#53.
剛くんの言うように私は病院に行った。
ーーーいつも行く大学病院の脳神経外科に。
結果としては何も異常はなかった、
ただ外科で精密な検査を受けることになり、
診察が終わったのは3時を過ぎた頃だった。
・
疲れたーーー・・・。
安否確認の連絡を剛くんに入れ、
私は喫茶店に入り一息ついた。
チャイを飲みながら、
周りの楽しそうなカップルを眺める。
私と先輩も一緒にいる時は、
あんなふうに楽しそうに笑って見えたのかなと思うと少しだけ切なくなった。
ーーーそしてハッとした。
先輩のことを思い、
先輩にお礼を伝えなければならないことを思い出した。
ーーー携帯を取り出し、
先輩にメールを打っては手を止めるを繰り返す。
待って・・・
もしかしたら先輩は迷惑に思うかもしれない、
直接会いに行ったほうが考える時間もないし良いのではないかと私は迷った。
「ーーーもしもし、環。どうしたの?」
そんな時、環からの着信があってワンコールで出た。
「花がワンコールなんて珍しい!」
「携帯触ってたから、どうしたの?」
「今って近くにいたりする?今日、樹さんの大学でお祭りやってて今からみんなで行こうって話になったんだけど花も行かない?」
環は私と先輩の間に何が起こったのか知ってる。
双葉が心配して、あの日の夜に電話くれた。
そして環と3人のグループ電話で全てを話した。
「いや、わたしは・・」
と断ろうとしたけど、お礼を言うチャンスだと思って言い直した。
「・・・行こうかな。」
「じゃ、決まりね!今どこ?樹さんの大学の最寄りで待ち合わせで良い?」
「うん!そこで待ってるね!」
喫茶店を出て私は電車へと急ぐ、
高校からでもすぐ着くし、
ここからの方が時間がかかると思ったから。
・
「花!」
案の定、私の方が遅かったけど5分くらいだったからって笑顔で言ってくれて安心した。
「正門で待ってるって言ってたぞ、行くぞ。」
正樹先輩に誘導されて私たちは歩くーーー、
駅からの道はそんな遠くないからすぐ着くけど、
先輩にどんな顔をして会えば良いのか分からない私は緊張でこの道のりがすごく遠く感じた。
「樹!」
大学に着くと樹先輩は練習中なのか、
バスケのジャージを着用してて、
同じような服装の女子学生数名と男子学生数名とちょうど話しているところだった。
・・・この中に、この前のホテルの人がいるかもしれないと思うと私の足は止まった。
正樹先輩の言葉に先輩はこっちを振り向き、
手を挙げて反応したーーー・・・。
「ゴメン、やっぱり私帰る・・・」
「えっ!?」
驚いたのは環だった、ここまで来て?!という気持ちなんだと思う。
幸い、樹先輩は私がいたことに気が付いてない。
最初からいなかったことにしてもらえたらと思った。
「ごめん、まだ会う勇気ないや・・・。また学校でね。」
私は前に進む勇気がなくて、
来た道へと足を進めた。
2人はきっと理解してくれた、
《 わかった。》、その言葉だけを残してくれた。
自分自身を通してグループ内の恋愛は良くないと痛感してる。
付き合ってる時は良いかもしれないけど、
別れた時の気まずさと、
周りに気を使わせてしまうことから良くないなと思った。
ーーーそれでも好きになってしまう気持ちは否定出来ないけど。
多分、私たちの場合は求める大きさが違い過ぎたんだと思う。
私は先輩を多く求め、
先輩はそこまで私を求めてなかった。
ーーーバスケや仲間に私は勝てなかった、だけ。
ただそれだけだけど、
こんなにも悔しいんだなって思った。
きっと須永くんと付き合っていたら、こんな気持ち味わうことはなかったんだろうと最低な考えが頭をよぎる。
彼は・・・私を何よりも一番にしてくれてた。
私を好きだというのがひしひしと伝わって来てた。
その気持ちに応えることが出来たらどんなに幸せだっただろうとも思った。
・・・先輩より彼といる方が幸せになるのは分かってる、
大切にしてくれるのは分かってる。
だけど自分の心がそれを求めていなかった・・・
どんなに泣いても苦しくても、
私はやっぱり先輩が好きだから・・・ーーー。
「・・・勝手に帰んなよ!!」
そんなことを考えながら歩いていたら、
突然後ろから強い力で抱きしめられた。
私は目をギュッと瞑ったーーー。
自分の首にまわってる先輩の手にどれだけ触れたいと思ったか・・・。
でも我慢したーーー・・・。
「すいません、手を離してもらっても良いですか?」
私は冷静に先輩に伝えた。
「あっ・・・悪い。」
我に返った先輩はバツが悪そうに私を見て焦ってた。
「いえ・・・お祭りは楽しそうだったからと思ったんですけど今日は学校も休んじゃってるし疲れちゃうからやっぱり帰ろうかなって・・・」
何も聞かれてないのに必死で弁解してる自分にウケる。
「ーーー」
「昨日、先輩がいなかったら命も危なかったと聞きました。助けてくださりありがとうございました。それは直接お礼を言いたかったので会えて良かったです。」
「当たり前のことをしただけだから。」
「・・・そっか。じゃあ夕飯の買い出しとかあるので帰りますね。お祭り楽しんでください。」
私は笑顔で先輩に伝えたーーー・・・。
会釈してその場をさり歩き出す。
ーーーもうあとは前を向いて行こう。
そう決めて大きく深呼吸をついた瞬間、
「もうこれで終わりか?!」
わたしの耳に大きい声が届いた。
人の目を気にして外では滅多に手を繋がない先輩が、
今ここで大きな声を出していて驚いて振り向いた。
私の驚いた顔が先輩を我に返らせたようで、
先輩は私の腕を優しく引いて人の少ない通りへと隠れるように誘導した。
「終わりかって何ですか?その原因作ったの誰だと思ってるんですか?」
私は容赦なく先輩を問い詰めた。
「オレの責任だって分かってる、無責任だったと思う。ーーー悪かった。」
「謝るくらいなら・・・」
我慢していた私の涙腺が切れた瞬間だった。
「・・・ゴメン。」
「・・・先輩の優しさだったのかもしれない。その優しさは人を助けることが多いのかもしれない、でも時に人を傷つけるんです・・・」
私は先輩の胸元に拳を作って叩いたーーー。
「ーーーごめんな。」
何度叩かれても先輩は抵抗することもせず、
ただずっと謝って来た。
「・・・嫌い、嫌い・・・先輩なんて嫌い・・・」
先輩は嫌いと言われても何も言わないーーー・・・
でも先輩の胸にある私の拳を自分の手で握りしめて来た。
そして私の手を強く握り、
私を強く抱きしめた・・・。
「ごめん、不安にさせて悪かったーーー。」
先輩は半強引に私にキスを落とした。
「キスをすれば許されるとでも思ってるんですか?」
軽く睨みながら伝えると、
フッと先輩は笑った。
「思ってねえよ(笑)ただ、したかったからした。」
そんなこと言う先輩に私は抱きついた。
「先輩はずるいです・・・。私が先輩を嫌いになれないことを知ってる・・・」
「ーーーそんなことはねえよ、こう見えても結構焦ってたよ。」
私たちは見つめあって、
今度は優しい唇を交わしたーーー・・・。
・
「大学の祭り、今日だけだけど行かないのか?」
「ーーー実は今日病院だったんです。」
「えっ?」
「あっ、大きな問題は何もなかったですよ?でも疲れちゃったし剛くんにも心配かけると思うから今日は帰ろうかなと思います・・・」
先輩は少し考えるように黙った・・・。
「明日の6時以降、会おうか。今週は練習が早く終わるんだ。・・・今夜電話する。」
「ーーー無理しないで・・・」
と言いかけていたところを先輩が私の両肩をガシッと掴んで視線を合わせて強く言った。
「電話するから。」
「ーーーはい。」
私は微笑を浮かべて返した。
夜、本当に先輩から電話が来た。
あの後、大学に戻りお祭りを楽しんで・・・
正樹先輩たちとご飯を食べて、さっき帰って来たと教えてくれた。
「文化祭とは違うんですか?」
「ーーー文化祭とは少しちがう。完全な趣味の一環で、夏祭りって感じだな。」
来年もあると思うから来いよ、と言ってくれた。
誘ってくれたことじゃなく、
来年も一緒にいるのが当たり前のように話してくれたことが嬉しかった。
「で、明日は6時半以降なら会える。予定大丈夫か?」
「大丈夫です。6時半にいつものカフェで良いですか?」
「ーーー明日は駅前でも良いか?ロータリーらへんにいて。」
「わかりました、なら6時半に行きますね。」
「ーーーコーチには遅くなるって伝えておいて。」
「了解、楽しみです!」
そして朝を迎えた・・・ーーー。
あまりにも間隔が空くと自分でも内容を忘れてしまうものです( ̄O ̄;)
もう少し間隔を短く更新していきたいと思います、すいません。
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