【 君がいる場所 】#35. 止まらない*。

君がいる場所

#35.

私は普段カラオケに行かないーーー・・・。
カラオケどころか友達とお出かけすらあまりしない。
環たちに誘われてご飯に行く、
もしくは琴音ちゃんとカフェ巡りをするくらいだ。

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カラオケは異様に密室で、
少しどころかかなり恥ずかしさを覚える。
「そんな遠く座るのか?(笑)」
先輩はカラオケに慣れていて堂々と座ったけど、
私は恥ずかしすぎてどこに座ったら良いのか分からなかった。
「ど、どこに座れば良いんですかー!」
「普通に隣で良いんじゃねーの?笑」
先輩は全く緊張していない、
私は固まりながら先輩の隣に座った。
ワンドリンク制度というので、私はコーラを先輩はカフェオレを頼んで無事に飲み物が届いた。
「緊張しすぎじゃねぇ?(笑)」
「だって部屋暗いし!先輩と2人だし!緊張しない方が無理ですって!」
「何かされるんじゃないかって?笑」
意地悪に先輩が顔を近づけて来て、
また私は胸がドキッとなり顔を赤らめる。
「今日の先輩は意地悪ですね!笑」
「ーーーかもな(笑)なんか入れれば?」
「歌うんですか?!」
「お前・・・なんのためにカラオケきたんだよ(笑)」
珍しく先輩がすごく笑ってて、
それはそれで稀に見る笑顔だし良かったかなって思った。

結局私たちはほんの少しだけ歌って、
ただ隣に座ってずーと話をしていた。
先輩の大学の授業のことや学部のこと、
私の進路についても少し話をした。
私はまだやりたいことが決まってないから、
どこの大学に行きたいとか学部とか何も決まっていない。
「ゆっくり決めれば良いんじゃねえの?」
「うーん・・・働こうかなって思ってたりもしてるんです。」
「ーーーそれもアリだな。」
否定されると思ったから少し驚いた。
剛くんは短大でも大学でも良いから出た方が良いという、
だけどやりたいこともないのに通う意味はあるのかなって思ってた。
周りに聞いても進学の人ばかりだから、
私の意見を肯定されるのは初めてで少し驚いた。
「もちろん進学するに越したことないと思うけど、お金かかるし・・・それなら働いて一人暮らしでもしようかなと思ったりもしているんです。」
「それはコーチのため?」
「・・・少しあります。そろそろお姉ちゃんと結婚するだろうし、新婚で3人で暮らすなんて無理でしょ(笑)」
「柊はなんでもコーチなんだよな、少し妬けるわ・・」
「えっ?」
「そうやって育って来たから仕方ないんだと思うけど、自分が本当はどうしたいか、それが1番だと思うぞ。」
そこじゃなくて・・・
「剛くんに少し妬いてくれたんですか?!」
私が聞きたいのはこっちだった。
「なんだよ・・・少しだけ、ほんの少しだけだよ。」
私はその言葉を聞いて先輩に抱きついてしまって、
先輩はなに?!っと驚いていた。
「嬉しくて。先輩でも妬くことあるんですね!」
「ーーーあまりないけど。」
「なら剛くんに妬くってことですよね?剛くんのお話たくさんしましょうか?(笑)」
「ーーー調子乗んなよ・・・笑」
「ふふふ、しませんよ。わたし、先輩のこと大好きですから。」
その瞬間に、私は先輩の腕力によって持ち上げられ・・・
先輩の膝の上にちょこんと置かれた。
「えっ・・・」
「こうした方が顔が良く見える。」
「な、なに?」
突然目の前に先輩の顔が現れて、すごい胸の高鳴りを覚えた私は視線を逸らした。
ドキンドキン・・・ーーー。
心臓の音が鳴り止まない、
この音が先輩に届いてしまってるかと錯覚するくらい大きな胸の高鳴りを感じていた。
「・・・キスしても良いか?」
二つ結びにしていた私の髪の毛を解き、
ロングヘアの髪の毛と髪の毛の間に自分の手を入れる先輩。
慣れてることなのかもしれないけど私からしたらいやらしい行動だ。
「そんなこと・・・」
私の答えを聞く前に先輩は私に唇を重ねた。
離しては重ねてを何度も繰り返す。
最初はいつも通りの先輩だった、
だけど少しずつ興奮して来てるのか・・・。
目がトロンとホッソリしながら私を見つめる。
その目から視線が外せなくなる。
「・・・お前、エロいな・・・」
そんなこと、と思って先輩から離れようとすると先輩の両手で締め付けられ動けなくさせられる。
「ずっと思ってた・・・。柊のあどけなさの中に女性としての美しさを隠し持っている気がしてた・・・。この表情、確信した。・・・誰にも見せんな、良いな。」
「ーーーはい。」
少しの独占欲を見せられた気がして嬉しかった。
「やべぇな、止めらんねぇ・・・」
先輩はそう言ってまた私に今度はさっきよりも強引に唇を重ねた。
少し強く、だけどそれもまた私を興奮させた。
先輩も興奮している・・・ーーー、
その証として先輩の上に座る私に何か固いものが当たる感触があったから。
きっとお互いに分かってる・・・ーーー、
だけど私は何も言わなかった。
「良いですか、先輩も私以外の女性にしちゃダメですよ?分かってますか?」
「ーーーするわけねーだろ(笑)」
久しぶりのキスだからか、
とにかくお互いがお互いを求めていた気がする。
カラオケという密室で、
こんなことをしてはいけないのは100も承知だったのに止められなかった。
とにかく私たちは何度も唇を重ね、
お互いを求めていたんだと思うーーー・・・。

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結局、店員さんからの時間ですという電話までずっとこうしてた。
「ーーー行くしかないか。」
時計を確認して先輩は私を自分の隣に戻した。
時計を見たらもうすぐ4時になる、
つまり先輩の練習が始まる時間だ。
「行きましょうか。」
寂しいけど、今は寂しいという時間ではないことは分かってる。
「ーーー来週、また会いに行くよ。」
「えっ?無理しないで・・・」
「俺が会いたいと思う、理由はそれだけだ。」
今までにこんなことはなくて戸惑ったーーー。
先輩が大学に入ってから会えて月2回ペース、
週1なんて考えたこともない。
戸惑いと同時に無理してんじゃないかなという疑問も生まれた。
だけどどちらにしても嬉しいのに違いはない。
「はい、嬉しいです、私も会いたいから。」
素直な気持ちを伝え、
私は先輩に抱きついて「練習頑張ってください。」と伝えた。

名残惜しいというのはこういうことなんだと思う。
先輩と分かれる寸前まで手を繋ぎ、
駅が近づくと私は口数が減った。
「終わったら連絡するから・・・」
「何時ごろ終わる?」
「ーーー分かんねーけど、多分8時過ぎだな。」
「そっか、頑張ってください!」
早ければ会いに行こうと思ったけど、
時間的に厳しそうだったから私は笑顔を作って先輩を見送る。
「ーーー悪いな、行ってくるわ。」
改札に入り、先輩が見えなくなるまで送り続けた。
一生会えないわけではない、
すぐ近くにいるし、
またすぐ会える距離にいる。
だけど今は・・・
今日は離れたくないって思ってしまった。
その気持ちが勝ってしまった、それだけのこと。
《 来週、必ずまた会おうな!》
そんな私の不安を読み取ったかのように先輩はすぐにメールをくれた。

私も・・・
深呼吸をして、一歩前に踏み出した。
先輩が頑張ってるんだから、
私も頑張ろうと。
そして空にその決意を伝えるように上を見て笑顔を向けた。
ーーー今日の空は笑っている、
そんな気がした日だった。

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