【 君がいる場所 】#30. 戻る記憶、戻らない気持ち*。

君がいる場所

#30.

ーーー思い出した、
全部。

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「花!分かるか?!」
私の手を強く握りしめ、
私の声を呼ぶ剛くんーーー・・・。
ずっと暗闇にいたせいか、
目を開けると眩しくて私は目を細めた。
「どこか痛いところあるか?!」
私は首を横に振る。
ああ、目が覚めたんだなーー・・・。
目を細めながら少しずつ開く、
剛くんはナースコールをして先生を呼ぶ。
私は先生からの質問などに答え、
大きな後遺症は今のところないと判断された。
先生たちが去り、
私はお姉ちゃんに連絡する剛くんを見つめ、
須永くんや色んな人に連絡入れる剛くんを遠目で見た。
「・・・剛くん、私全部思い出したよ。」
「ばあちゃんの家でのこと聞いたよ。そのことを思い出したって言ってんだろ?」
ーーー違う、本当に思い出した。
「違う。本当に思い出した。私が良くんを大好きだったことも、良くんが病気だったことも・・・。全部思い出した・・・」
「ーーーそうか。」
剛くんはきっとどう返答したら良かったのか分からなかったんだと思う。
「ーーーゴメンね。」
「何が?(笑)良のことならオレは花には感謝してる。」
剛くんの引きつった顔が目に見えたーーー。
きっと剛くんの中で思うことがあるけど、
今の私には言えないことなんだろうなと思う。
「ーーーごめん、1人にしてもらえる?」
全ての記憶を思い出した以上、
剛くんとどう接して良いのか分からなくて私は1人を選んだ。
どうやって接してた?
どうやって笑ってた?
どうやって話してた?
何も知らない方が幸せだった、
だから剛くんは私の記憶を無理に思い出させようとしなかったんだと今痛感している。
「なんか飲み物買ってくるな・・・」
少しの間だけ私を1人にしてくれた剛くん、
私は目をつぶって当時の事故の自分を責め続けた。

それから数日間、
剛くんとどう接して良いのか分からなくて表面上では今まで通りに、
でも実際は笑顔を作るのに必死だった。
ーーー剛くんはそれに気がついてた、
だけど私たちはお互いに気がつかないふりをして過ごした。

そして今日は須永くんや環たちがお見舞いに来てくれている。
「うわぁ、ここのプリン美味しいよね!よく買えたね!」
私の大好きなプリンを持って。
「朝から並んだわ、須永がね(笑)」
「ありがとうね!」
「どうってことないさ!それよりいつ頃退院できそうなんだ?」
一瞬空気が凍った気がしたけど、私はすぐ笑顔で答えた。
「・・・多分、あと1週間くらいかな?」
「そっか!今外マジで暑いからここにいた方がマシだよ!(笑)」
元気付けようと言ってくれてるんだけど、
ところどころ周りが凍り付きそうな雰囲気になるから笑ってしまう。
そっか・・・ーーー。
もうすぐ9月だもんね、残暑が厳しい今だよね。
そりゃ外は暑いよね、と思った。
「これからどこか行くの?」
「樹先輩がこの前誕生日迎えて、みんなでお祝いするんだ!」
環が元気よく私に伝えた。
「ーーー言わなくて良いから。」
そこにつかさず樹先輩本人から遮断される。
そういえば私って先輩の誕生日知らないなってハッとした。
「お誕生日だったんですね、おめでとうございます。」
「ーーー柊はそんなこと気にしなくて良い。」
周りが知ってて私が知らない情報だけでもショックだったけど、
口数がいつも以上に少ない先輩から発せられる言葉が冷たく感じてそれもまたショックだった。
だから私は先輩から視線を逸らした。
「長居しちゃってごめん。そろそろ私たちも行こうか・・・」
みんなが来てくれて1時間くらい経過、
私は少し疲れを感じ始めていた。
「そうだな、柊も突然来て悪かったな・・・」
「いえ。」
笑顔を作れないまま先輩に返事した。
そしてすぐにみんなが病室から去り、
休憩室で休んでた剛くんが戻って来た。

「ーーー剛くん。」
「ん?」
「退院したら勝くんと良くん、お父さんとお母さんのお墓に連れて行ってくれる?」
「ーーー分かった。」
そしてもう誰が来ても部屋に入れないでほしい、
面会を断ってほしいこともお願いした。

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私はそれからすぐに退院した。
退院日にはまさかのお姉ちゃんが出迎え、
めちゃ怒られると思ったら急に抱きつかれた。
「本当に心配したんだから・・・ーーー!!」
「ごめんなさい。」
姉に連れられて私は剛くんの家に戻る。
まだ仕事で不在している剛くんの家は、
入院してる間もずーと綺麗に整えられていた。
「私ね、ここに越してこようと思ってるの。」
「えっ?」
くつろいでいる時にお姉ちゃんが言った。
「剛ともたくさん話し合って、今回私は心臓が止まるかと思ったのよ。そんなときに近くにいらないの悲しかった、辛かった・・・だから仕事をセーブしてここからでも行ける距離の仕事だけを取るように変更してもらったの。」
「ーーーゴメン。」
私は何も言えなくて、
ただお姉ちゃんの話を聞いて過ごした。

それから少しの間学校を休んだ、
そして季節が秋に変わった9月の終わりに学校に復活した。

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