【 君がいる場所 】#60. ちょっとした知り合いに*。

君がいる場所

#60.

ーーー正直お似合いだと思った。
だから邪魔してゴメン、
そう思って口から謝罪の言葉が出たんだと思う。

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「柊!」
「花!」
砂浜に足を持って行かれて、
ただでさえ歩くのが苦手だから…
先輩や環に敵うわけがないと分かってた。
「花!誤解なの…!!」
環は私の腕を掴んで逃げないように強く掴んでそう言った。
何が誤解なんだろう…
私は今、たった今、この目で見たのに…
「・・・2人、お似合いだと思うよ?なんか邪魔しちゃってゴメン・・・」
「柊ーーー」
先輩が何かを言いかけた。
「須永くんが、お肉が焼けるから早く来てって言ってたの。早く行こ、お肉なくなっちゃうよ!」
心はズタボロだったけど、
みんなで来ている以上、空気を壊したくなくて笑顔で先輩と環に伝えた。
「えっ・・・うん・・・」
環は困惑していたし、
先輩も戸惑ってたーーー・・・。
でも私は平然を装った。
須永くんのところに戻り、
何もなかったかのようにBBQを楽しむ。
正直・・・今すぐにでもこの場から去りたかった。

「明日ってそのまま帰る?」
「ーーー何も決まってねーな。」
双葉と須永くんの会話・・・。
「ならさ!このレストランに食べに行かない?!ここから近いみたいで今人気みたいなんだ!」
環が元気よく私たちに携帯画面を見せて来た。
「生パスタ美味しそう!ピザもある!」
「しらすピザが1番人気みたい!夫婦で経営してるみたいだし、雰囲気良いんだって。ここ寄ってから東京に戻らない?」
「オレ、参加!」
美味しい食べ物に目がない須永くんは即答。
双葉も正樹先輩も参上、
私も同意見の答えを出すしかなくて結局みんな行くことになった。
大学生組はお酒が進み、
焚き火をしながらいろんな話をしてお開きになったのは9時。
ーーー私は極力、環や先輩と話さないように心がけた。
「じゃ、また明日ーー!ごゆっくりー!」
何も知らない須永くんはわたしと先輩をからかいながら部屋に戻った。
ーーーこんな気持ちで何かあるわけないのに、と苦笑いで返した。

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「ふぅぅ・・・疲れたな。水、飲むか?」
部屋に戻りお風呂の支度をしてると先輩が大きな溜息・・・。
「いえ、大丈夫です。お風呂の予約時間なので・・・」
身支度をしてそそくさと部屋を出て、
その場でしゃがみ込むーーー・・・。
ダメだ、緊張する・・・。
先輩と話すだけで力が入る・・・。
今部屋を出たこの瞬間にホッとしている自分がいる。
どうしよう・・・
こんな気持ちで同じ部屋に寝れるのか、
私は不安になった。
ーーー湯船に浸かってても、
環と先輩のことばかり考えてしまう。
環はいつから先輩を好きだったんだろう・・・。
それなのに私は先輩のことをいつも彼女に相談してた、
好きな人の相談を受けるなんて辛かったと思うと、
傷つけていたことに私の胸も痛んだ。
先輩も・・・
きっと自分で気がついてないだけで環を好きだと思う。
元々誰とでも仲良くなれる環だけど、
先輩とは距離感なく兄弟のような恋人のような・・・
自然体の2人だなとずっと思っていたこと、
それで何度か先輩と衝突もした。
でもね、好きでもない相手を抱きしめないと思うんだ。
ーーー私という存在があるから、
きっと先輩は私のことを好きだと錯覚してるんだと思う。
本当は環のことが好きなのに・・・。
そう思いながら涙が流れ、
それがお風呂のお湯なのか自分の涙なのかわからなかった。

「あれ?花もお風呂だったんだ?」
お風呂を上がりドライヤーの共有スペースで環と鉢合わせる。
今会いたくない人の1人だ。
「あっ、うん・・・」
それだけの会話をしてドライヤーに戻り、
私は共有スペースを出ようとする。
「今日のこときっと誤解してると思う・・・!」
環はまた私の腕を掴んで引き留めた。
「・・・私は自分が見たものを信じるから。みんながいる手前普通にするけど、今は環と話したくない。」
それだけ言って、
掴まれた腕を離して部屋に戻った。
ーーーでも部屋にはもう1人、当たり前だけど会いたくない人がいた。

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「ーーー先輩、お風呂は?」
「オレはまだもう少し先の時間を予約した。先に寝てても良いからな。」
「ーーーそうさせてもらうと思います。」
私はこの旅行に来る時、
先輩に覚悟を持って来てほしいと言われた。
可愛い下着も買った、
可愛いパジャマも買った・・・。
でも結局そんなの使うこともなく終わろうとしてる。
ーーー環と先輩の仲の良さを見せられる、
その覚悟は持ってこなかったから余計に辛い。
「その前にきちんと話そう・・・」
先輩は部屋にある椅子に座ったけど、
私はそこから動けずにただ立ってた。
「ーーー」
「・・・柊は誤解してる。環とオレは・・・」
「今は・・・聞きたくないです!今はいいです・・・」
無意識に大きい声が出て来て、
それほど聞くのが嫌なんだと自分でも驚いた。
これでもないくらいの大きな声だったから、
先輩も驚いて立ち上がり、
私を優しく抱きしめた。
「えっ?・・・柊・・・?」
でも私はその腕を振り払った・・・ーーー。
「環を・・・環を抱きしめたその手で私に触らないで・・・」
また大きな声で叫び、
嗚咽が起きるほどの涙を流したーーー・・・。
先輩はその言葉を聞いて手を引っ込めて言った。
「傷つけて・・・悪かった・・・」
私はただその言葉に横に首を振った。
ーーー私の方こそ気がつかなくてごめんなさい、と言いたかった。
でも口に出せるほど勇気がなかった。

ベットに横になり気がつけば寝ていた。
ハッと起きた時、
先輩の姿はなかったからきっとお風呂に行ったんだろうと思う。
ーーー私はそのまままた眠りについた。

次の日の朝ごはん、
私は昨日一緒に海で遊んだ子と一緒になった。
食欲もなかったし、
ご両親がゆっくり食べられるように双葉と一緒にお姫様ごっこをして遊んだ。
途中参加した須永くんがすごい懐かれて、
私の王子様と言われて照れていたのが面白かった。
私の王子様ーー!
と最後すごい泣かれてバイバイしてて胸が痛いと切ない顔をしていたのも面白かった。
ーーーこの辛い中でも、
こうして笑わせてくれる人がいることに私は救われた。
「ん?なんだ?」
「ううん、楽しそうだなと思って笑」
私の視線を感じたのか須永くんは笑顔で問いかけてくれた。
ーーーやっぱり思う、
この人を好きになれたら幸せだったのかもしれないのに、って。

早めにチェックアウトをして、
私たちは伊東へ向かうーーー。
レストランに行く前に道の駅に寄って遊ぼうと正樹先輩が調べてくれていた。
「ーーーここ行きたかったの!船に乗れるんだよね!」
環はいつも通りのテンションで元気よく話す。
だけど双葉と環が会話してないことに鈍感な私でも気が付いた。
「足湯もあるんだってさ、先輩ナイスだわ!」
この微妙な空気の中、本当に良いの?と思うけど・・・
私は何も言わずついて行くことに決めた。

「よく寝れたか?」
「ーーーはい、先輩も寝れましたか?」
「おかげさまで。」
それくらいの会話しかせず、
私はずっと外を眺めていた。
懐かしい静岡の海を見て、
私は先輩ではなく良くんのことを思い出してた。
もし生きていたら今頃何をしていたのかな。
ーーー本当に結婚したのかな。
どんな大人になっていたのかな、など。
恋人と呼ばれる人と2人きりでいて、
他の男性を考える私も終わってると笑いが溢れた。

道の駅は夏休みだけあって多くの人で賑わってた。
私はワサビ漬けを手に取り、
剛くんへのお土産へと決めた。
そして環たちが船に乗ってる間、
私は足湯を楽しんだ。
1人だったけど、
逆に1人にさせてもらえたことに感謝した。

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お昼頃になり、
そろそろレストランに行こうということになって、
私たちはまた車を走らせ・・・
環が見つけたレストランに並んだ。
人気店なだけあって早めに行ったけど結構な混雑、
須永くんや樹先輩など男子チームは文句言ってたけど絶対食べる!と言って環は譲らなかった。
「大変お待たせしました。お席にご案内しますね。」
1人の若い女性がちょうど海の見える席に案内してくれた。
高速道路上にあるこのレストランは車も海も見えて絶景だ。
「ご注文がお決まりの頃に・・・」
「もう決まってます!マルゲリータ1つ、ボロネーゼ2つ、サーモンのクリームパスタ、ジェノベーゼ、4種チーズのピザをください。ドリンク付で!」
待ってる間に注文は決めていたから環はすぐ注文した。
「かしこまりました。ドリンクバーは後ろになりますのでご自由にどうぞ。」
その女性はにっこりと微笑んで、
厨房にいる男性に私たちの注文を伝えていた。

満席のこの店内、
ホールの女性も厨房の男性も1人ずつだ。
本当に夫婦で経営しているんだなと思った。
「ーーー人気な理由がわかるかも。」
「雰囲気良いし、景色も良いもんね!良いレストランを見つけてくれてありがとう。」
私は環にお礼を伝えた・・・ーーー。
「花のご実家もここから近いんだよね?」
「・・・うん、そうだね。まあまあ近いかな。」
ーーーあまりおばあちゃんの家の話はしたくなくて言葉を濁す。
「お待たせしましたーーー!マルゲリータと4種チーズです!」
「あっ、私だ!」
「オレも!」
注文が続々運ばれてくる、
他のお客さんに呼ばれたりで一人では対応できずに厨房の人が私たちのお料理を席まで運んでくれた。
「ボロネーゼとジェノベーゼで・・・」
それまでは良かったけど・・・
「ありがとう・・・」
とお礼を言おうとシェフの方を見てギョッとした。
「は・・・花?!」
向こうも私を見てギョッとしてる・・・。
「えっ、知り合い?このシェフと知り合いなの?」
環からのツッコミを喰らうも、
私は何をどう説明すれば良いのか迷ってる。
「えっと・・・」
「あっ、そっか!記憶消えてんだっけ?・・・なら覚えてなくて当たり前か。オレは・・・」
この人は何食わぬ顔で言う。
記憶がなかったことは先輩以外この中では知らないのに。
ーーー 注文入りました! ーーー
そんな時に注文が入ったからと呼び戻し。
「悪い!また!」
ーーーそして彼は嵐のように厨房に消えていった。

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