#43.
世間はもうすぐゴールデンウィークに入ろうとしている。
だけど先輩は春合宿、
私は受験勉強に大忙しの連休を送っている。
・
麗花さんからあれ以降は連絡がないらしい。
結局私たちは振り回されただけで本当のところは分からない。
あの一件は苦しかったけど、
その件があったからこそ前よりももっと先輩に近づけている、
そんな気がしている。
私たちはとにかく付き合ってからケンカも多くて、
そのたびに先輩が寄り添ってくれていた。
その一つとして私に不安にさせないように極力連絡をくれるようにしてくれている。
それはたった一言だったり、
時には少しやり取りが続くこともあった。
麗花さんとの一件があってからそのメッセージに加えて、
就寝前に電話をくれることが増えた。
ーーー私を不安にさせないためなんだと思う。
だけど先輩の部活のことだったり、
今感じていることだったりを聞いてメールだけでは伝わらない思いが電話越しに聞くことが出来て、
私としてはすごく嬉しいこと。
だけど先輩に負担がかかっていないかな、という不安もある。
・
「ーーー明日、何時ころ帰ってくるんですか?」
合宿最終日、先輩は夜遅くなってしまったけどと電話をくれた。
この合宿中、先輩は毎日欠かさず電話をくれ、
私は気が付けば毎日先輩の電話を待つようにもなってた。
「明日は午前最後の練習して、13時のバス集合って言ってたな。そっちに到着するの15時頃なんじゃないか?」
「ーーー会いに行っても良いですか?」
「せっかくだから飯でも食って帰るか。」
「私は嬉しいけど、先輩は疲れていたり皆さんと・・・私は少し会えるだけでも・・・」
「柊・・・」
「ーーーはい、会いたいです。ご飯食べたいです。」
もう一つこの間、先輩と約束をしたことがある。
ため込みやすい私の性格を配慮した先輩と、我慢しない、と約束をした。
思ったことはすぐにじゃなくても整理してからでも良いから必ず伝える、
だけど我慢は絶対にしないで伝えることと。
主に私に対して言われている言葉ではあるけど、
先輩も我慢しねえわと自分自身にも言っていた、そんな気がする。
「明日は予定なしなのか?」
「ーーーはい!だけど図書館で勉強しようと思ってたので、先輩の時間に合わせて行こうかなって思います。」
「一人で行くのか?」
「はい!勉強は一人が一番はかどりますよ?」
「ーーーアイツが来ないならオレはそれで良い。」
ーーー先輩が言うアイツとは須永君のことだ。
大胆に告白されてから先輩は前以上に警戒心を抱くようになった。
私にも変な期待をさせるな、アイツも可哀そうだ。最低限の距離で接するように、と言ってた。
剛くんは先輩に対して独占欲あんのな、って言ってたけど私はそうじゃないと思う。
先輩はきっと須永君のためにも、
私のためにも、
言ってくれたんだと思う。
実際に、あの日から須永君は必要最低限以外、私に話しかけてこなくなった。
ーーー環たちとの関係の手前、一緒に過ごすことはゼロではない。
だけど須永君と私の間に確実に距離が出来た。
ーーー寂しくないと言ったらウソになる、
唯一の男友達だった須永君がいなくなったことは私にとって痛手ではあったけど、
これ以上彼を傷つけることも出来ないし、
気持ちに応えることも出来ないから私は彼と距離を取ることを決めた。
「柊・・・?」
先輩との会話中に須永君とのことを思い出して最低だ・・・
だけど彼を傷つけた以上、きっと思い出さないのは私には難しい。
こうやって先輩も麗花さんを思い出すのかもしれないな、と思うと少し胸が痛んだ。
「あっ、ごめんなさい。じゃあ明日は15時過ぎに新宿駅バスターミナル付近で待っていますね。」
「楽しみにしているよ。」
・
連休中はお姉ちゃんも珍しく仕事が休みで、
3人暮らしを堪能しているーーー。
だけど剛くんとお姉ちゃんは小さな結婚式を挙げるようで、
その話し合いで今は忙しそうーーー。
入籍を七夕にするらしくて、そしたら新居に引っ越そうと話もしている。
ーーーそこに私の入る隙間はない、
だけど私も新居に引っ越すのだろうか?
それとも私はこの家で一人暮らしをするのだろうか。
その点について話し合わなきゃダメなことを、
みんながみんな避けている話題な気がした。
ーーー近いうち、話さなきゃならないことだけど今じゃないそんな気がした。
まずは私は専門学校に受かることだけを考えなければならない、
それはお姉ちゃんにも剛くんにも言われた。
「ーーー今日は夜ご飯いらないからね。勉強して、先輩とご飯食べてくる。」
「あっ、合宿から戻るの今日だっけ?」
「うんーーー・・・大丈夫かな?」
「大丈夫だよ、あんま遅くならない程度に楽しめよ(笑)」
私は髪の毛を下ろして購入したばかりの大きめカチューシャを身に着ける。
「ーーーお化粧してあげようか?」
「えっ!!!」
「だって久しぶりに彼氏会うんでしょ?可愛く行きたくない?」
私が洗面台で髪の毛をセットしているとお姉ちゃんがひょっこりやって来た。
「良いの?」
「可愛い妹のためよ、貸してごらん。」
そう言って私が持ってた櫛を奪って髪の毛のセットから、
軽いお化粧までやってくれたーーー。
お姉ちゃんが家にいてよかった、そう思った。
「これね、私が初めてお化粧を学んだ時にもらったファンデーションで今も使ってるの。花にあげる。」
「えぇぇ・・・!!!」
「少しずつお化粧を覚えて行ったら?樹くんも驚くんじゃない?」
アイシャドーをピンクにしてマスカラも自然体ねって軽くして、
ゴールドピンクと言う色のグロスを塗ってくれた。
「ほら、どうよ?可愛いでしょ?」
「ーーーすごい、私じゃないみたい!ありがとう!」
「花はもっと自分に自信持たないと。地が良いんだから、お化粧でカバーするともっと可愛くなるよ。」
「ーーーありがとう!」
私は春らしく水色チェックのワンピースを身にまとい、自宅を出た。
お姉ちゃんにお化粧をしてもらったからか、
今日の私はいつもより自信に満ちているーーー・・・。
それに何となくだけど図書館に向かう道中も、
色んな人に見られている、
そんな気がした。
今日の私はかわいい。
勉強を終わらせて、
お姉ちゃんに借りてきたグロスを塗り直すトイレで唱えた。
先輩に可愛い、
そう言ってもらいたくて、
ただ早く会いたくて、
新宿駅のバスターミナルまで走った。
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