#29. – Itsuki Side –
柊と最後に会って1週間・・・。
今回は彼女の意思も固かったのか、
全く連絡が来なかった。
こちらからも待つと言った手前、
連絡を取ることは控えた。
・
「あの子、大丈夫だった?きちんと話ついたの?」
「・・・まぁ。」
マネージャーは基本的に良い人だ、
だけど練習や試合の妨げになるものに対してはかなり厳しい。
自分も4年の人と付き合ってるはずなのに、
その人の邪魔になるようなことはしないといつも言ってる。
オレは・・・
恋愛とバスケは別だと考えているから、
同じエリアに例えあったとしても二つを別に捉えることが出来ると思ってる。
確かに柊のような少し面倒な性格の場合、
振り回されることも少なくはない。
だけど・・・それを嫌と感じたことは一度もなく、
逆で彼女が何を感じ何を思っているのかを知ることでどう向き合うべきか考えている。
・・・彼女から連絡来なくなった今でも、
次に会った時に彼女をどう不安にさせないようにできるかを考えている自分がいる。
・
「お前との試合が1番楽しかったわ!」
2週間にかけて行われていたデビュー戦が終わり、
オレは久しぶりに正樹と大学終了後にご飯に来た。
「負けるもんかって思ってたよな(笑)オレも楽しかったわ!」
「須永たち、どっち応援すればよいのか分からなくて面白かったよな笑」
「ーーー環なんて、どっちでも良いから頑張れ!とか言ってたよな笑」
俺たちは大学に入っても高校の話題がまだ多い。
「柊さんは来なかったんだな・・・」
「ーーーまだオレに会いたくないんだ思う。多分、まだ気持ちの整理がつかないんだろうな。」
「お前、それで良いの?」
「何が?」
「その間に柊さんが他の男に取られる可能性もあるってこと考えてる?例えば・・・1番近くにいる須永とか?笑」
「確かにその可能性はあるかもしれない、だけど考えると言ったアイツの言葉をオレは信じたいんだ。」
「ーーーそっすか。それよりさ、久しぶりにバスケやりに行きますか?」
少し話題を切り離して正樹はいつもの場所でバスケをやるのを提案してきた。
ーーーそしてすぐに環に連絡して、
在校中に休みの日にみんなで練習していたグランドに行こうと駅で待ち合わせることになった。
「ーーーあれ、須永は?」
「あー・・・。今、アイツ部活休んでるで・・・」
「何で?」
駅に着いて環と双葉しかいないことに違和感、
須永は絶対に来ると思った。
「ーーーまぁ、花のこととか。。。」
二人とも気まずそうに視線を合わせ、
それ以外何も話さなくなった。
ーーー何となく今のこいつらに重い空気が流れているのは察しがついた。
だから俺たちもあえて聞こうとしなかった。
誰にも言いにくいことってあるから・・・。
須永と柊の間に何かの問題が起きた、
それだけだと思ってた。
「えっ、須永じゃない?」
「ホントだ!須永!何してんの!?」
グランドに到着する直前、
遠くから見えた・・・
素足でとにかくシュートを打ちまくる須永に環が駆け寄る。
「あーーー・・・あと20回・・・」
「何やってんの!って聞いてるの!何で裸足で?こんな足がボロボロになるまで何してるの!?」
「ーーー1000回ゴール決めるんだよ、そしたらアイツの意識が戻るって信じてるんだよ・・・あと20回、邪魔すんな。」
須永は環の言うことに聞く耳も持たなかった。
「あんた部活休んで毎日こんなことしてんの!そんなことしてたら須永が倒れる!せめて水分取りなさいよ!」
今買ってきたボトルを須永に渡す環・・・。
「離せよ!アイツの苦しみに比べたらこんなの・・・」
環を拒否して涙を流す須永の姿ーーー。
彼の涙を見るのは初めてで、
よほど大切な人なのだと思った。
「あんたがこんなことしても・・・」
「お前見たか?!アイツの傷だらけの腕と足・・・」
「・・・行ったの?コーチにダメって言われたじゃない!」
「仕方ねえだろ。信じられなかったんだよ、自分で車に突っ込むとか・・・」
完全に俺たちが入れる余地はない・・・。
「こんなことしても花は喜ばない!須永にこんなこと頼んでないと思うよ?きっと花は・・・真面目に練習に取り組んで試合で活躍して、いつも笑顔の須永でいて欲しいと思う。花の目が覚めた時、誇れる自分でいて欲しいって私は思う。だから練習にも戻ってきて欲しい・・・」
オレは話についていけないのと、
入ってはいけない気がして正樹とその場を去ろうとした。
だけどーーー、花という環の言葉に足を止めた。
「どういう・・・」
何も知らないオレは環に問いかけようとした。
だけど・・・須永はオレを睨みつけて発言した。
「なぁ、なんで先輩はそんなに平気な顔してんの?ーーーオレは柊がいなくなるって思うとこんなに怖いのに、何でそんな平気な顔してんだよ・・・。柊がいなくても平気なんだろ?・・・だったらオレにくれよ、アイツをオレにくれよ・・・」
須永は俺の胸ぐらを掴み、
その場にしゃがみ込んだ。
「ーーー何の話をしてる?柊・・・アイツに何かあったのか?」
オレの言葉でその場にいた正樹以外の全員が凍りついた表情をした。
「えっ?冗談がすぎます・・・」
環がオレに引き攣った顔で言った。
「冗談でこんなこと言わない。何があったんだ?」
「本当に知らないの?コーチから何も聞いてないの?」
「ーーー頼む、教えてくれ。」
・
オレは走ったーーー・・・。
オレと会ったあの最後の日に・・・
まさか車に突っ込むなんて・・・。
そこから意識が戻らないなんて・・・。
あの時、何を考えていた?
ーーー最初からこうなることを決めていたのか?
だから・・・オレに会いにきたのか?
何も知らなかったとは言え、
オレは彼女を突き放したーーー・・・。
「コーチ!柊は?!アイツ、どこですか?!」
少しやつれたコーチを見つけてオレは問い詰める。
「落ち着け・・・花は相変わらずだからさ。」
苦笑いで少し諦めた様子のコーチが言う。
そして何も言わずに病室に案内してくれた。
機械の音が大きく鳴り響く、そんな病室に。
「連絡しなくて悪かったな。花は嫌がると思ったんだ・・・」
「ーーーそうかもしれませんね。」
「須永から聞いたのか?」
「ーーーまあ、そんなところです。」
「一度だけ須永も来てな、それからは一度も来てない。樹、お前も無理してこなくて良いから。」
ーーー気を遣われたり、
相手のことを考える余裕がないからコーチは連絡してこなかったんだと思った。
「あの・・・自分からって聞いたんですけど・・・」
「ーーー信じたくないけど、な。」
それ以上、何も言えなかった。
コーチの今にも泣きそうな震える声、
それを彼女の目の前で話すのは良くないと思った。
・
オレは面会時間が過ぎてから須永を呼び出した。
ーーーアイツの気持ちを知ってながら、
オレは須永ときちんと向き合うことをしなかった。
今がその時だと感じたからだ。
「今日は取り乱してすいませんでした!」
すっきりした様子の須永がオレに謝罪する。
「お前の気持ち、痛いほど伝わった。だからオレも正直に話すわ。ーーー先週、柊に別れようと言われた。」
「えっ?」
「同じ学年が良かった、高校と大学じゃ寂しすぎる、毎日が辛いと散々言われたよ・・・。遠回しにバスケより私を優先しろって聞こえたわ(笑)」
「そうっすか・・・ーーー。先輩はそれを受け入れたんですか?」
「いや、受け入れることも否定することもしなかった。受け入れることは出来ない、もう一度よく考えてそれでも別れを選ぶなら受け入れると伝えた。・・・そして1週間経っても連絡なくて俺はまだ彼女の中で決着つかないんだと思ってたよ。こんなことになってるなんて考えもしなかった・・・」
オレは素直な気持ちを須永に伝えた。
「きっと須永の方が彼女を好きになったのは先なんだと思う。後から割り込んだのはオレなんだと思う。だけど・・・ゴメン。オレも彼女が好きだから。それはきちんと須永に伝えておくべきだと思った。」
「ーーー先輩から柊を奪おうなんて思ってもないし、アイツは先輩しか見えてない。今日はオレがおかしかったんです、すいませんでした。」
須永がどう思ったかは知らない、
だけど自分の気持ちはきちんと伝えたーーー。
オレと須永、
お互いに少しスッキリした顔になっていたのだから、
お互いに話せたんだと信じたい。
・
柊が意識を戻した、
そう須永から連絡を受けたのは3日後のことだった。
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