#52. – Goh Side –
駅で須永と正樹と別れ、
オレは樹と一緒に自宅のある方に歩く・・・ーーー。
正直、
走って帰りたい気持ちがある。
だけどこの焦りを周りの人たちに気づかれるべきではないと思った。
・
ーーー駅から数分、後少しで樹の家の前を通る。
こいつもきっと心配なんだろう、
何度も携帯を確認している。
「ーーー合宿お疲れ。じゃあな!」
俺は何食わぬ顔で樹に伝えるーーー。
「あの、俺も柊に会いに行っても良いですか?」
案の定、樹は自分も一緒に来ると言った。
「ーーー花がいる保証ないぞ。」
「・・・分かってます。」
止める権利も俺にはない、
俺たちは花が待つはずの家に向かって歩く。
その数分の間に、
合宿寸前に何が起こっていたのかを樹は俺に話した。
「・・・完全に俺が悪いんですけど。」
「フォローのしようがないわ・・・」
「もし柊に何かあったとしたら、それはきっと俺のせいなんだと思います。」
「ーーー花はそんな弱くねーよ。それにお前のことは好きじゃないって言ったんだろ?だったら新しい男のところにいるかもしんねーじゃん(笑)」
花のことだからそれが嘘なのは分かるけど、
樹の反応を見るために俺はあえて話を振った。
「ーーー俺は信じてません。きちんと彼女と話がしたい、それだけです。」
俺はそれ以上何も聞かず、
道中までのほんの数分間、
沈黙が続いたーーー・・・。
玄関の前に着くと中からテレビか何かの音がする、
だけど人がいる気配がないことに少しの違和感を感じた。
ポストも確認した、
きちんと毎日取られている。
ーーー花はきちんとこの家にいることが分かる、
だけど何かの違和感を感じずにはいられない。
「・・・ちょっとここで待ってろ。今、呼んでくる。」
樹に変な心配を抱かせないために俺は玄関先で待つように伝え、
彼は玄関に飾ってある写真を見ながら「分かりました」と俺に伝えた。
・
ダイニングにもリビングにも花の姿はない、
だけどテレビは花の好きな録画の番組だ。
彼女は確かにここでテレビを見ていたーーー・・・。
花の部屋を覗いても俺の部屋を覗いてもどこにもいない。
念のためにベランダを確認するも、
出た気配も彼女がいる気配も何もない。
ーーーそしてハッとした。
風呂かもしれない!!と。
小さい頃から祖父母に叱られたり、
おばさん家族に罵倒された時・・・
外出なんて許されなかったから彼女はいつもお風呂場に隠れていたと愛梨から聞かされたことがあった。
俺は方向転換し、
洗面所のある玄関近くまで行くーーー。
扉が閉まってて気が付かなかったけど、
電気がついている。
ーーー風呂場の中も。
「花!?」
そして見つけた、そこにパジャマ姿で倒れ込む彼女の姿を。
「花!しっかりしろ!大丈夫か!?」
俺の叫び声にすぐに反応した樹は彼女の様子を見てすぐに氷水と飲料水を持ってきた。
「ーーーのぼせたのか?」
「多分そう思います。とりあえず寝かせたほうが良いと思うので・・・」
樹は俺から花を受け取り、彼女の寝室に運んだ。
その間に彼女の着替えの支度を整えた俺は、
樹に外で待つように伝え彼女の衣類を着替えさせた。
ーーー花のこう言うことは慣れている、
これまでも何度も彼女は体調を壊してきた。
その度に俺は彼女を看病して来たし、
むしろ実の姉の愛梨よりも兄らしいことをしていると思う。
ーーー花の裸なんて慣れっこだ。
樹が準備してくれた氷枕や冷えピタを乗せ、
寝室を出た。
ーーーこれで数時間様子を見ようと思った。
・
「ーーー巻き込んで悪い。」
「いえ、多分体が冷えてくれば熱が下がって目が覚めると思います・・・」
「ーーーだと良いが。」
「コーチも昔習ったと思いますけど、バスケの講習で習いましたよ。」
「ーーー忘れたわ笑。樹がいてくれて助かった、ありがとう。」
「いえ・・・正直羨ましかったっす。」
「羨ましい?」
「コーチは・・・当たり前のように彼女に触れて、きっと肌の温もりも当たり前に感じてるんですよね。オレなんて・・・怖くて触れられないっす。ヘタレです(笑)」
笑ってるけど苦笑いしてる樹に対してオレは伝えた。
「ーーーお前と気持ちが違うから。俺は花を妹以外の感情はない。樹は違うだろ、だからだよ。俺とはなは家族、だからできるんだ。もしオレが愛梨に対してだったらきっと緊張するんだろうなぁ(笑)」
ーーー樹はオレが差し出したお茶を一気飲みした。
「今日は帰ります。ーーーお大事にしてください。」
「気をつけろよ。今日は助かった、サンキュー。」
玄関まで送り樹は帰った・・・ーーー。
俺は荷物の整理をして、
ホッと一息ついたーーー・・・。
安心したのか、
疲れが溜まっていたのか・・・ーーー。
そのままソファで深い眠りについていた。
・
香ばしいコーヒーと食パンの匂いで目が覚めるーーー・・・。
うっすらと目を開ける、
夢でも見てるかのように台所に立つ花の姿が見える。
「えっ・・・もう朝か!」
時計を見て焦った俺は、
昨夜はそのまま眠ってしまったことに冷や汗をかく。
「ーーー起きた?昨日はありがとう。ってあまり覚えていないんだけど・・・」
昨日の花とは違う、元気そうな彼女が言った。
「ーーーお礼なら樹に言ったほうが良い。俺は何もしてないよ。」
「・・・分かった、なら後でメール・・・」
「直接伝えたほうが良いと思うぞ。・・・下手したら命を落としてた、それを助けてくれたんだぞ。」
「そっか、そうだよね!分かった!」
ーーーいや、メールで十分だと思ったけど。
樹に対する俺からのお礼だ、
花と話す時間を与えてあげようと思った。
「ーーー今日は1日休め、明日から学校に行きな。」
「うん、今日は病院に行くね。」
昨日の経緯を聞き、
風呂場で考え事をしていたら、
強い頭痛に襲われた。
そこからの記憶がない、とーーー・・・。
花はよく頭痛を起こす、
それも踏まえて一度きちんとみてもらうように、
俺は彼女に受診するように促した。
先に彼女を見送り、
その後に俺は学校に向かったーーー。
「花は?!いた?!」
「いたよ、心配かけたな。」
「ほんっと!過保護なんですって!」
隣でキンキン響く環の言葉に耳を塞ぎながら、
今ここにみんながいることがどれだけ幸せかを自分自身で噛み締めていた。
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