#40.
気がつけばお風呂も入らず眠りについていて、
先輩からの着信で目が覚めた。
・
「悪い、寝てたか?」
「ーーーすいません、ウトウトしてました。でも助かった、お風呂も入ってなかったです(笑)」
普通に話した、
少し寝てスッキリしたんだと思う。
「慣れないことがあって疲れたんだろうな。手応えはあったか?」
「ーーーまあまあですかね。でも麗花さんっていう先輩に会いました。」
細かいことは言わずに、
わたしは会ったよとだけ伝えた。
「ーーーそっか。何か言ってたか?」
何かってなにを・・・?
2人で会っていたこと?それとも恋人関係だったこと?
ーーーそんなこと先輩に言えるわけない。
「・・・ううん、樹先輩と正樹先輩のこと知ってると言ってました。マネージャーしていたって。」
電話でよかった、
涙を必死に隠す姿を見られなくて良かったと思った。
「ーーー確かにそうだったな。」
「私の直接の先輩はまどか先輩って方でした!」
「その先輩なら俺も知ってるよ、在学中に世話になったわ。」
「ーーーそっか。」
それから当たり障りない話をして、
その日の電話は切った・・・。
・
それから数日後、
私のバイト先に麗花さんがやって来た。
まだ樹先輩ですら来たことない、このバイト先に。
「ーーー知り合い?なら休憩入って良いよ。」
レジで挨拶をしてると先輩社員に言われた。
ーーー今、そこ気を使わなくて良いところ!と思っても口には出せないから休憩に入った。
そして私は今、麗花さんの前に座ってカフェオレを飲んでる。
ーーー麗花さんはブラックを飲んでて、
ここでも差が出た。
「突然来てごめんね。」
「いえ・・・どうしてここでバイトしてるって分かったんですか?」
「調べれば簡単だもの(笑)あなたのことは色々調べさせてもらったのよ、私こう見えても政治家の娘だから。」
キミのの悪い笑みを浮かべた麗花さんを怖いと思った。
「ーーー何かご用ですか?」
「理解出来ないわ、環ちゃんならともかく樹がなんであなたみたいな子を好きになったのか・・・。」
それは同感です、とは言えなかった。
「ーーーすいません。」
「本題に入るわね、樹のことを返して欲しいの。」
「えっ、返す?」
「ーーー柊さんと付き合ってから樹変わったの知ってる?」
「変わった?」
「ーーーそれにすら気が付かないなんて自分しか見えてないのね、あなた(笑)あんだけバスケ命だった男がサボるようになった、そう言えばわかる?」
「えっ、サボるって・・・?」
麗花さんは少しイライラしてるように思えた。
「知らないの?直近で言えばクリスマスの練習に彼は出てこなかった、あなたと出かけるために。あれだけデビュー戦で活躍したのに今監督からの信頼を失いつつあるのよ。あなたのせいで。」
「ーーー・・・」
知らない、そんなこと・・・。
私は何も聞いてない・・・。
信じたくない、でもこの人の言ってること当たってる気がするのは気のせいなのかな。
「あなたは彼をダメにする。私なら・・・そんなことさせない。私なら彼を成長させることができる。」
「ーーー決めるのは私じゃない、樹先輩です。」
私なりの対抗をした。
でも目の前の麗花さんは自信満々に私を見てる。
「ふっ。あなた、私たちがこの前会って何していたか知ってる?」
「えっ・・・」
「ホテルで何してたか知ってる?・・・彼に抱かれたこともないあなたに想像できる?(笑)」
「なんでそんなことまで知って・・・」
「彼のお腹に大きなホクロがあるの知ってる?知らないでしょ?」
「・・・もうやめてください。聞きたくない・・・」
「どうして抱いてくれないんだろうって思わなかった?ーーーまさか外でこう繋がってるなんて想像もしてないわよね。」
「ーーーお願い、やめて・・・」
私は耳を塞いで泣き崩れた。
「泣けば守ってもらえるとでも思う?私は樹を取り戻すなら何でもする。横入りしたくせに彼女ヅラしないで。また来るわ・・・」
麗花さんが去ってからもしばらくそこから動けなかった。
嘘だと信じたい・・・ーーー
でも私と先輩しか知らないはずの情報を知っていたり、
私の知らない情報を知っていたりで信憑性が高いことから先輩を100%信じるのは難しかった。
麗花さんは本当にまたバイト先に来た・・・。
「ーーー樹と会ってる?」
「いえ・・・」
私たちは1週間に1度会えれば良いペースだし、
そんな毎日会ってるわけじゃない。
たった今週は会えなかった、
それだけのこと・・・。
「私はね、毎日のように会ってるのよ。」
「ーーーそうですか。」
麗花さんはきっと今カノという立場の私もだけど、
性格的に自分と反対の私のことが気に入らないんだろう。
「その度に耳元で私の名前を囁かれると鳥肌が立つ。・・・彼にとって毎日会う私と、ほとんど会わないあなた、どっちが本命なのかしらね。どっちが嘘つかれているのかしらね・・・バカでも分かることなんじゃないの?」
ーーー初対面のあの笑顔の美しい麗華さんはどこに行ったんだろう。
「・・・もう嫌だ・・・何も聞きたくない・・・」
私は耳を塞いだ。
強く強く耳を塞いだ。
「あなたみたいな子、大嫌いなのよ・・・。消えてよ、樹前から。私たちの前から。」
冷たく彼女は言ったーーー・・・。
そして私の胸ぐらを掴んで言った。
「ーーーあんたが彼を諦めるまで私はここに来るから。」
ーーーつまり私が諦めなければ、
この仕打ちはずっと続くということだ。
・
バイトにもならなくて、
早退して私は自宅に戻って布団に入った。
剛くんもお姉ちゃんもまだいないーーー、
疲れて寝たふりしちゃえば良い、
そう考えて私は眠りに入ったんだ。
そして数日が経ち、
私は2週間ぶりに先輩に会うことになってる。
ーーー剛くんもお姉ちゃんも夜遅いこの日を選んだ、
先輩とどうしても一線を越えたかったから。
「2週間振りだと久しぶりの感じがするな!」
「ここ最近週1で会ってましたもんね(笑)」
麗華さんとのことを聞き出したい、
でも私にはそんな勇気がなくて言い出せなかった。
「先週は進級したばかりってのもあるんだけど授業を何取るのかとか友達と色んな授業出ては決めてたわ。ーーー会える時間取れなくてゴメンな。」
出た、取るって言葉。
会う時間を取るって言葉、嫌い。
ーーーまるで無理させてるみたいで。
そっか、無理させてるんだよね、と麗華さんの言葉を思い出す。
「ーーーふふ、こうして会えるだけで嬉しいから大丈夫です。」
「ーーー夜は食って行くか?」
「今日はウチで食べませんか?剛くんもお姉ちゃんも遅いし、昨日作りすぎたカレーが残ってて・・・」
嘘ではない、カレーを作りすぎたのは本当のことだ。
先輩はすごく悩んでた、
どうやら剛くんやお姉ちゃんがいるこの家に上がると言うことに抵抗があるみたい。
それは今回だけじゃなくて以前から感じていたこと。
「ーーーもう少し先輩と一緒にいたいからダメですか?」
何度かお願いをして悩んでやっと承諾をもらった。
そして近くにある美味しいケーキ屋でケーキを買って自宅に戻った。
「・・・暗いな。」
外から室内に入って先輩が出した言葉がこれ。
先輩のお母さんは専業主婦だから、
きっと先輩にはこう言う経験がないのかなと思った。
「・・・もう慣れました(笑)」
私は照明をつけながら答え、
リビングのソファに案内をしてすぐにお茶を出した。
カレーを温め直して、
ご飯も炊飯ボタンを押す。
買って来たケーキも冷蔵庫に冷やして、
炊飯が炊けるまでサラダだけ作った。
「ーーーいつもご飯は柊の担当?」
「週末は剛くんも作りますよ。お姉ちゃんは苦手なので作りません(笑)」
「ーーーそのカレーは?」
「私です。唯一の母の味なんですよ。」
「ーーー楽しみだわ。」
少しの会話を楽しんで、私たちは食卓を囲んだ。
初めて2人だけで囲む自分の家での食卓ーーー。
新婚みたいで、
同棲してるみたいで凄く嬉しかった。
「ーーー少し照れますね。」
「だな(笑)コーチは毎日、柊のこんな美味しいご飯食べてるんだな。羨ましいわ・・・」
「いつでも来てくださいね。」
私は先輩に微笑んだ。
そしてもうすぐ8時になろうとしてる・・・
「そろそろ帰るかな・・・」
先輩も携帯を確認して、
身支度を始めたーーー。
私はそっと先輩に後ろから抱きついた。
まだ一緒にいて欲しい、そう思って。
この気持ちに嘘なんかない・・・ーーー。
「どうした?」
「ーーーお願いがあります。」
「お願い?」
先輩は私と向き合ったーーー・・・。
私は大きく深呼吸をして、
先輩に言った。
「・・・私を抱いてくれませんか?」
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