#50.
その日、
私は人生で初めて過呼吸を起こした。
・
今まで精神的なことから何度も体調不良になったことはある。
でも過呼吸は初めてで、
私はその場にしゃがんだ。
ーーー気持ち悪い、そう思ってしまった。
誰かもわからない相手と先輩に対して気持ち悪さを覚え、
そこから息が苦しくなって立っていられなくなった。
偶然なのか必然なのか、
すぐ近くにいた双葉に私は助けられ、
そのまま保健室へと運ばれた。
「ーーー大丈夫?」
「ごめん、寝不足かな・・・笑」
双葉はとても心配してくれていたけど、
チャイムと同時に教室に向かった・・・。
私は1時間目も2時間目も吐き気が治らなくて、
ひたすら目を瞑った。
「花、大丈夫か・・・?」
心配した剛くんは休み時間に私の様子を見に来た。
起きあがろうとした私を彼は止め、
ベットの横にあった椅子に座った。
「ーーーうん、ゴメン。3時間目から出るから。」
「・・・無理すんなよ。」
保健室から出ていく剛くんの後ろ姿を見て、
心配しかかけていないことに胸が痛んだ。
教室に戻り授業を受けるーーー・・・。
でも今日の私は全く集中出来なくて、
終始違うことを考えてた。
・
何となく・・・分かってた。
こうなることは分かってた。
いつかこんな日が来ると思ってた。
ーーー先輩が私を抱かない理由も勘付いてた。
麗華さんじゃない、
他の誰かがいたことには気が付かなかったけど、
私以上に優先するものが先輩には多かった。
それがバスケだけだと思ってた、
だから同期の人に呼ばれても快く受け入れた。
ーーーもし、私が行かないでと言ったら何か違ったのかな。
もっと先輩に自分の気持ちをうまく伝えていたら、
私を第一に優先してくれたのかな。
・・・きっと違う、
気持ちの温度差が大きくて、
先輩は私を第一に考えるまでの気持ちがなかったんなと思う。
おそらく昨日一緒にいたと思われる人はマネージャーさん、
その人と一緒に過ごす時間の方が多くて、
気持ちがきっと向いてしまったんだと思う。
本当は・・・
昨日も今までも同期に呼ばれていたのではなく、
このマネージャーさんだったのかもしれないと思うと一緒に過ごして来たこの時間は何だったんだろうと悲しい気持ちになった。
・
「ーーー柊!柊!」
「えっ?」
「・・・もうみんな下校してるけど、大丈夫か?」
須永くんの私を呼ぶ声にハッとして辺りを見ると誰もいない、
窓の外を見ると少し薄暗くなってた。
「ごめん・・・」
「いや、良いんだけど。大丈夫か?体調戻らないんじゃないのか?」
須永くんと話すのは本当に久しぶり。
交流試合で彼が負けてから、努力するとは言われたけど気まずい空気でお互いに話せてなかった。
ーーーその交流試合のこともついこの前だと思ってた。
あの時の先輩は私を須永くんに取られる気はしないと試合で気持ちを見せてくれた。
今ここで試合をしても同じような先輩の姿はきっと見れないんだろうなと思う。
「・・・迷惑かけちゃってごめん。帰るね・・・」
私は席を立ちカバンを持って彼に笑顔で伝えた。
教室を出て下駄箱で靴を変える。
《 悪い、会議が長引く。夕飯食べて帰るから適当に食って、ごめんな。》
そんな時に剛くんからのメッセージが届いた。
ーーーお姉ちゃんもいない、
剛くんもいない・・・
1人か、と思い落胆した。
剛くんからのメッセージを閉じ、
私は先輩から大量のメールと着信を受けていることに気が付いた。
《 ーーー誤解を解きたい。土曜に会えないか?》
《 もう学校終わってるよな?電話に出てほしい。》
《 ーーー練習が終わったら会いに行く、話がしたい。》
《 悪い、練習のあとに監督に飯に誘われた。ーーーゴメン。また連絡する。》
最後のメールを見て会えなくなったことにホッとした自分がいた。
やっぱり先輩も私の耳に女性の声が届いていたのを気がついていたんだね。
ーーー説明を必死でしようとしてるところ、
黒としか思えない。
・・・悔しくて悲しくて下駄箱で震える手を我慢する。
「・・・なんのために生まれて来たんだろう・・・」
心の声がボソッと出たーーー・・・。
結局コンビニで夕飯は買って帰り、
1人寂しく食べ、
お風呂も澄まして寝ようかなと思ったところに剛くんが帰宅した。
「ーーー今日は悪かったな。」
「慣れっこだよ、大丈夫。気にしないで。」
ほら、私はまたこうして強がるーーー。
本当は寂しかった、と言えば良かったのにと思った。
「・・・寝るのか?」
「そろそろ寝ようかなと。」
「花、愛梨の撮影が伸びて、来週末まで帰れないって今連絡来た。」
「ーーー分かった。なら夕飯なしね。」
笑顔で応える。
「オレも・・・明日から月曜まで強化合宿に参加することが決まった・・・」
「ーーー了解、剛くんもいないんだね。」
「ーーーその合宿、全国の有望な子達が集められる強化合宿で樹も正樹もそこに入ってる。・・・須永も急遽参加になって明日の朝、ここに来て一緒に向かうことになってるよ。」
「凄い、元バスケ部が集まる感じだね!教え子が来てくれるの嬉しいね!」
「ーーーそうだな。」
私が強がってるのを剛くんはきっと気が付いてるんだね、
だから気まずそうに申し訳なさそうに話してくる。
それ以上話していても空気が暗い気がしたから、
場所や時間など詳しいことは聞かなかった。
次の日の朝、
須永くんは8時過ぎにやって来た。
「中で待つ?」
「・・・いや、外で待たせてもらいます。」
コーチの家だからなのか、
緊張するという彼は玄関の外で剛くんを待った。
そして8時過ぎ、
私は彼らを見送ったーーー・・・。
そしてすぐに自分も身支度を始めた。
前々から行こうと思ってた、
良くんのお墓参りに・・・。
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