【 君がいる場所 】#59. 友達と先輩*。

君がいる場所

#59.

毎日、夏休みは暇だーーー・・・。
宿題に追われるわけもなく、
きちんと適度にこなす。
今週はバイトも少しのんびり入れているから前ほど忙しさを感じない夏休みとなっている。

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先輩に誘われた一泊でのBBQまで残り2日となり、
私は剛くんに外泊の許可をもらった。
「樹と泊まり?」と最初は渋っていた。
なんとなく剛くんは私たちがまだ一線を超えていないことを知っている、そんな気がした。
だけど先輩に言われたから行きたいんじゃない、
先輩と過ごす初めての夜だし、
友達もいる初めての夜だから思い出を作りたいと思った。
その思いを剛くんに嘘偽りなく伝え、
剛くんは最終的に納得してくれた。

当日、
10時に先輩が迎えに来ることになっていたから忘れ物がないかの確認を何度も行う。
たかが一泊でも心配性の私はいつも荷物が多い。
「一人の夜なんて久しぶりすぎて寂しいわぁ・・・」
なんて剛くんは冗談交じりで言っていたけど、
樹先輩にもきちんと挨拶してくれて笑顔で見送ってくれた。

「コーチ大丈夫だったか?」
「はい、楽しんでおいでって言ってくれました。でも1人はは寂しいなぁとも嘆いていました(笑)」

「お姉さんは?」
「今日は帰ってこないみたいです。」
私は正直お姉ちゃんの予定をあまり知らない、
特に生活に影響するわけでもないから剛くんが把握しているならそれで良いと思ってるからあまり干渉もしない。
「新婚でも・・・奥さんが家にいないってのは寂しいかもな(笑)」
「・・・確かにそうですね(笑)」
そんなくだらない話をしながら車を走らせてくれ2時間、
私たちは無事に先輩の知り合いがいるという静岡にあるペンションに到着した。

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「樹くんよく来てくれたね!」
「いえお誘いくださりありがとうございます。今日はよろしくお願いします。」
正樹先輩たちとも合流してペンションの中に入ると、
小太りのおじさんとおばさんが出て来てくれて挨拶をした。
「ここで朝食を食べてもらいます、こちらがお風呂で完全予約制になってるので忘れないでね。一応温泉だからゆっくり入ってくれて構わないわよ。」
ペンションというのは大きな一軒家を宿舎として貸し出しているようで、
一つ一つ丁寧にお部屋の案内から食卓やこの施設周辺のことも丁寧に教えてくれた。
「BBQはこの先にある青い屋根のテラスでやってるから5時以降に来てね。」
「ーーーありがとうございます。」
一度フロントに戻り置いておいた荷物を取る、
そして案内された3つの部屋に移動する。
正樹先輩と須永くん、
環と双葉、
暗黙の了解で少し離れた部屋に私と先輩だった。
もう少し先にも2部屋あって、
そこも今日は家族や夫婦の方で埋まっていると先ほど聞いた。

「水着に着替えて外集合ね!」
ペンションが海の家のように目の前が海一面で大興奮の環、
言いたいことだけ伝えて部屋に入った。
私は先ほどとは打って変わって、
突然現実味を増して来て緊張のあまりに挙動不審だったと思う。
「着替えれば?」
「でも・・・」
「昼間から何もしねーよ(笑)早く行かねえと環に言われんぞ。」
先輩に向こう向いていて欲しいと頼み、
私は過去最速で水着に着替えた。
ーーー先輩も水着に着替えていた。
「その水着、環と双葉と一緒か?」
「えっ・・・」
この日のために新調した水着、
環たちとお揃いで買おうと3人で買い物に行った。
「一昨日、部活の後にプールに行った時2人とも着用してたわ。・・・似合ってるよ。」
「ありがとうございます。」
傷口が見えないようにラッシュガードを上から羽織り、
私と先輩は部屋から出た。

海ではすでにビーチバレーを楽しむ環の姿が目立つ。
こういう場面では本当に目立つ環が心から羨ましいと思う。
本領発揮で須永くんと真剣勝負をしている。
ハンデとして環のチームには双葉も入ってるけど、
双葉がいらないくらい五分五分の戦いをしてる。
「マジでつえー・・・お前、前世男だ!絶対男だわ・・・」
結論としては須永くんが負け、
環は須永の奢りだー!と何に対してかわからないけどめちゃくちゃ喜んで今度は海の方に消えた。

「みんなもおいでよー!あっちのマリンアスレチックやりたい!」
そう一言告げて双葉を連行して海の中心に設置されていた案内所でアスレチックの申し込みをしていた。
マリンアスレチックがどういうものかは分からないけど、
遠くから見る限りちょっと奥深くにある海の上にエアーアスレチックが設置されててそこで遊ぶと言ったものになるようで対象年齢も決められていた。
「柊も海に入ってみるか?」
先輩は私を気遣って声かけてくれたけど、
突然アスレチックはレベルが高すぎると思った。
「いやぁ・・・さすがにこれはレベルが高すぎます。」
「ならオレも・・・」
「先輩、早くして!出発しちゃうよ!」
「いや、オレは・・・」
「花、ごめんね!ちょっと借りるね!」
「あっ、うん・・・」
勢いがありすぎて軽く返事しかできなかったけど、
先輩は強引に海に連れて行かれた。
もし足がきちんと動けばきっと私も一緒に行けた。
もし事故のトラウマがなければ私も行けた。
過去のことがみついても仕方ないけど、
この時ばかりは環の行動力が本当に羨ましいと思った。
ーーー消えゆく友達たちを眺めながら、
私は切実にそう思っていた。

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「お姉ちゃん1人なの?一緒にお砂で遊ばない?」
先輩たちが戻ってくるまでの2時間半、
私は小さな女の子と仲良くなった。
話を聞いていると同じペンションらしくて、
毎年夏に遊びに来ているとご両親が話してくれた。
「良いよ。どんなお家を作る?」
「私ね、プリンセスになりたいんだ。」
「じゃあ大きなプリンセスのお家をつくろうか。」
そうして2人で大きな家を作り、
女の子が持っていたプリンセスと王子様の人形でお姫様ごっこして遊んだ。
「ーーー花!長い時間待たせてごめん!」
2時間半くらいして戻って来た環たちが、
女の子と遊ぶ私を見て叫んできた。
「ごめんね、行かないと・・・」
「遊んでくれてありがとう。また遊んでね。」
「私も楽しかったよ、ありがとうね。」
女の子とご両親にお礼を言って環たちの方に戻った。

「女の子と遊んでたの?」
「あの子、同じペンションなんだって。」
「ーーーならもう少し遊んでれば良かった!花がいるからって切り上げて来たのにーーー・・・」
えっ、と思って環を見る。
「ーーーごめ・・・」
「その言い方はないだろ。柊は2時間半も待ってくれてたんだから感謝する方だと思うけど。」
ゴメンと言おうとしたらつかさず先輩が割り込んだ。
「えーーー、先輩だってめちゃ楽しんでたじゃないですか!」
そう言って環は樹先輩の肩をふざけて叩く。
もうすぐ付き合って3年、
どんなに長く一緒にいても私には環のようなことはできない。
ーーーきっとこの先ずっと出来ない。
だから先輩からもこんなに楽しそうに笑いかけてもらえることはないんだと思うと悲しかった。
2人の仲の良さを見せつけられている、そんな気がした。
「わたし、BBQ手伝ってくるね。2人はゆっくりしてて。」
いてもたってもいられなくて私は双葉がいるBBQの方に歩き出した。
ーーー歩きながら振り向いても2人は楽しそうに話してる、
私なんかまるでいないかのように・・・。

肉焼き場では須永くんが蒸せながらお肉を、
正樹先輩と双葉が楽しそうに野菜を焼いている。
私は何となく2人が良い雰囲気に見えて、
須永くんのお肉を手伝うことにした。
「手伝うことある?」
「柊ーーー!!飲みもん飲んできても良いか?少しだけ・・・喉乾く(笑)」
助けを求めていたかのような子犬のような視線で頼まれたら断れない。
「もちろん!ここ見ておくね。」
お肉を裏返しにして焦げ目がつくまで焼いてお皿に盛る。
新しいお肉を焼き始めたところで須永くんが戻って来た。
「ねえ・・・」
「ん?」
「・・・双葉と正樹先輩って付き合ってたりするのかな?」
「あーーー・・・一昨日から付き合い始めたってプールで言ってたな。」
「そ、そうなの?!」
驚きの勢いで椅子から立ち上がった私、
トングを落としてしまった。
「あっぶね・・・火傷すんぞ。まぁ驚くのも無理はないけど正樹先輩が在校の時から好きだったらしいぞ。」
「そうなんだ・・・へぇ、そうなんだ!素敵だね!」
「・・・オレにも天使が降りてこねえかな(笑)って、肉焼けてるわ!あれ、環と樹先輩は?」
「あっ、あっちにいたよ。私呼んでくるね!」
「おう、オレは肉を焼き続けますわ!」

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先程のテントに戻ったけど、環と先輩の姿が見つからず。
電話しても繋がらず、
キョロキョロ見渡すとちょうど先輩の後ろ姿が大きな岩の死角に入るのが見えた。
何であんな死角に?
環と何かあるはずない、そう信じてるのに。
大きな不安が押し寄せて、
自分の中の力いっぱいの力を振り絞って走った。

「環、落ち着けって。」
その言葉が聞こえて先輩と環が一緒にいるのは確実だと思ったから私は一歩踏み込んだ。
「何で?何で私じゃないの・・・!?こんなに好きなのに・・・」
「落ち着けって・・・」
そう言って先輩は環を抱きしめた、
いつも私を抱きしめるかのように彼女を抱きしめた。
「ーーー何で・・・」
「今回のことはオレにも責任はある。」
「だったら責任取ってよ・・・」
「えっ?」
その一瞬で環は先輩の唇を奪った・・・ーーー。

私は目の前で起きている今のことことが信じられなくて放心状態になった。
ーーー ガサっ ーーー
そしてふらついてしまって、
岩にあった雑草が音を立ててしまった。
「花・・・これは・・・」
「・・・ゴメン。」
何に対しての謝罪なのか分からないけど、
私の口から咄嗟に出たのはゴメンという言葉だった。
それと同時に私は来た方向へ走り出す。
「柊!」
先輩の声が聞こえたけど、
振り向けなかった。

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