【 君がいる場所 】#55. 雨に打たれた記憶*。

君がいる場所

#55.

BBQまでのたった二日間が待ち遠しくて、
1日が非常に長く感じた。

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待ちに待った金曜日、
環と待ち合わせをした下駄箱に向かう。
「ーーーじゃ、現地で!」
教室から下駄箱まで須永君と一緒に行くと、彼は早々と消えた。
「須永君は現地集合なの?」
「正樹先輩の車に乗せてくれるらしいよ!女子たちは花がいるから樹先輩の運転で!」
双葉を待って、先輩と待ち合わせをしている駅に向かうーーー。
「コーチは遅くなっても大丈夫だって?」
「うん、明日お姉ちゃんが長い仕事から帰ってくるから迎えに行ってくるって。今日は帰ってこないんだ。」
「なら花も遅くなって大丈夫だね!」
私たち樹先輩組はお肉担当で、
スーパーに寄って少しの買い出しをして現地に向かった。

「ここの屋上でBBQが夏限定でやってるんだって、ビアガーデンみたいに。一応高校生だからノンアルで依頼してくれてる!」
「海とかでやるのかと思った!」
BBQと言えば海って印象が強いから素朴な会話を振りかける。
「うん、その話も出たんだけど・・・花が、海が苦手だと思うからって樹先輩が却下したんだよ。」
「えっ、そうなの?」
「うん!正樹先輩がこっそり教えてくれたよ。海、苦手だったの?」
「・・・ちょっとだけね(笑)」
正直嬉しかったーーー。
場所を決めるとき、私が来ることを前提に話してくれていたことが。
私の苦手なものを把握してくれ、
それを優先してくれたことが嬉しくて今すぐ樹先輩に抱き着きたいと思った。

「あっ!!!須永!井上先輩もいる!!」
エレベーターで屋上に上がり会場に着くと既に準備を始めている正樹先輩チームがいた。
環に促され双葉も駆け足でみんなの元に急ぐーーー。
「ん?どうした?」
その隙を狙って私は先輩の裾を引っ張った。
「ーーーありがとうございました。」
そして先輩の背中で死角になってた私はそれを良いように利用して、後ろから抱き着いた。
「お、おい!正樹たちに見られる・・・」
「ーーーすいません。でも私のことを考えてこの場所にしてくれたって聞いて・・・ありがとうございます。」
私は先輩から手を離して隣に立ち並び、お礼を伝えた。
「・・・柊が楽しいって思ってもらえれば。来週から夏休みだろ?行きたいところ考えておけよ。」
そして正樹先輩たちに合流し、
みんなで乾杯して、
BBQが始まった。

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お肉を焼くのは男子の係で、
樹先輩と井上先輩がお肉を担当。
正樹先輩が野菜の担当、
須永くんは制服に匂いがつくと困るからという先輩たちの計らいで私たちと一緒にテントの中でくつろいだ。
「お手伝いすることありますか?」
何度もそう伝えるけど・・・
「もうすぐ焼けるから待ってて。」
と言われるばかりで私たちも諦めた。

そして暫くして先輩たちに呼ばれたから、
次々に私たちはお肉や野菜を受け取った。
持ち込んだ肉もそうだけど、
コースについているお肉も焼いてくれていたから結構な量だけど、
さすがの運動部の人たち、
それだけでは足らないと最後はうどんまで追加してた。
「・・・もう入んない・・・」
「同じく・・・」
それに比べ女子チームはうどんまで辿り着かずに満腹感。
特に私は少食だから初めてご飯を共にする井上先輩には驚かれた。

食べるものも終わり、テントの中でくつろぐ私たち。
井上先輩の大学の話、
もうバスケは継続していないことも私はここで初めて知った。
正樹先輩の大学やバイトの話、
そして一人暮らしを始めた話ーーー。
樹先輩ももうすぐ一人暮らしを検討していることなど、
高校生ではなく大学生組の先輩たちの話で盛り上がった。
ーーー ババーン! ーーー
そんな時、大きな音が空に鳴り響いた。
「な、何今の音・・・?!」
それと同時に大粒の雨が降り出した。
「えっ!やば!片付けなきゃ!」
「雨だなんて聞いてないっすよ・・・」
雨と雷が鳴り響く中、
先ほどまでテントでくつろいでいた皆が動き出す。
食器を重ねる者、
鍋を洗いに出る者、
みんながそれぞれ濡れてるのに誰も気にしてない。
「花!この食器、中に片付けて来て!」
唖然と立ちすくむ私を環が大雨の中呼び、
私はハッとテントの外に出た。
出た瞬間に大粒の雨に打たれ、
着ていた半袖のシャツがびしょ濡れとなる。
私は環から食器を受け取り、
返却口まで持っていくーーー・・・。
あと一歩というところで、
また大きな雷がバババーンと鳴り、
私は大きな悲鳴をあげその場に食器を落とし、
しゃがみ込んで耳を塞いだーーー・・・。
「・・・ご、ごめんなさい・・・」
みんながこっちを見る、
必死に立ちあがろうとしても立てない。
息も苦しくて、
あの日の波の音と雷の音と重なって、
私の呼吸は荒くなる。
「ーーーでんわ・・・」
剛くんに電話、助けを求めないとと携帯を出すのも手が震えてうまく出せない。
「ーーー俺を見ろ!」
そんな時、私は先輩に強く抱きしめられ、視線を自分と合わせるように向き合わされた。
「大きく深呼吸するんだ。大丈夫だから・・・!俺の目をきちんと見ろ、何も起きない、大丈夫だから・・・」
「うっっ・・・」
「柊!俺の目を見ろ!分かるな?!」
私は涙を流しながら先輩の問いかけに頷いた。
「大きく息を吸って吐くんだ!」
その答えに私は首を縦に何度も振った。
「・・・その調子で深呼吸をしろ!何も起きない!俺がここについているから!良いな?!」
何度も何度もこのやりとりをしてくれ、
先輩も私と一緒に大きな深呼吸をしてくれた。
ーーーそのおかげで数分後に私の呼吸は落ち着いた。
「ーーーシャツに血がついてる。これ、羽織っておけ。」
テントの中に戻った私と先輩、
ボストンバックから自分のジャージの上着を出して私に投げた。
「須永!残り片付けて解散すんぞ!」
私を心配してテントに戻ったみんなだったけど、
先輩は須永くんを連れてどこかに行った。
私はテントの中のソファに寄りかかりただ一点を見てた。

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「無神経なことなら無視してもらいたいけど、雷が苦手なの?」
そんな無言を変えたのは一緒にテントに残った環と双葉だった。
私はその問いかけに彼女たちの方を見た。
「前に・・・差し入れ来てくれた時・・・あの日も確か雷が鳴ってコーチがすぐ駆けつけたよねって思って。」
双葉が言葉を選びながら私にいう。
その言葉に私は視線を足下に下ろした。
「ご、ごめんね!無神経だったね・・・」
私は首を大きく横に振った。
「ーーー私がまだ小さい頃、幼馴染と海に遊びに行ったんだ。その時、大雨と雷に打たれて波も高くなっちゃって・・・それに私たちは巻き込まれちゃったんだ。海の中にいたわけじゃなくて浜辺で遊んでただけだけど、雨が降って来た時点でもう間に合わなくて・・・助けに来てくれた両親も幼馴染も命を落としたの。だから・・・海は嫌い。雨も雷もあの時の事故を思い出すから怖い・・・」
私は耳を塞いだーーー・・・。
この雨の音が嫌すぎて。
「ーーー嫌なこと思い出させてゴメン!花、大丈夫!先輩の言うように今は何も起こらないから・・・」
環は私を強く抱きしめた。
「えっ、血?!」
だけどすぐに驚いて腕を離した。
「背中見せて!」
さっき、先輩も言っていたけど・・・
どうやら制服のシャツに出血が見られるようだった。
「だ、ダメ!帰ったら止血するから大丈夫!」
私は急いでそれを阻止した。
今ここで背中の傷を見られるわけにはいかない。
「そんなこと言ってらんないよ!良いから見せて!」
環は強引に私のシャツを脱がし、
双葉は誰も来ないようにテントの入り口を閉めた。
「うわっ、何これ・・・」
私は環が触る傷口にビクッと体を震わせた。
「見ないで、お願いだからもう・・・」
自分の傷を剛くんや家族以外の人に初めて見られ、
怖かった。
友達を辞められる、そんな気がしたから。
「花・・・頑張ったね。いっぱい背負って来たんだね・・・」
環はそう言って私を抱きしめ、
涙を流していたーーー・・・。
それは双葉も同じだった。
私たち3人は、テントの中で泣き崩れた。

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最低限の手当てをしてくれ、
身なりを整えた私たちは雨の中帰路につくことにした。
ーーー正樹先輩の車で私以外送ってもらうことに、
私は樹先輩に送ってもらうことになった。
行きとは違う助手席に座るこの感覚は、
何だかとても緊張した。

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