#45.
連休が明け、
久しぶりに学校に行った。
自由登校になった3年の今、
学校に来ている人はほとんどいなくて寂しさを覚えた。
・
学校に来たからと言って授業があるわけではない。
ほとんど自習となっていて、
みんな受験勉強をしている。
ーーーそれは私も同じ、
外国語の専門を受けるから参考書を出して過去問題を中心に解いていく。
周りを見ればクラスメイト同士で教え合ったりしているけど、
私の場合は1人の方が集中できるからそうはしない。
それにクラスに特別仲良くしている女友達もいないし、
須永くんとも気まずい状態だから1人の方が楽に感じてしまう。
ーーー実際に何度か須永くんと視線は絡んだけど、
彼はすぐに私から視線を外した。
《 今、そっちに向かってるよ。職員室にもうすぐ着く。》
そんな矢先・・・ーーー。
先輩から来たメールで私は席を立ち上がる。
先輩が学校に来てる!
剛くんに会いに来たんだ!
すぐにわかった私も職員室に早歩きをして向かう。
廊下を走ると怒られるからね、そこは守る。
「先輩!っと、えっ?どして?」
ちょうど職員室から出てきた先輩と遭遇、
迷うことなく声をかけたけど、
なぜかそこには先日会ったばかりの吉岡さんもいた。
「ーーーよっ。」
「こんにちは、花ちゃん。」
「軽々しく名前で呼ばないでくださいよ・・・」
怪訝な顔の先輩に少し笑えた。
「・・・こんにちは、学校まで来てどうかしたんですか?」
「試合を申し込もうと思ってね。」
「試合ですか?」
「そっ。ーーー練習試合ってところかな。」
吉岡さんが私に笑顔で言った。
そうなんだーーー・・・。
でもなんだか嬉しく感じたな、
だってまた先輩のバスケが間近で見れるかもしれないと思うと。
ーーー ガラガラ ーーー
「おっ!何してんだ、こんなところで。」
その時に剛くんが職員室から出てきて、
私がいることに驚いた。
「先輩来てるって聞いたから・・・」
「ーーーちょうど良いや!須永にあとで職員室に来るように伝えてもらえるか?アイツ、部活にも最近顔出さねーんだよ。」
「えっ?!」
「先週、後輩とぶつかって足捻挫しちまってさ。テーピング見てやってよ、お前できるよな?」
「ーーーうん。」
「治りが悪いらしくて、テーピングがうまくできてないかもって環が言ってた。それに進路でも行き詰まってるっぽいし。ちょっと探ってみてくんねえ?練習試合のこともついでに話しておいてくれよ。」
「ーーー分かった!」
剛くんと話して、私は先輩を見た。
先輩は私を切なそうな、
そんな瞳をして見下ろしていた・・・ーーー。
・
「先輩、わたし・・・須永くんと友達でいたいです。」
「ーーーうん。」
吉岡さんに先に帰ってもらって、
少しの時間だけ先輩を引き留めて屋上に来た。
「もちろん一線は置きます、でも今みたいな全く話さなくなるのは嫌なんです。唯一のクラスの友達で・・・」
もし逆の立場だったらきっと私は受け入れられない。
毎日不安で過ごすだろう、
だからダメだと言われるかもしれないけど、
それでも先輩に素直な気持ちを伝えてみることにした。
「オレは・・・柊を信用するよ。」
「えっ?」
「ーーー須永はオレに取っても可愛い後輩だ。オレもあいつを苦しめたい訳じゃない。だけどきっと須永はオレと話すのを拒むだろう・・・きちんとアイツの話を聞いてやって欲しい。」
ーーー先輩は私に頭を下げた。
そんな頭を下げることではないのに、
と伝えて、
だけど先輩の意思をきちんと受け継いで須永くんと話す決心をした。
先輩が大学に戻り、
私も教室に戻るーーー・・・。
須永くんは相変わらず女子にも男子にも囲まれていて人気者だーーー、
今は声かけれるタイミングではないと私は諦めた。
休み時間、
私はふと須永くんが教室にいないことに気がつく。
「須永くんってどこに行ったか知ってる?」
「ーーーさぁ?乗り換える気?」
話しかければこう嫌味を言われる・・・。
だからそれ以上何も言わずに、
私は教室を出るーーー・・・。
剛くんが言ってた言葉を思い出す・・・ーーー。
怪我をした、治りが悪いと。
ーーーもしかして、と思って私は保健室に走った。
ーーー ガラガラ ーーー
・・・やっぱり、須永くんは保健室にいた。
「えっ・・・」
私が来たことに驚きを隠せない須永くん、
ちょうどテーピングをとっているところだった。
「ーーー貸して。」
私は須永くんからテーピングを奪った。
「は?いいよ、柊出来ないだろ・・・。普通の包帯と巻き方が違うんだよ。」
「自分でやるから治らないんでしょ?いいから貸して。」
私はテープを全部剥がし、
彼の腫れてる足を触った。
「つめてえ・・・」
「ーーー私、冷え性だからね。」
素手で彼の足を触ると私の手が冷たかったようでビクッと動いた。
「もういいだろ!返せよ。」
「ーーーくるぶしが痛いんじゃない?」
「えっ、なん・・・」
「ここ?」
私は少し腫れてるところを押す。
「いっ・・・」
痛みが強かったようで苦しそうな顔をした。
「・・・大丈夫、すぐに良くなると思う。」
私は両手で彼の足を包んだ。
「こんなことして樹さんに見られたら・・・今日来てんだろ?」
「ーーーいいよ、見られても。」
「は?またケンカ・・・?」
「違う、先輩も私がここにいること知ってるから。それにもう大学に戻ったよ。ーーー練習試合をしたいと依頼しに来たんだって、試合までに直せって剛くんから伝言。」
「ーーー無理だろ。」
「大丈夫だよ、絶対に!」
私は極力笑顔を作った・・・ーーー。
「何を根拠に言ってんだよ!?」
須永くんは苛立ってて、私をすごく睨んだ。
初めて本気で怒る彼の姿を目の前にした気がする。
ーーーきっとそれだけこの傷は彼にとって大きくて悔しいものなんだと私は悟った。
「・・・私を信じて欲しい。」
そう伝えて私は彼の足にテープを撒き始めた。
「撒き方知ってんのか?」
「ーーー昔ね、少しだけ習ってた時期があるの。自分で巻くより良いと思う、毎日この時間にここにいるなら私に巻かせて欲しい。」
「・・・なんで・・・おれ、お前のこと好きなんだよ?それ、分かってる?」
「分かってる、だから私が卑怯なのもわかってる。・・・須永くんの気持ちには応えられない、だけど私は須永くんと友達でいなくなるのはイヤなの・・・」
「ーーー柊を見ると苦しいんだよ。諦めたくても出来ないんだよ、だから頼むから・・・話しかけないでくれよ。ーーーオレは柊が好きだから、友達には戻れない。」
須永くんは私の目を見てハッキリと言った。
涙が溜まってた私だけど、
泣く場面じゃない、
それこそ卑怯だとわかってたから堪えた。
ーーー最後の一巻きを終えて、
私は残りのテープを彼の手の上に乗せた。
「・・・分かった。勝手なこと言ってゴメンね。」
「ーーー良いよ。コーチには試合は出るって伝えておくから。」
私は何も言わずに保健室を出た。
・
ーーー私は教室に戻りカバンを取って、
すぐに学校を出た。
「花!」
すれ違いざまに私が泣いてるのを見えた双葉は私を追いかけてきた。
「・・・ごめん、帰るね。」
私は何も言わずに学校を去った。
《 ーーーもしもし、どした?》
《 今、練習中だったりしますか?》
《 まだだけど?今、吉岡さんと昼・・》
《 ・・・会いたい。会いに行っちゃダメですか?》
先輩が言い終わる前に私は会いたいと伝えた。
先輩は大学の近くでお昼を食べていると教えてくれ、
先輩の大学の最寄りで待ち合わせをすることになった。
「ーーー大丈夫か?」
電車の中でいろんな人に心配な顔をされながらも泣き腫らした。
先輩に会ったとき、顔がすごい腫れてた思う。
「・・・吉岡さんは?」
「先に大学に行ってもらった。何があった?」
「・・・練習何時からですか?」
「1時間後だから大丈夫だ。」
私と先輩は駅のすぐ近くにあるカフェに入った。
「・・・ダメでした。」
「なにがだ?」
「須永くんに友達でいたいって伝えたんです。」
「ーーーああ。」
「でも、友達には戻れない、ハッキリ言われました。私を見ると苦しい、話しかけないで欲しいと・・・」
思い出して私はまた涙を流した。
「・・・」
「・・・でも試合には出るって言ってました。私は・・・応援には行きません、行けません。」
大粒の涙がこぼれ、自分の膝の上で拳を握った。
たった唯一の男友達を失った、
その悲しみで。
「・・・正直、その涙は須永に対しての涙だろ?」
「えっ?」
「他の男のために流す涙をオレは受け入れるほど心は広くない。」
「・・・ごめんなさい・・・」
私は必死に涙を拭った。
「柊の友達でいたいという気持ちも須永の戻れないという気持ちも理解出来る。ーーー柊はオレと別れたとして、須永に気持ちが向くと思うか?」
私は首を横に大きく振った。
「もしオレと別れたとして・・・友達になれるか?」
また大きく首を振った。
いくら例え話でも先輩の口から別れを聞くのは嫌だった。
「・・・須永もそういうことなんじゃないか?須永も柊と友達に戻りたいと思ってるなら話を聞いて欲しいと思ってさっきはあんなこと言っだが・・・そうじゃないなら、少し時間を置くのも一つの手だと思うぞ。」
「・・・うん。」
分かってるんだよ、
心では分かってても、
悔しいもんは悔しくてなかなか涙を止めるのが出来なかった。
・
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫!ーーー予想外のことで取り乱してすいませんでした。」
そろそろ練習に行かなきゃならない時間で、
私と先輩で駅で最後の挨拶を交わしている。
「・・・気をつけろよ。」
「先輩も練習頑張ってください。」
私はそのまま帰宅したーーー・・・。
そうだよね、須永くんからしたら都合の良い話だよね。
振られた相手に友達に戻りたいなんて言われて、
すんなり受け入れられるはずないよね、
電車の中で少しずつ冷静を取り戻した私は自分がなんておこがましくて身勝手な行動をしてしまったんだと後悔した。
ーーー本当に須永くんを思うなら、
もう彼に関わることをやめる、
それしかないんだと痛感した。
・・・先輩と須永くん、
私は迷うことなく先輩を選ぶから。
だからもう須永くんと話すのはやめようと決めた。
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