#47.
交流戦も無事に終わり、
女子バスケは7月をもって引退となった。
男子は9月にある引退試合で引退となるらしく、
そこには樹先輩も応援に駆けつけると言っていた。
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そして3年生に入り少しずつ受験が見えていたクラスも、
推薦で合格をする人が増えたり、
逆にこれからの試験に向けて勉学に励む人がとても目立った。
自由登校の三年生だけど、
やっぱり友達のいる環境が良いと結構学校に登校してくる子も多かった。
ーーー私は無事に推薦で専門ではなく短大に進学が決まった。
本当は合格祝いに先輩と一泊で旅行に行こうと話していたんだけど、
とにかく今先輩が忙しいーーー・・・。
なかなか会えなくて予定も全く噛み合わなくて、
旅行は断念して一緒に夜ご飯を食べてお祝いしてもらった。
ーーーあれからもう2週間が経つけど、
全くもって会えていない。
だけど毎日欠かさずに連絡をくれているからまだ私の中の不安は少ない方だと思ってる。
それに私も今はバイトにほとんど毎日励んでいて、
いつか先輩と行くための旅行だったり、
大学の資金足しや住居などのための貯金をしようと考えている。
ふう・・・
今日もバイトが終わったのは10時前、
日中の空ではなく夜空を見上げることが増えたこの頃。
夏の空は少し明るくて冬よりは楽しさが減るけど、
それはそれで美しいと思う。
疲れたなぁ・・・
そう思いながら自宅に向かい、
私はまだ起きていた剛くんに自分の決心を告げる大きな深呼吸をして帰宅した。
・
今日こそ言う、そう決めてどれくらい経過したんだろう。
お姉ちゃんと剛くんが入籍して半年、
私が一緒に暮らすことに何も言わない二人。
だけどお姉ちゃんは結婚生活を守るために仕事をセーブしているのも目に見えて分かる、
多分子供が欲しいんじゃないかなぁと思う。
でもね、私が一緒にいたら欲しいものも気を遣って出来ないんじゃないかなとも思う。
ーーー今日こそは、そう決めてお風呂から出た。
ソファに座り携帯を触って、
お笑い番組を見て笑う剛くんは幸せで平和な人だと思う。
「ーーー剛くん、隣座っても良い?」
「なんだなんだ、隣なんて珍しいな(笑)」
ここ最近はソファに座ることも減ったワタシ、
剛くんは少しドキッとしたようで少しだけ焦ってた。
「お姉ちゃんと結婚生活楽しい?幸せ?」
「幸せだよ、毎日帰ってきてくれるって幸せなんだよなぁ(笑)って女と男が逆転してる考えだよな(笑)」
剛くんは苦笑いをしながらもきっと愛梨ちゃんのことを考えながら話している、
本当に心から幸せそうな顔をしていた。
「剛くんとお姉ちゃんが入籍する前から考えていたんだけどね・・・何度か伝えたとは思うんだけど、短大に上がったら一人暮らしを・・・」
その話をするといつも剛くんは怪訝な顔をする、今日もそうだった。
「前にも話したと思うけど、一人暮らしする理由あるか?」
「あるよ!剛くんたち新婚だよ?そこに私が一緒に暮らしているのっておかしくない?」
「ーーーそうか?俺にとって義妹なんだし普通じゃねえの?」
普通ではないと思うけど・・・。
「それにゆくゆくは子供だって考えているでしょ?私がいたらすることも出来なくない?」
「・・・そんな心配はいらねーよ(笑)」
「冗談で言ってるわけじゃなくて・・・」
剛くんは茶化していたけど私が本気なことは理解していると思う。
「分かってるよ。花が一人暮らしをしたとして生活はどうするんだ?」
「バイトする!」
「出来ねえだろ・・・学校も行ってバイトもして、その足で何が出来る?」
「・・・今だってカフェでバイトしてても辛くないよ?」
「今、いくら稼いでる?一人暮らしするってことは最低でも10万は稼がないとならないんだぞ。学生の身で、足に問題を抱えているお前にそれ出来るのか?」
分かってはいたことだけど、めちゃくちゃ反対されている。
「・・・どうして挑戦させようとしてくれないの?やってみないと分からないことだってあるし、私は二人の邪魔をしたくないだけなの!」
「気持ちはありがたいけど、子供のことに関しても俺たち夫婦に関しても花がいて迷惑になるようなことは一切ない。」
私は大きなため息をついた、
剛くんと話してもゴールが見えない。
お姉ちゃんはどう思っているんだろう。
そしてどうして剛くんはこんなにも反対するのだろうか、と不思議に思った。
「もう良いよ!」
「おいっ!」
理解してもらえないこの気持ちをどこにぶつけたら良いのか分からなくて、
私は投げやりに剛くんに叫んだ。
私が叫ぶことは滅多にないから、
さぞかし剛くんは驚いたと思う。
でも私も怒ってた・・・。
扉を強くバンと閉めて、鍵を閉めて自分の部屋に篭った。
ーーーただ話を聞いてもらえない、
理解してもらえないことが悔しくて悲しかった。
次の日の朝、
私が起きた時に剛くんはもういなかった。
ーーー寝室を覗くとお姉ちゃんだけが眠っていた。
肌がはだけているお姉ちゃんに布団をかけようと2人の寝室にお邪魔する。
・・・よく見たら下着も着用してないお姉ちゃん、
私が寝静まってからやることやっているんだねと変な想像して少し恥ずかしくなった。
お姉ちゃんに布団をかけて寝室を出ようとした時、
剛くんの書斎として使ってるデスクの上に置いてあった1枚の手紙が目に入った。
ダメだと思いながら私はその手紙を読み始める。
ーーー内容は私を引き取りたい、
そう書かれている手紙だった。
誰が?
差出人を見ると鎌倉に住む夫婦からだった。
「花が不幸だと見えたらいつでも迎えに行く準備はできています。」
まるで剛くんを脅すような・・・
そんな手紙の内容だった。
・
学校に向かいながら考えていたーーー・・・
私が生まれてきた意味ってなんなんだろうって。
両親が亡くなり祖父母に育てられた、
祖父が亡くなり祖母とも疎遠になった今・・・
今度は私の知らない人が私を引き取りたいと言っている。
私はモノじゃない・・・ーーー
どうしてこうも大人に振り回されなければならないのだろう。
両親が生きていたら話は違った。
結局は自分が巻いた種だけど、
大人に振り回されるそんな自分が嫌だった。
まるで私を1人の人じゃなく、
自由に操れるモノだと扱われているみたいで悲しかったーーー・・・。
・
《 次いつ会えますか?》
この現実が辛くて、私は先輩にメールした。
《 ーーー今ちょうど練習に向かう電車、メールしようとしてたわ。木曜会えるか?夕飯行こうか。》
ちょっと会えるだけで良かったお誘いのメールが、
まさかの夕飯まで食べらるというラッキーな展開になって心臓が飛び出るくらい嬉しかった。
ーーー話を聞いてもらおう、
剛くんとのことを先輩に聞いてもらおう、
私はそう決めて学校に向かった。
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