#49.
ーーーこういう時どこに行けば良いのだろう。
きっとみんな友達のところに行くのかな・・・
でも私は、
そういう時に頼れる友達が環と双葉以外誰もいない。
それに性格的に友達に頼るタイプでもない。
・・・今は誰よりも先輩に話を聞いて欲しくて彼に電話をかけた。
・
珍しいーーー。
長く続く着信音が機械的な留守番電話の音声と共に切れ、私も電話を切る。
私はそれを何度か繰り返したけど、
先輩がそれを出ることはなかった。
ーーー何だろう、変な不安が私の心を占領する。
こういうときの女の勘って当たるっていう、
私は嫌な予感がした。
事故に遭ったんじゃないか。
友達と飲みつぶれて寝てしまっているんじゃないか。
それとも・・・誰か別の女性と一緒にいるのではないか。
不安で不安で仕方なくて、
何度も電話したけど先輩が電話に出ることはなかった。
いつもならどんなに遅くなっても折り返しかかってくる電話、
それすらなくて私の不安を倍増させた。
「花!!どこ行ってたんだ!?何度も連絡・・・」
先輩と繋がらなくて行く当ての途切れた私は仕方なく自宅に戻る、
分かっていたけど、剛くんは私に対して怒鳴った。
「ーーー頭冷やしたかったの。ごめんなさい。」
剛くんの顔を見ることは出来なかったけど、
21時を過ぎているんだから怒られても仕方のないことだと思う。
高校生が一人で出歩く時間じゃないことくらい私も分かっているーーー。
「花・・・愛梨が・・・」
「ゴメンね、今日は疲れたからもう寝るね。」
剛くんがお姉ちゃんの話をしだしたとき、
私はその話題を避けるためにお風呂場へと逃げた。
・
シャワーを浴びながら私はどうするべきなのかを考えた。
お姉ちゃんが傷ついていることを知った今、
一緒に暮らすことは出来ないだろう。
唯一の肉親であるお姉ちゃんが離れて暮らし、
私を父方の祖父母のいる鎌倉に送ることを考えているのであればそれが一番なのかもしれない。
そう思う反面・・・本当にこれで良いのかなと言う気持ちが心に残る。
私の意志は誰も尊重してくれないのだろうか。
こうして大人の都合に振り回されながらこの先も暮らし続けて行かなければならないのだろうか、と。
ーーーお姉ちゃんの言う通り、
お父さんとお母さんが生存していたらこんな問題も起きなかった。
どうして私が生き残ってしまったんだろう。
どうしてあんな日に出かけようとしてしまったんだろう。
どうして良くんだけじゃなくて、
両親も助けようとしなかったんだろう。
大人だから大丈夫、なんて思ってしまったんだろう。
結果、どう考えても私は最悪な形で姉から大切な両親を奪ってしまったことに変わりはない。
やっと掴んだ姉の幸せをまた壊すわけにはいかない、
大切な人だからこそ守ってあげなきゃと思った。
・
「ーーー愛梨は群馬で仕事が入って週末までいないから夕飯は愛梨の分は作らなくて良いからな。」
次の日の朝、剛くんは言った。
確かにお姉ちゃんの気配はしない、早朝に出かけたという。
おかしいでしょ・・・
この状況で数日不在なんて・・・
前から決まっている仕事であれば直接言ってくるのに、昨日の今日で私は剛くんから聞かされている。
ーーーつまりお姉ちゃんは私と会うことを避けている、
それは私と言う存在がお姉ちゃんを傷つけているということにも繋がっている。
「ーーーうん、分かった。」
剛くんに悟られることのないように笑顔で答えたけど、
私は週末までに答えを出しなさい、遠回しに姉からのメッセージのような気がした。
「あのさ・・・鎌倉の祖父母の連絡先を教えてもらっても良いかな?」
「えっ・・・?」
剛くんにしか頼めないことを私は真剣な眼差しで頼んだ。
「ーーー一緒に住むとかそういうことじゃなくてね、ただ・・・一度話してみたいって思ったんだ。」
「・・・愛梨が昨日言ったことならオレが説得して・・・」
「ううん、そうじゃなくて。ただ私を知る人がまだいたんだって思ったら話してみたいなって思ったの。会った記憶もない人たちだけどそんな人なんだろうって思って(笑)」
悟られないようにゆっくりと話すーーー。
何年も一緒にいるから剛くんの表情で気持ちのいくつかは分かるようになった、
大丈夫ーーー。
「分かったよ。仕事から帰ったら連絡先渡す。」
「よろしくね!」
剛くんが学校に向かった後、私はお姉ちゃんにメールを送った。
《 傷つけていることを気が付けなくてゴメンね、お姉ちゃん。群馬なんて嘘だよね、帰って来て。》
《 私も言いすぎてごめん。花のことは大好きよ。ーーーごめんね、急な撮影で本当なの。日曜に帰るね。》
《・・・鎌倉の祖父母に会ってみることにしたよ。ゴメンね。》
《ーーー私が帰るまで、剛のことよろしくね。理不尽だけど頼れるのは花しかいないから。》
お姉ちゃんはきっと葛藤しているんだろうと思う、
剛くんを取られたくない気持ち、妹に対する気持ち、そして剛くんを一人にする妻としての不安など・・・
はたから見たら自分勝手な言い分かもしれないけど、
私は姉の気持ちが少しだけ理解できる。
私にもそういう部分があるからーーー。
・
学校に着いた私は携帯を見たーーー・・・。
そういえば先輩から連絡がないなって・・・。
連絡取り合わない日々が続いても何も問題なくても、
折り返しに関して次の日を超えて連絡がないなんて初めてのことで鳥肌が立った。
何かあったんだろうか、その線に対して不安に感じた私は発信ボタンを押した。
「ーーーもしもし。」
発信元を見なかったのだろうか、誰だか分かっていない・・・
寝ぼけている様子の先輩の声が耳に届く。
「ごめん、寝ていましたか?」
「えっ、柊!?どうかしたか!?」
焦った様子の先輩、布団から出る音が電話越しに聞こえてきた。
「いや、えっと・・・」
「悪い、今立て込んでて・・・あとでかけ直す!」
「わかりま・・・」
分かりましたって言おうとしたら、背後から女性の声が聞こえてしまった。
「樹、そろそろチェックアウトしないと練習に遅刻する!いそご!」
私は聞こえない振りをしたくて、
何も言わずに電話を切った。
そっかーーー・・・・
そういうことかってなぜか納得している自分がいた。
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