【 君がいる場所 】#48. お姉ちゃんの本心*。

君がいる場所

#48.

私は木曜日、先輩に会った。
2週間ぶりの先輩はまた一段とカッコ良くなった、
そう感じた。

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「まずは合格おめでとう。」
いつもの店で今日は奢ってくれるというから何事かと思ったらどうやら先輩なりの合格祝いだったらしい。
「ありがとうございます!これで遊べますー!」
「ーーーだな(笑)これ、合格祝い。」
そしてザラにもなくカバンから一つの箱を取り出した。
「えっ、私にですか?」
「ーーー他に誰がいんだよ(笑)」
照れるのを隠し、私はその箱を受け取って開封した。
そこにはとても可愛らしいパスケースが入ってた。
「・・・今、柊は徒歩通学だろ?短大に通うにしても定期が必要になると思って・・・女性にプレゼントなんて全く見当もつかなくて大変だったんだぞ。」
私はそのパスケースを胸元で強く抱きしめた。
「ーーーありがとうございます、大切にします。」
先輩は照れ隠しで目の前にあった飲み物を飲み干した。
それから剛くんと少し討論してしまったことや、
知らない人からの手紙についても話した。
「・・・オレはコーチとの関係性が柊に比べたら薄いから上辺のことしか言えないけど、もう一度その手紙の主についても話した方が良いと思うぞ。」
「ーーーですよねぇ。」
「多分また討論になるんだろうけど、そうやって気持ちを伝えていくしかないだろ。コーチが迷惑じゃないって言ってるんだから一緒に暮らすのは問題ないんだろうけど、柊の気持ちもすごく理解できる。きっとオレが同じ立場でも一人暮らしをしようと思ってると思う。」
「・・・もう一度きちんと話してみます。」
「ああ。ついでに、オレも誕生日を過ぎたら一人暮らしを考えてる。」
「えっ!?」
「20歳を超えたら一人暮らししたいとずっと考えててさ。そしたら柊も遊びに来やすくなるだろ?」
そっかぁ、もう先輩は20歳になるんだなぁと思うと何だか年齢の差を大きく感じた。
「いーなー、大学生は自由で。」
「ーーー勉学とバスケの両立は大変だけど、楽しいぞ。早く大学生になれ(笑)」
今日の先輩は明るくてよく話すから、
それが楽しくてこっちの悩みが軽くなったように感じた。
でも結局、
久しぶりに会えても樹先輩は同期の青木さんに呼ばれてそのあとすぐに行ってしまった。

「もうすぐ夏休みだろ?夏休みはたくさん会おう!」
店を出るときに先輩はそう言ってくれた。
いつもそう、
会おうと言ってくれるけど会える時間には限りがある。
ーーーだから期待しないで、
会えるだけでも良いと思うようにした。

ーーー行かないで、と言えば行かないでくれるのか。
寂しい、と言えばどんな顔をするのだろうか。
きっと引き止めてしまったら先輩は私といるだろう、
でもそしたらきっと同期の仲間との絆が切れてしまう、
そんな気がして私はそこに強気で行くことは出来ずに笑顔で見送った。

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自宅に戻ると珍しく愛梨ちゃんと剛くんがソファでくつろいでいた。
「楽しかった?」
「うん。今日は仕事早かったんだね。」
「そうなの!明日の朝がめちゃ早いから今日は早めにマネージャーが調整してくれた!」
私は苦笑いをして部屋に荷物を置き、
そのままシャワーを浴びた。
ーーー愛梨ちゃんの顔を見てもきちんと笑えない、
剛くんの顔なんて全然見れない。
そんな自分が嫌で、
シャワーを浴びながらこの全ての感情も洗い流してくれたら良いのにと願ったーーー・・・。

ドライヤーを終わらせペットボトルを持ち、
私はダイニングの椅子に座った。
・・・楽しそうに2人で座るそばに私は座っちゃいけないと思ったから。
それに3人で座ると私は剛くんの隣が定位置、
今はそこに座る勇気もなかった。

「ーーーあのさ、剛くんたちの寝室にあった手紙って誰なの?」
楽しそうにテレビを見て団欒する時間を私は遮るのを覚悟で率直に口を開いた。
ーーーそしてその発言の直後に剛くんは持っていたリモコンの手を止めた。
「・・・は?」
「剛くんの寝室にあったでしょ?私を引き取るとか、引き取らないとか書いてあった手紙。」
「ーーー勝手に寝室に入ったのか?」
剛くんは手が震えてるーーー、
よほど私に知られたくなかったんだと思う。
「それはごめん。でもいつも掃除の時も入るし、あの日もお姉ちゃんが布団かかってなくて・・・」
「あんたのおじいちゃんとおばあちゃんだよ。」
私と剛くんの会話を遮るようにお姉ちゃんが答えた。
「愛梨!」
それを剛くんは止めるかのようにお姉ちゃんを睨んでた。
「どういうこと?お父さん側のってこと?」
「ーーーそう。お父さんの生みの親だよ。その人たちが佐藤側と花のトラブルを聞いて引き取りたいと言って来たのよ。」
そっか・・・ーーー。
「でもどうして佐藤側と揉めたこと知ったんだろう?」
私が素朴な疑問を口にした。
「オレもそれは思ってた・・・知る余地もないはずなんだけど。」
「ーーー私が話した。」
お姉ちゃんが真面目な顔をして話し出した。
「はっ?!愛梨、お前・・・」
「お父さんたちが死んでから私は結構連絡取ってて、いつも私たち姉妹を気にかけてくれてたのよ。ずっと陰で見守ってくれてた人たちなの、その人たちに本当のことを伝えるのは間違ったことしたと思ってない。」
「・・・未成年の花を引き取りたいって言われるの分かってた・・・」
「分かってたよ!だから話した!」
「えっ?」
「わたしは花にこの家から出ていってほしいと思ってる。」
お姉ちゃんの衝撃の一言で、
私と剛くんは固まった。
「なんで?!お前・・・勝手すぎるだろ。花と3人で暮らしたいって言ったの誰だよ・・・」
「勝手だって分かってる!剛に花のことお願いして2人で暮らしてほしいって頼んだのも私だし、割り込んだのも私!でも3人で暮らして分かった、2人の空間には特別な空気があってそれをみるのが辛い。」
「ま、待って。お姉ちゃんは私のことが邪魔だったの?」
「花のことは可愛い妹だと思ってるし好きよ。剛に託したのも本当にお願いしたかったから。でもね、花を通してお父さんとお母さんが生きていればって思うこともあるの。・・・花を責めちゃダメなの分かってるけど、花がいなかったらお父さんたちは生きてたって思ってしまう私もいるの、ごめんね。」
お姉ちゃんは私に優しくそう呟いた。

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ーーー私は大粒の涙を流し、
お姉ちゃんも必死に涙を堪えていた。
「何だよ、それ・・・花とオレの間の空気って・・・そんなの何年も一緒に暮らして来たんだからそうなるに決まってんだろ。何でもっと早く話さないかなぁ・・・」
「そしたら結婚してた?してくれなかったでしょ?」
「・・・してたよ。オレは簡単な気持ちで愛梨と結婚したわけじゃないよ。」
「結局、全部私のせいだよね?」
「花・・・?」
「・・・ごめん。お姉ちゃんの気持ちにも気がつけなかった。私が全部の責任を負うべきなんだよね・・・私がいなかったらお姉ちゃんは苦しまなかった。お母さん側だって苦しめることも良くんを失うこともなかったはずなのに、全部私がみんなを巻き込んだせいだよね・・・。」
「はな、それは違うって前に話しただろ?!」
私は首を大きく横に振った。
「もう良いから!もう分かってる!剛くんは・・・もう私のことに構わないでお姉ちゃんだけを見てあげてよ!」
「・・・花は昔からオレの妹だ。放っておけない。」
「本当に妹としてしか見てない感情だった?」
またお姉ちゃんが割り込んだ。
「愛梨、何言ってんだ・・・」
「剛が花を見る目、妹じゃない・・・。花に一人暮らしさせないのも自分がそばにいたいからでしょ?」
「違う!花はオレの妹だ!良と約束したんだ・・・何があっても花を守るって。」
目の前で繰り広げられる剛くんとお姉ちゃんの討論。
剛くんはお姉ちゃんと喧嘩したことなかった、
本人が言ってた。
お姉ちゃんの話をする時はいつも楽しそうに幸せそうにしてたーーー・・・。
なのに今はどう?
すごい勢いで喧嘩してる、
これもまた私のせいだ・・・ーーー。
「もうやめてよ・・・!剛くんはお姉ちゃんのことをすごく大切に思ってた、いつも幸せそうに話してた!だから剛くんが私を好きになるわけなんてない!でもお姉ちゃんを不安にさせたのは私なんだよね・・・ゴメンね。」
私は携帯だけ持って、家から出た。
「花!」
背後から聞こえる剛くんの声も、
今は耳に届かなかったーーー・・・。

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