【 君がいる場所 】#32. 無我夢中で… – Itsuki Side –

君がいる場所

#32. – Itsuki Side –

柊と分かれて、
風呂も入らずにオレはずっと彼女に電話してる。
繋がることがなさそうな期待薄の電話に少しの期待を込めて発信している。

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これまでも彼女と衝突しては逃げる癖がある彼女から距離を置いたり別れたりの提案は何度もあった。
だけど心のどこかでそれは強がりだって思っては自分から寄り添った。
ーーー今回は違う、そんな直感が働いた。
入院中も目を合わせないことに違和感を感じ、
退院したことを知らされなかったことで確信に変わった。
そして今・・・ーーー。
最後に2人でデートしたときのように、
2人で会うことを彼女は拒んだ。
あの時から、ずっと答えは変わってないんだろうと思う。
そろそろ認めてあげなきゃならないんだと思う。
そう思うけど、
なぜか違和感を覚えて認めることが出来ない。
何かを隠している、そんな気がして。

「ーーーもしもし。」
柊とのこれからのことを風呂にも入らずベットに横になってると気がついたら寝ていた。
「樹か!花と何時頃分かれた?!」
剛コーチからの着信で寝ぼけながら返事をするも、
外気と走る吐息、焦るコーチの声で目が覚めた。
「何かあったんですか?!」
「・・・花が帰って来ないんだ。」
時計を見るともう日付が過ぎているーーー。
「えっ、どういうことですか?!そんなはずは・・・21時過ぎには・・・」
「東京駅で最後に電波拾ったのは確認した、そこから電源切ったんだろう。全部途切れたよ・・・心当たりないか?!」
ありすぎて何から話せば良いのか分からない。
「東京駅って・・ありえないですよ。俺たち会ってたの地元ですよ・・・」
「だよな・・・」
コーチは走りながら電話してるのがわかる、
息を切らしてる、
コーチばかりに頼ってられない。
「ーーーオレも今から・・・」
「いや、良い。心当たりがなければ良いんだ。遅くに悪かったな。」
そんなことを言われても気になって仕方なくなる。
ーーー柊と過ごした時間、
彼女と会話した内容から行きそうなところがないかを必死で思い出す。
オレは父親に頼み込んで車を借りて静岡まで車を走らせた。
当たるかどうかは分からない、
どうか当たって欲しいとそう願いながら向かった。

いつだったかまだ付き合いたての頃に彼女が話してた。
記憶はないけど小さい頃はよく家族で実家の近くのシラハマ海岸に行っていた、と。
イヤなことがあるとみんなその海に流してもらえるって信じてて柊自身も幼いながらに海によく行って浜辺に座ってた、と。
そんな話をしてくれたことがある。
関東にしては海がすごく綺麗なんです、って嬉しそうに話してたな、と運転しながらそのときの彼女を思い出してオレは微笑んだ。
「ーーーとりあえず向かってみます。」
「明日大学だろ?」
「何とかなりますって。」
道中で剛コーチに心当たりがあるとすればココだと伝えた。
コーチも何度も一緒に行ったことがある、
可能性は高いと言った。
「悪いな、助かる・・・」
静岡に思い入れが強い柊にはあり得る、とコーチは言った。
すぐ向かいたいが車検に出してて車がないから、
始発で向かうと言ってた。
そしてオレはマネージャーに病欠だと仮病を使った。
選手として最低だけど、
今はそれ以上に柊の方が大事だった。
今、優先すべきは柊だと思った。

柊がいなくなったのはオレにも原因はあるーーー。
そもそも事故に遭ったのが自分から飛び込んだと聞いてる。
退院したばかりなのに精神が落ち着いてるはずないのに、
俺は普通に1人で帰してしまった。
どんなに険悪でも家まで送るべきだったと、後悔した。

静岡のシラハマ海岸に夜中に到着、
誰もいるわけもない海岸に1人立つのは正直怖かった。
オレはコーチに念のためにメールを入れ、
車に戻り日の入りを待った。
そして5時半時を過ぎた頃、2人の女性が海に来たのが見えた。
1人は柊、もう1人は彼女よりも年配の女性だった。
ここから見ても2人が言い合ってるのが分かる、
その女性は血相を抱えて柊に詰め寄り、
柊は・・・彼女は土下座までしてるーーー。
オレは気が付かれないようにそっと近づく。
「どんな形でも償います!本当に・・・ごめんなさい。」
柊がそう言ってるのが聞こえたーーー。
「だったら・・・」
年配の女性は柊の腕を掴んで海の方へ向かい彼女を投げた。
突然のことでゲホゲホと咳き込む彼女を睨みつけている。
「柊!」
オレは海辺に座り込む彼女に寄って立ち上がらせる。
「えっ、何で・・・」
「あんたは人を殺す気か!」
オレは彼女を見下ろす年配の女性に言った。
「私は・・・この女に息子を殺されたのよ!償って息子が返って来るなら息子を返してよ!出来ないなら2度とこの土地に足を運ばないで!あなたに家はない!」
その人は一方的に怒鳴りつけ、
海を去りどこかへと消えた。

オレは・・・
柊が座る隣に腰掛けた。
「よく分かりましたね・・・」
「ーーー前に話していたのをふと思い出したんだ。」
「そっか・・・」
柊は空を見ていたーー、
手を伸ばしまるで連れて行って欲しいとでも訴えているようだった。
「変なこと考えんなよ。」
オレはその腕を強く掴み、鋭い視線で彼女に伝えた。
「考えてませんよ、何も・・・」
そして不自然にオレから手を離し、
微笑を浮かべながら彼女は答えた。
それからずーと彼女は言葉を発することもなく空を見てた。

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「花!」
そして7時過ぎ、
コーチが到着したーーー。
彼女を見つけた時にメールして、
その頃にはもうコーチは新幹線に乗ってた。
「来ないで!」
あれだけ信頼しているコーチを目の前にして彼女は怯えるように震え始め、
自分から海の方に走った。
「花!」
「来たら飛び込むから!もう・・・優しくしないで!」
「花・・・お前は勘違いしてる。言ったろ?オレは感謝しかないって。」
「そんなことない!私は全部思い出したって言ったじゃない!ーーー勝くんも良くんもお父さんもお母さんも全部私のせい!暴風予報が来てたのに私が海に行こうって言ったから・・・本当に予報が当たると思わなかった・・・」
「違う!あれはもともと良の唯一の外出許可の日だったからだ!」
「そうだよ?私たちが何しようとしてたか知ってる?」
「ーーー知ってるよ、結婚式だろ。」
えっ、と正直焦りを覚えた。
6歳が結婚式?と言う疑問もあった。
「そう!良くんと私の結婚式!大人になれない良くんのために私と勝くんで考えたの!なのにあんなことになるなんて・・・本当にごめんなさい!」
柊はコーチに対しても土下座した。
「花は意識失って記憶ないと思うけど・・・お前は必死に良を守ってくれてた。発作が起きた良に必死に声かけて、暴風が当たらないように勝と一緒に守ってくれてた。その時にできた傷が背中の傷だよ。ーーー良の日記にそれが書いてあるんだよ。」
「日記って、何?!」
「ーーー良と花は暴風が落ち着いて命を拾った。意識を戻した良は少しの余力を残してまるで遺書を書くように日記を書いて、その後の発作でこの世をさったんだ。あの事故が原因ではない。ーーー黙ってて悪かった。まさか花がそこまで追い詰めるなんて思わなかった・・・」
「それでも勝くんは?!お母さんのお腹には赤ちゃんもいたんだよ?!私の責任なんだよ・・・」
柊はその場に崩れ落ちた。
それを見てコーチはすぐに駆け寄って、彼女を抱きしめた。
「ーーーみんな花を守るようにして眠ってた。その意味わかるか?」
「・・・」
「お前に生きて欲しい、そう思ったんだよ。」
柊はまるで子供のようにコーチの腕の中で泣き崩れた。
「ごめんなさない・・・ごめんなさい・・・」
何度も何度も柊は謝罪していたーーー・・・。
「良が日記に書いていたよ、花をどうか幸せにして欲しいと。」
「ーーーうん。」
「花は良の初恋だった。」
「・・・私も良くんが大好きだった。」
「良を・・・弟を好きになってくれて、最後まで守ってくれてありがとう。ーーー女の子なのに、背中に傷を負わせて悪かった。花、オレと結婚するか?」
はっ、って思ったオレはコーチを睨んだ。
そんなコーチは冗談だったようで少し笑ってる。
「お姉ちゃんを悲しませたら許さない・・・」
「良の願いは花を幸せにすること。今の花にできることは彼らの分まで生きることだとオレは思う。花にとってオレと一緒にいることが幸せならオレはそれを選ぶ、だけど違うだろ?花そのものを好きになってくれる人と一緒になれ、それが良の願いでもあるから。それまではオレがきちんと支えるから・・・なっ?」
「ーーーありがとう。」
柊はコーチの胸の中に抱きついたーーー。
相手が幼馴染でも、
恋愛感情がなくても、
柊にとってお兄ちゃんでも・・・
一瞬、すごい黒い感情が湧いた。
血が繋がってない、
いつ恋愛が生まれてもおかしくない関係であるのは事実だから。
コーチが自分だったら良いのに、とも思った。

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「寝てないだろ、運転するわ。ーーー巻き込んで悪かったな。」
「いえ・・・」
柊を落ち着かせてから車に乗り込んだ俺たち、
後部座席で柊の隣に座るオレ。
彼女はずっと空を見てた。
「・・・わたし、自分で飛び込んだんじゃないよ。」
突然彼女が言った言葉にコーチも動揺してた。
「なんか言ったか?」
動揺を隠してもう一度聞き直すコーチは流石だと思った。
「事故にあった時・・・わたし、自分から飛び込んだんじゃないよ。自分の不注意だけど意図的なものでもなかった。それだけ知ってて欲しかった。」
「ーーー花はそんな弱くないの知ってるから大丈夫だよ。」
そう言ってたけどコーチの目にはうっすらと涙を浮かばしているのをミラー越しに見えた。

「ーーー樹には感謝しろよ。寝ないでお前を探しに行ったんだから。」
帰りのSAで朝ごはん中、
コーチが柊に言った。
「すいません・・・大学は大丈夫ですか?」
「午後からだから気にすんな。」
ーーー小さな嘘をついた。
でもきっと見抜いていたんだろう、
彼女は神妙な顔をしてオレから視線を避けた。

オレの寝不足を心配しているこの2人は、
アパートまで送り届けると言うオレの意見を耳にすることなく、
最終的にオレが折れて自宅で解散となった。
「午後までゆっくり休めよ。悪かったな。」
「いえ、また明日そっちに正樹と行きますので・・・」
「待ってるわ。」
コーチと会話して柊に視線を向ける、
だけど彼女は会釈だけして視線を合わせてもらえることはなかった。

2人して歩き出す道中。
たった5分、
その距離をコーチと柊が歩くその姿が楽しそうで微笑ましくて羨ましいと思った。
今向けてもらえないその視線をーーー、
オレに向けて欲しいと心から願った。

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