#42.。
ーーー麗花さんは私の心が崩れて、
先輩から別れを切り出すのが狙いだったのかな・・・
まんまと私はそれにハマってしまったのかな、
と思ったりする。
それはその通りなんだけど、
これまでたくさんの人に心配と迷惑をかけて来たから食事は普通に取る、
睡眠も取るように必死に心がけた。
実践できただけでも少しは強くなったのかなと思ったりもする。
「ーーー私はそれウソだと思う。」
「今まで先輩の何を見てきたの?信じてあげなよ。」
環達に相談してみんながウソだと言ってくれた、
でも私だけが100%ウソだとは思えなかった。
・
今日も進路相談があったーーー。
麗花さんや3学年上の先輩達がいるのが怖くて今回は遠慮した。
本当はもう一つ候補に挙げていた専門のことを聞きたかったけど、
後日自分で訪問すれば良いや、と諦めた。
職員室に先生に頼まれていたノートを届け、私は下駄箱に向かう。
「須永君、こんなところで何しているの?」
一度カバンを取るために教室に戻ると、須永君が自分の席に座っていた。
「・・・志望校を変えろって、推薦で大学に行けって親に言われてさっき担任と話してきたところ。」
「えっ!?保育に進む夢、諦めちゃうの?」
「いや・・・諦めるつもりはない。」
須永君はハッキリ言った。
「・・・保育に進みたい、バスケもやりたいなんて贅沢んだろうかねぇ…わっかんねーわ。」
須永君にしては珍しく真剣に悩んでて、
そのまま窓から差し込む太陽の光を見ていた気がした。
「なんか待っててもらう形になってゴメンな。」
「全然良いよ、進路の相談って中々できないもん。気持ち分るよ。」
ーーー私は短大一本って決めたし、
大学に行くつもりはないけど、
色々な選択肢があるのも悩みなんだなと須永君を通して思った。
そして進路相談の関係で部活が第二体育館だと言うので、
その近くまで一緒に行こうと教室を出て廊下を歩く。
「あはははは!!!ほんと面白いんだから!!!」
「進路勉強になったーーー!」
今日はやたらと賑やかな3年の廊下、
少しずつみんなが受験や就職などそれぞれの進路に本腰を入れ始めていることが伝わる。
楽しそうに友達同士でこの廊下で笑い合うのも、
今年が最後なんだなと思うと寂しく感じた。
「ーーーあっ、樹さん・・・」
「えっ!!」
周りの子の楽しそうな姿を目で追っていたら、
向こう側から来る先輩たちの姿が目に入らなかった。
須永くんが先に気がつき、
私はその姿を見て俯いた。
麗花さんも先輩の隣で笑ってる、
正樹先輩も剛くんもなぜか一緒にこっちに歩いてきてる。
ーーーだけど会わないと言われている身、
それに隣り合わせにいるのを見ると信じたくなかった麗花さんの話が本当のことのように思えて目を合わすことが出来なかった。
「須永!良いところにいた!担任から聞いたぞ、話さないなんて水臭いじゃねーか!」
剛くんは何も知らないからめちゃくちゃ楽しそうに須永くんに絡む、
私は視線を一瞬あげると麗花さんに鋭い目で見られてハッとまた視線を下ろした。
「何なんすか、酔ってるみたいっすよ(笑)」
「ははは!寂しーんだよ、オレは笑」
楽しそうなこの空間だけど、
私には苦痛でしかならなかった。
「ーーーこんにちは、柊さん。」
そして俯いている私に麗花さんは話しかけた。
「あれ、二人知り合いなんだっけ?」
「先日の進路相談の時に少し話したんですよ・・・」
剛くんの問いかけに麗花さんが答えた。
ーーーだけど私は彼女の声を聞くだけで拒否反応が起こり、
体が震え始めた・・・。
「進路は決まった?」
意味ありげな笑みをこぼすこの人が怖い・・・。
「わたしは・・・」
何かを言いかけるのに言葉が出ない。
「悪いんですけど、俺たち行くところあるんで。行こう、柊。」
でも隣に立ってた須永くんは私の震えに気がついた、
そして私の手を強引に引っ張り、
反対側に小走りで走り出した。
「ーーーここなら大丈夫だろ・・・」
息を切らす私たち二人。
「・・・ゴメン。」
「麗花さんだっけ?あの表情すげーな、男としても怖いわ・・・」
須永くんは何もないように話してくる。
「・・・巻き込んでゴメン。」
「なぁ、先輩と話さなくて良いのか?」
「しばらく会わないって言われてるのに話に行くのおかしいでしょ・・・。私とは会わないのにさ、麗花さんとは会うんだなぁって。・・・本当に全部が全部嘘なのかな・・・。本当はやっぱり先輩も麗花さんのこと好きなんじゃないかな・・・。私が邪魔なのかな・・・。私が身を引くべきなのかな・・・」
この苦しさを吐き出したくて、
私は目の前にいる須永くんに訴えた。
「もう止めろよ!ーーーもう、樹さんを好きでいるの止めろよ!」
そう叫んだ須永くんは私を強く抱きしめた。
彼の少し伸びたサラサラの前髪が私の頬に伝う。
「先輩と付き合ってから・・・柊、泣いてばかりじゃんかよ!ーーーそんな柊、見てるのオレだって苦しいよ・・・!オレなら絶対に泣かさない、柊だけを見てる!・・・オレのところに来いよ・・・!!」
須永くんは一瞬、私を引き離して言った。
「好きだ・・・。どうしても諦めらんねーんだ・・・」
そして私をまた抱きしめた。
「須永くん・・・、私は・・・」
須永くんからはこの前先輩と揉めた時に告白された、
それでも先輩との仲を応援もしてくれていたから冗談だったのかなって思ったりもしていたけど、やっぱり違うんだなと悟った。
ーーーでも私の中で須永くんは友達、
唯一の男友達なのーーー。
「柊!」
それを須永くんに伝えようとしたんだけど、
追いかけてきた樹先輩に見つかった。
ーーーしかも抱きしめられてるところ、見られた。
先輩は強引に須永くんと私の距離を引き離し、
私を先輩の方に抱き寄せた。
「・・・先輩でも感情的になるってあるんっすね。」
「須永、お前今自分が何してるかわかってやってるのか?人の女に手を出そうとして・・・」
「他の人に心持っていかれてる先輩に言われたくないです。言いましたよね?泣かせたら本気で奪うって。」
先輩は一瞬黙り、すぐに須永くんに発した。
「柊は・・・絶対に渡さない。」
「だったら泣かすなよ・・・。柊、多分先輩は白だと思うよ。だけどどーしても無理ならオレのところに来い、本気だから!じゃーな!」
須永くんはそれだけ言って部活に行った。
・
「樹!何なの突然走って・・・」
そこに樹先輩を追って麗花さんが走ってくる。
剛くんも私を心配して追いかけてきた。
「ーーー白って何?オレ、浮気でも疑われてんの?それを須永に相談してるのか?」
「違います・・・」
私は先輩から少し距離を取った。
「ーーーだったら何が白なんだ?」
「ーーーそれは・・・」
「柊、答えろ。」
答えるも何も分からない私は何も言えなかった。
「人づてに聞いたんです、先輩が今大学で肩身狭い思いしていると。クリスマスの練習のことも、監督との問題も聞いたんです。私のせいです・・・」
また少し距離を取って私は伝えた。
でも先輩からしたら寝耳に水状態で、
なんのことかさっぱり分かっていなかった。
「それに・・・私を抱けないと言ったのは心に他の人がいるからだって・・・その人と毎日会っていたんでしょ?・・・違うって思っても私と先輩しか知らない情報も持ってて信用できるわけがない・・・」
「は?何言って・・・」
先輩は寝耳に水状態で訳分かってない状況。
私に説明を求めようとしたのか、
一歩近づいたけど私は2歩下がった。
「ーーー今の話が本当ならお前最低だぞ。」
それに気がついてくれた剛くんは距離があった私の元に来て、
先輩から私を引き離した。
「・・・知らねえよ。何なんだよ、そのデタラメ。クリスマスって何だ?監督の信頼って何?」
「練習休んだって・・・、それで監督の信頼失ったって。私じゃ先輩の成功を邪魔するだけだって・・・」
「・・・誰に吹き込まれた?!」
「それは・・・」
私は名前は伏せたかった。
そしたら先輩と麗花さんの討論が始まりそうで。
「ーーーこの前も言ったけど、この一年オレの何を見てきた?人と付き合う中で、信頼って大事だろ・・・」
「信用したいよ、私だって!でも現に今日だって一緒にいたじゃないですか!そんなの見たら信用できる訳ないじゃないですか!」
私はハット口を押さえた、
無意識に麗花さんだと伝えてしまってたーーー・・・。
「・・・麗花さん・・・から言われたのか?」
だけど私が答える前に麗花さんが反論した。
「は?わたし?私じゃないわよ!この子と会ったのは進路相談の時!今日が2度目!そうよね!?」
すごい強く、ありえないくらいの勢いで私に言う。
「・・・」
私は何も言えず、耳を塞いだ。
ーーーこの人の声を聞くのが怖い、耳が痛いと恐怖を感じるからだ。
「・・・さっきもアナタと話した瞬間に花は耳を塞いだ、本当なんじゃないか?」
剛くんがつかさず割り込んだ。
「どうなんだ、柊・・・!!」
「それは・・・」
「私たち、今日で2度目よね?!」
もう一度麗花さんは私に言う、言いくるめようとしてる。
「オレは!アンタじゃない、柊に聞いてるんだ!」
その場のみんなが凍りついた瞬間でもあったと思う。
それほど先輩は怖かったーーー。
「樹、信じて、私じゃないわよ?この子が適当に樹の気を引きたくて言ってるだけかもしれないじゃない?」
「彼女はあなたと違う!そんなことするような子じゃないんですよ!」
まさかの樹先輩が本気でブチギレだ瞬間だった。
「花、どうなんだ?」
「・・・何も聞かない。私は何も・・・」
私は耳を強く塞いで何も聞こえないようにした。
「ーーー何が狙いですか?」
「私じゃないって・・・」
「他に誰がいるっていうんだよ!この状況見てみろよ、柊のこの状況を見て良心が痛まないのか?ーーー初詣で再会した日からやたらと連絡くるなとは思ってたけど、ここに繋がるとは思いもしませんでした。」
ーーーそうなんだ、
連絡来ていたんだと初めて知ってそれはそれでショックだった。
「オレが初詣であなたに会ったのって、去年の文化祭以来ですよね?今日だって約束した訳じゃない、お互いに来るって知らなかったはずだ。それに・・・オレの記憶が正しければアナタがオレに会いたいなんて思うわけないですよね。ーーあんた、狂ってんな(笑)毎日空想の男に抱かれてんのかよ(笑)」
麗花さんは樹先輩の言葉に悔しそうに反論した。
「あんたが悪いのよ!私にもあんな幸せそうな顔をしてくれたら何も文句なかった!なのにこの子といる時はニヤけちゃって、壊したいと思ったのよ。どうせ樹に近づいても無駄なのはわかってた、だから彼女に近づいたのよ。」
麗花さんは拳を振るわせている、
相当悔しかったんだと思う。
「ーーーオレは確かに麗花さんを好きにならなかった。そこは認めるし申し訳ないと思った。だけど人として尊敬はしてました。ーーーこんな人だとは思いませんでした。」
「私だって・・・樹が好きだった!私の方が先に出会って先に手に入れたのに・・・奪われてたまるか!あんたさえ出てこなければ・・・」
麗花さんは私に鋭い視線を向けた。
「それは違うよ、先輩。ーーー柊に出会ってなくてもオレと先輩はすぐ別れてた、実際に柊が入学する前には俺たち終わってましたよね・・・」
「ーーー返してよ!樹を返せ!」
樹先輩の話なんて全く聞いてなく、
麗花さんは私に向けて暴言を吐き、
ドンと押した。
私は剛くんに支えられて転ばず済んだけど、
それも彼女からしたら納得いかなかったようだった。
「・・・誰にでも愛されて守られてるって幸せ?ーーーアンタみたいに頼ることでしか生きられない女、大嫌いよ!」
麗花さんはまた私に手を出そうとしたけど、
剛くんが止めてくれた。
「いい加減にしろよ。ーーーこいつは手を出して良い相手じゃない。それに自分の価値が下がるだけだ。」
「アンタに何がわかんのよ・・・」
「何も分かんねーよ、だからこそ言える!みんな幸せになる権利はあんだから、自分の価値下げんなよ。樹なんて願い下げだと思えるやつ出てくるって、前向いてさ。」
慰めてんのか励ましてるのか分からない説得。
「樹と別れて未練なんてなかったーーー・・・。なのに幸せそうにしちゃって、こっちは彼氏に浮気されたばかりなのに・・・」
「そんな事情俺たちに関係あります?ーーー2度と彼女にちょっかい出すな。俺たちにも2度と近づかないでほしい。」
先輩も少し冷静を取り戻して、
彼女に言った。
聞いてるのか聞いてないのか分からないけど、
麗花さんはフラつきながらその場を去った。
剛くんは彼女を正門まで見送ってくると、
後ろからついていった。
私は先輩と二人で取り残されたのに、
先輩の顔を見ることができないーーー。
「・・・私も帰りますね。巻き込んですいませんでした。」
でも会わないと言われてる以上、
一緒にいるのもどうなのかと思って帰ろうと思い先輩に背を向けた。
「ーーーあの日、柊を傷つけた自分が許せない。」
「えっ?」
私は驚いて先輩を見る。
「あんなに傷つけて合わす顔がない、そう思った。ーーーただ、自分を大切にして欲しい。オレと同じ後悔をしてほしくないんだ。」
「ーーー違う!麗花さんに言われた言葉一つ一つを思い出して、先輩はこうやって麗花さんを抱くんだって思ったら悔しくて焦って怖くて・・・私だけの先輩なのにって・・・先輩にあんな顔させたのは私です、本当にすいませんでした!」
深くお辞儀をして謝罪した。
「彼女とはほんの数週間付き合った、それだけ。それ以降こちらから発信してないし受信しても受けてない、会ってもない。本当だーーー。」
「でもあの人は私が先輩に抱かれてないとか色々知ってて・・・」
「ーーー昔から話が上手い人でオレもそれで騙された一人だ。・・・柊にも適当に言ったんだと思う。辛い気持ちにさせて悪かった。」
「ーーー私もごめんなさい。会えないと言うなら我慢します。好きな人がいても良いから・・・だから・・・しばらく会わないなんて言わないで・・・お願い・・・」
先輩は私の近くに寄ってきて抱きしめてくれた。
「ーーー柊以外、好きな人なんていない。お前以外オレはいらない。・・・信じろ。」
「・・・先輩」
「ーーーオレも会いたかった。」
ーーー先輩は私の頬に手を寄せて、
唇も重ね合わせてくれた。
「喧嘩ばかりで・・・すぐ不安になってごめんなさい。」
「それが良いところでもあるよな(笑)」
先輩は何度も口付けをしてくれた。
それだけで、
仲直りできた、
それだけで幸せだった。
そして今はキスまでの関係の二人だけど、
それで良いやって初めて思えた。
ーーーゆっくりゆっくり進もう、
そう思えた。
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