー先輩には幸せになってもらいたいなぁ。本当の先輩の姿を見せ続けて欲しいなぁ・・・」
私は涙を堪え環に言った。
「ーーー確かに、あんな笑う先輩は珍しいね。」
「でしょ(笑)環、先輩のことよろしくね。」
「えっ?」
環は驚いて私を見た。
「先輩は見た目以上に感情の起伏が激しいし、お子ちゃまなところがある。・・・甘えん坊なところがある。悩んでも口に出さないから、苦しんでそうなら声かけてあげてね。・・・彼を幸せにしてあげて。どうか・・・先輩のことよろしくお願いします。」
私は深々と環に頭を下げた。
「はな・・・」
その時、アラームが鳴った。
「ゴメン、私もう行かないと・・・」
「行くってどこに?!」
「ーーーじゃあね。」
「花!ちょっと待ってよ・・・花!」
私は泣き叫ぶ環を置いて屋上を出た。
更衣室で制服に着替え、
学校を出る・・・。
もう振り向かない・・・
ーーー自宅に戻り、
身支度を整える。
準備しておいたスーツケースを手にして、
私は空港に向かった。
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