#56.
車が走る中、
車内は全く聞いたこともないラジオが流れてる。
車の振動と、
ラジオから流れる音楽が程よくて、
私は気が付けば深い眠りについていた。
・
「・・・ぎ!」
「っっん・・・」
「柊!着いたぞ!」
遠くからなんとなく自分を呼ぶ声に少しずつ意識を戻す。
「えっ・・・」
「着いたぞ。」
そして目の前にいる先輩の顔が見えて一瞬で目が覚めた。
「やだ、寝ちゃった・・・すいません!
運転席に座る先輩に頭を下げるーーー。
「気にすんなって、疲れてんだろ。明日休みなんだからゆっくり休め。」
「ーーーはい。」
パーキングに止めて車から降りる先輩。
「雨も止んでますし1人で部屋に入れます。先輩も気をつけて帰ってください。」
私も急いで車から荷物をもって降り、
先輩に挨拶をした。
「ーーー分かったよ。気をつけて。」
「このジャージ、返却するの次の時でも良いですか?」
「・・・ああ。おやすみ。」
そう言って先輩は視線を私から離し、
車に乗った。
私も先輩の車が発車するのを見送って、
誰もいない部屋に戻った。
欲を言えばもう少し一緒にいたかった・・・。
でもなんとなく何かを考えながらひたすら無言で運転している先輩がいたし、
今日に限ってはこちらから強引に誘うのは出来なかった。
それに・・・
私の背中の傷も雨に打たれた衝撃なのか、
激痛を伴い、
さらに出血して流血しているのが肌を通して感じる。
自宅に戻りすぐにお風呂に入り、
体の芯から温めた。
「ひぃ・・・」
そして自分の傷を鏡越しに見るーーー、
背中だから見えにくいけど酷く腫れ上がっていて、
ケロイドが目立つ醜い自分の背中が見えた。
・
もうずっと気にしていなかった背中、
痛みも何もなかったし、
医者からも何か言われることはなかった。
でも、どうして?
雨に打たれたから?
雷が当たったの?
ーーー色んなことが頭をよぎる。
雷は鳴ったけど背中にあたってない、
どんな衝撃があったの?
焦りと不安で私は一気に青ざめた。
何をどうしても今日は誰もいない、
明日病院に行こう、
冷静を装って眠りについた。
病院での診断は化膿だったーーー。
雨に強く打たれた衝撃で化膿したのでしょうと。
結局、化膿止めと抗生物質が処方され病院は終わった。
《 部活何時ごろ終わりますか?ジャージをお返ししたくて。》
病院からの帰り道、
私は先輩にメールをした。
《 悪い、今日は予定があるんだわ。学校で須永にでも渡しておいて、受け取るから。》
返事が来たのはもう寝ようと思った10時過ぎ、
そのメールを見て会う気がないんだなと思った。
日曜日も結局連絡を取ることもなくその日が終わった。
なんとなく会う気がないのは感じたから、
私は剛くんとお姉ちゃんの時間を邪魔しないためにも早めに家を出て不動産屋に向かった。
今探し始めても早すぎることは分かってる、
でも何かしないと先輩のことを思い出したり、
孤独感を感じそうで自分自身がどうにかなりそうだった。
そんな気持ちだから、
不動産屋に行っても結局良い物件は見つからなかった。
・
月曜日、私は先輩に言われた通り須永くんに渡した。
「え?自分で渡せば良いのに?」
「ーーー私もバイトで、先輩も忙しいみたいで予定が合わなくて。でも必要だろうし早く返しておきたくて、お願いできる?」
「良いけど、今日部活に来るよ?来れば?」
「・・・ごめん。私バイトなんだ。」
私は嘘をついた。
バイトなんかないくせに、
先輩が会おうとしてないのを知ってるからウソをついた。
放課後・・・
先輩と正樹先輩がちょうど下駄箱から見えた、
だから私は視界に入らないように咄嗟に隠れた。
大きく深呼吸をして、
先輩たちがいなくなったのを確認してから私は正門に向かった。
ーーーそんな日々が続き、
ついに夏休みに入ってしまった。
夏休みはたくさん会おう、なんて言ってくれた言葉はどこに行ったのか。
この一週間、全く会わなかった。
連絡取らないと不安になるのを知ってるのに、
先輩は連絡もよこさなかった。
きっかけはあのBBQの日、
あんな我を失うほどの発作を起こした私に嫌気がさしたんだろう。
思い当たるのはそれだけだから、
そうとしか考えられない・・・ーーー。
だからこちらから連絡したら迷惑なのかなと、
私自身も連絡を控えた。
夏休みに入ってもバイト三昧で、
友達との予定すら私は入れなかった。
「えっ、環!?」
「ヤッホー!」
「どうしたの?!」
「花、バイトばかりでしょ?寂しくて会いにきちゃったよ!」
夏休みに入り早々に環たちにカラオケや映画に誘われたけどバイトで断った。
みんなで行く海もBBQも、
プールもことあるごとに断り続けた。
「ごめん、本当にバイトで・・・」
「私達は部活が終わって、夜ご飯食べに行くの!その前に花の顔見たくてね(笑)だから今日はここに待ち合わせにした!」
「えっ、みんなも来るの?」
「ーーーもう来ると思うよ!」
環の注文を取り、ドリンクを作って渡す。
その作業の間にこのやりとり、
焦る余裕もなく須永くんや樹先輩たちも私のバイト先に来た。
「・・・バイトだったんだな。」
注文を取りながら先輩は所々話す。
「はい。チーズケーキとブラックですね?」
少しの距離がありながら、
緊張感がお互いに伝わる会話をした。
「ーーー連絡できなくてごめんな。ジャージ受け取った。」
「忙しそうですもんね。受け取ってたら良かったです。」
ーーー私はコーヒーとチーズケーキをカウンターに差し出した。
「お待たせしました。チーズケーキとブラックです。」
「・・・ありがとう。」
商品を受け取った先輩は、
みんなの元へと歩いたーーー・・・。
「花、こっち手伝える?」
私は・・・
涙が出そうになるのを堪えていたけど、
突然手を握られ、
厨房の方に連れて行かれたことに驚いて一瞬で涙が止まった。
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