#28. – Goh Side –
「佐藤先生!今すぐ職員室に来てください!柊が・・・事故ったって!」
・
今日もいつものように昼から練習だっだ。
金曜の夜から静岡に帰ってる花が帰宅するのは夕方くらいだろうと俺は考えていた。
いつものように朝メールを送り、普通に返ってきた。
いつもと同じ絵文字、
何も変わらない彼女なりの優しい文章で。
「えっ!?どう言うことですか?!」
だから副校長が体育館に走り込んできた時の衝撃はきっとこれから先も忘れないだろう。
「良いから!○○病院です、今すぐ行ってください!」
その場にいた須永も他の部員も驚きを隠せないでいる。
「柊が・・・事故・・・?」
真っ青な顔になる須永を環が支える。
こう言う時、女子が合同で良かったと思う。
「ーーー自主練で、適当に帰ってくれ。」
それだけ伝え、俺は花が運ばれた病院に急ぐ。
案内された今でもまだ治療中のランプが消えていない。
「ーーーその場にいた方の話によれば赤信号の横断歩道に自分から歩いて向かったそうです・・・」
警察に花との関係性を伝え、事故の経緯を聞く。
「どう言うことですか?花が自分から車に轢かれたってことですか?!」
「まだ詳しいことは分かりません。幸い、運転手は軽傷で済んでいますのでこれから事情を確認する予定です。」
「ーーー花は・・・」
「頭部を強く打たれているそうで・・・ご家族を呼んだ方が良いと思います。」
それって・・・。
医師の話を聞いて俺は愛梨にどう説明すれば良いのか分からずに携帯を握りしめた。
家族を呼ぶって、覚悟を決めろってことだよな?
何の覚悟だよ・・・。
ーーーでも愛梨は電話に出なかった。
海外の撮影中だから帰国したら連絡する、とだけのメールが来て終わり。
俺はメールで花のことを伝える勇気が持てず、
そのまま何も返信することもできなかった。
花の手術が終わったのは俺が到着して2時間後だった。
ーーー包帯を頭と腕に巻きつかれ、
酸素マスクも付けられている。
足も傷だらけ、どれだけの痛みだったか傷を見ただけでも想像がついた。
「くそっ!」
何度叫んでも目を覚さない彼女を見て、
俺は病院の壁に足を殴り当てた。
・
花は昔から繊細な子だった・・・。
ご両親と暮らしていた時からずっと・・・。
そんな花をご両親はいつも心配してた。
だけど繊細だからこそ誰よりも優しかった。
だからあの日も良のワガママを花は叶えてあげようとしたんだ。
ーーー本当に花のように優しい子だから。
俺は花が目を覚ますように手を握りしめながら、
幼かった頃を思い出していた。
いつもオレか良の側から離れなかった彼女は、
特に良のことが大好きだった。
良くんと結婚する!、
それが花の口癖だった。
俺たちは本当に兄弟のように・・・
家族同然で今日まで育ってきた。
それに俺は弟と花を幸せにする、
彼女を守ると約束したんだ・・・。
なのに俺は守りきれなかった、
彼女をここまで追い詰めている何かに気がつけなくて自分を責めた。
そして彼女がベットに眠る姿を見て、
当時のことを思い出した。
ーーーあの時も全然目が覚めなかった。
1週間、二週間が過ぎても全然覚めなくて・・・。
誰もがみんな諦めた、
そんな矢先に彼女は事故の記憶を無くして良の存在すら記憶から無くして目が覚めた。
今・・・ここで眠る彼女を見てオレはまたあの時のような恐怖を感じて震えが止まらなかった。
ーーー目が覚めなかったら・・・
怖くて怖くて仕方なかった。
・
「コーチ!」
俺が花の元を離れ、彼女の衣類と自分の衣類を自宅に取りに戻った。
「えっ、お前ら何してんだ?」
そこで俺を待つバスケ部の教え子たち・・・。
何も言わず招き入れ、
入院の支度をしながら俺はお茶を出した。
「花はどうなんですか?」
双葉が率直に聞いてきたーーー。
俺はお茶を出しながらも必死に涙を堪える。
「・・・警察の話だと自分で飛び込んだそうだ。」
「えっ!!」
「まだ意識も戻ってないんだ・・・。だから真意が全く俺にも分からない。」
「・・・それはこの前の件と関係あるんですか?」
学校では取り乱した須永がオレに聞いてきた。
ーーー今は落ち着いた様子だ。
「オレにも分からない。ただこの週末、静岡に帰ってたんだ。そこで何かあったんじゃ・・・」
そこでハッとした・・・。
静岡のおばあちゃんの家に戻る、つまり花を毛嫌いする叔母さんもいるわけだ。
叔母さんが花に話したのでは、とオレは冷や汗をかき始めた。
「樹先輩と何かあってってことはない?!花、いつも寂しいって言ってたし・・・」
だけどそんなオレの心配をよそに環は問いかける。
「男を理由にそんなことするヤツではないよ。」
そこは断言したーーー・・・
信じたい自分と、そうであって欲しい自分のために。
「ーーー部活は当面の間、内山先生にお願いした。申し訳ない・・・。それとお前たちも混乱するだろうから花の意識が戻るまで面会は控えて欲しい。」
「ーーー分かりました。意識が戻ったら連絡もらえますか?」
そこでオレは須永と連絡先を交換し、
花の意識が戻ったら彼に連絡することを約束した。
・
花の病院に戻る道中、
オレは愛梨に電話したーーー・・・。
花の実の姉は愛梨だ、
兄弟同然に育ってもオレは血は繋がってない。
「それって花の意識が戻らない可能性もあるってこと!?」
「ーーー今のオレは何も分からない。」
「何で?剛、何してたの?!頼んだよね、花のことお願いって・・・。守るって約束したのに何で!?」
愛梨はオレを責めた、
責めて責めまくり電話越しでもすごい怒鳴りつけてきた。
ーーー彼女の怒りは当たり前だと思う。
「ホントごめん。」
愛梨は電話越しで泣きながら、
そのまま眠りについた。
オレも花の隣にベットを置き寝かせてもらった。
愛梨が面会に来たのは数日後のことだった。
「えっ・・・」
「遅くなってごめんなさい・・・」
泣き腫らした目で花を見てオレに謝罪する愛梨。
「仕事は?」
「ーーー夜の便で戻る。剛、ごめんね。花を託してるの私なのに・・・剛は何も悪くないのに。」
「いや・・・今はオレに責任が1番あるっしょ。」
愛梨は苦笑いして、そして真顔になってオレに話した。
「・・・ここに来る前に、おばあちゃんに会ってきた。花、全部知ってるって。」
「えっ!?」
「花がおばあちゃんの家に帰ってたの私知ってるの。花のSNSに載ってて見たのよ。」
「ーーーさすがだな。」
「そこに何かあると思っておばあちゃんに直接聞いてきた。」
「事故のこと話したのか?」
「それは言えなかった・・・。そしたらおばあちゃん、自分を責めると思って。あの人、少し柔らかくなったね。」
花は祖父母に可愛がってもらったけど、
愛梨はあの家全体が苦手で祖父母も苦手だった。
よく話を聞いてきたと正直驚いた。
「それが原因か・・・?」
「分からない。わたしこの仕事が終わったら海外の仕事は減らすから・・・それまで花のこともう少しだけお願い出来ますか?」
「分かってるよ、オレが必ず守るんだから。」
ーーー笑顔で愛梨は病院を去った。
だけど来る日も来る日も花が目を覚ますことはなく、
ただ酸素マスクと機械の音が静かな部屋に鳴り響いていた。
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