#26.
私は次の週末、おばあちゃんと過ごすために祖母の家に来た。
金曜の夜に来て日曜の昼に帰る。
しばらくこのスタンスで行こうかなと思う。
少しずつおばさんとの距離も自分なりに縮められたら良いなとも思ってる。
・
祖母は結構開き直りが早く、
今はもう旅館の仕事にも戻ってる。
そしてどこも悪いところもなく元気に過ごしているから安心。
そんな金曜の夜、
私は夢を見たーーー・・・。
昔のお母さんの部屋で寝たからだろうか・・・。
お父さんとお腹の大きなお母さん、そしてまだ幼い私とお姉ちゃん、そして1人の男の子も一緒だった。
そして大雨の中、もがく1人のまた違う男の子。
2人とも顔は見えないけど男の子だった。
ーーーそこでパッと目が覚めた。
夢か・・・
そう思いホッとする自分、
でも違う。
これは夢なんかじゃない・・・。
そうどこかで確信している自分がいた。
それを証明するため、
土曜の朝、家族みんなで囲む食卓で私は話題を出した。
祖母の家は代々からどんなに忙しくても、
食卓だけは家族みんなで囲むというしきたりがあった。
それは父と母が結婚して私たちが生まれても、
そこだけは父母も守ってきていたほどこの家にとって大切なことなんだと思う。
祖母、叔母さん、叔父さん、私で囲む。
叔母さんの息子さんは都内で働いているため、
一緒には暮らしていないーーー・・・。
「あのさ、聞いても良いかな?」
「どうした?」
「・・・10年前、事故にあった時、お母さんってお腹に赤ちゃんいた?」
その場にいた全員のお箸が止まった瞬間でもあった。
「思い出したのかい?」
「ううん、そんな夢を見たの・・・。あと2人男の子がいてみんなでお出かけしてた。夢だけど夢じゃない、そんな気がして・・・」
叔母さんも叔父さんも黙ってご飯を食べている。
「・・・花は思い出したいと思ってるのかい?」
「出来れば思い出したいなって思う。それに叔母さんが私たちを嫌う理由もそこにある気がするから・・・」
「私は別に嫌ってなんか・・・」
「剛くんはお母さんと叔母さんが昔トラブルがあったからって言ってた、でも本当は違うよね。・・・知ってるなら教えて欲しい。お願いします。」
私はおばあちゃんとおじさんおばさんに頭を下げた。
「・・・私には花と同じ年の息子がいた。剛にも花より少し年上の弟がいた。花と私の息子と剛の弟はいつも一緒だった・・・あの日も一緒にあんたの父母と一緒に・・・。」
「えっ・・・」
「そうよ、花があんなこと言い出さなければ誰も事故に遭うことはなかった。・・・あんたが私の息子も剛の弟も自分の両親も殺したも同然なの!許せるわけがないでしょ?自分の子を殺されたのよ?!花のことが好きとか嫌いとかそんなんじゃない、あんたが憎い・・・」
「みゆき!」
おばあちゃんは私を攻撃する叔母さんを止めた。
叔母さんの話を聞いて私は涙を堪え、
叔母さんは嗚咽を殺して泣き崩れていた。
「本当のことじゃない・・・息子を返してよ・・・!あの子を返してよ!花を見るたびに殺意が湧く、あんたなんか引き取りたくなかった!・・・なんで息子だったの・・・なんで花となんか仲良くしてしまったのよ・・・」
「そんな・・・」
「剛だって花に優しくしてるけど本当は何考えてるか分からないわよ!復讐しようとしてるかもしれない!花と関わるとみんなロクなことが起きない!あんたの顔なんか見たくもないのよ!」
泣き崩れる叔母さんを叔父さんが「花ちゃん、悪いけどもう帰ってくれると助かる。」と言葉を残して部屋に連れて行った。
ーーー何も知らなかった。
「・・・みゆきの言ってることには少し誤解があるのよ。」
「でも本当のことなの?」
「ーーーみゆきの息子の勝と剛の弟の良が亡くなったのは事実・・・」
おばあちゃんも目に涙を浮かべながら言った。
「私のことを気にして戻ってきてくれるのは嬉しいけど、その度にみゆきがおかしくなってしまう。まだみゆきは勝の死を受け入れられないのよ。花、時々私が会いに行くから・・・こっちにはしばら来るのを控えてもらえたらありがたい。」
・
おばあちゃんの家をどうやって出て、
どうやって新幹線に乗ったのか分からない。
おばあちゃんは優しく接してくれていたけど、
お母さんはおばあちゃんがお腹を痛めて産んだ子供だから少なからず私のことを憎いと思っているに違いないと思った。
ーーーそして剛くん、彼はどう思ってるんだろう。
聞き出すのが怖くて、
一緒に暮らす家に帰るのが怖かった。
だから私は先輩の大学に足を運んでたーーー。
会わないと決めたのは自分なのに、
こんな時に頼りにしてしまってる自分は人を振り回す名人だと思った。
先輩の大学に着いて、
前に話で聞いていた通りの道に進むと大きな体育館が見えた。
そこから聞こえる大きな声の方に向かうと、
高校では考えられないほど多い人数、
そして、大きな人たちが練習しているのが見えた。
部外者が入って良いものなのだろうか、
どうしたら良いのだろうか、と戸惑う私ーーー。
やっぱり場違いな気がして、
私は体育館を去った。
「柊!」
大きなグランドの前を正門に向かって歩いてると背後から聞こえる先輩の声。
「あっ・・・突然来てすいません。」
「いや・・・後ろ姿見えたから・・・どうかしたか?」
この前のことがあってから久しぶりなのに、
変わらず優しくしてくれる先輩に涙が出そうになる。
私は先輩に何も言わず抱きついた。
ーーーここが先輩の大学でよくないって分かるけど、
どうしても我慢出来なかった。
私の様子が変なのに気がついたのか、
先輩は驚きながらも何も言わなかった。
「・・・静岡に帰ってました。」
「楽しめたか・・・」
私は先輩を見て、首を横に振る。
「先輩、助けて・・・。」
「えっ?どうし・・・」
「・・・わたし・・・」
涙が出そうになるのを堪え、
先輩のジャージを掴んで震える手で必死に涙を止めてる。
「樹!休憩終わりだって!戻って!」
「ーーー今行きます!」
なんだかピリピリしているこの前のマネージャーさんは私を見るなり一喝。
「またあなた?!後輩か彼女かなんか知らないけど、樹は今デビュー戦中で大事な時期なの!恋愛にうつつを抜かしてられないの!邪魔しないでもらえる?それくらい出来るでしょ?!」
「・・・彼女も大事な話があって来たんですよ。その言い方はないんじゃないっすか。」
樹先輩は反論してくれたけど、
マネージャーさんの言う通り邪魔してしまってるのは事実だと思った。
「でも本当のことでしょ!監督に見つかったらどうするの!?会うのを我慢出来ない彼女はこの部活には必要ないんじゃないの?!」
「先輩!」
流石の樹先輩もマネージャーさんを止めたけど、
私は返す言葉もなかった。
「いえ、本当のことですね。・・・突然押しかけて、お邪魔してすいませんでした。・・・失礼します。」
私は先輩に会釈して、通り過ぎたーーー。
「ーーー夜電話するから!」
先輩からの叫び声を私は聞こえないふりをした。
正門を出て、
私はその場にしゃがみ込んだーーー。
口を塞いで必死に声に出さないようにひたすら泣き続けた。
学校に出入りしてる人たちに見られても、
もう立ち上がる力が残されてなかった。
ーーーここまで居場所がない、
そう感じたのは初めてだった。
夜、本当に先輩から着信を受けたーーー・・・。
1度目も2度目も勇気がなくて出れなかった。
剛くんのいる家に帰ることも出来ず、
漫画喫茶にいた私は3度目の電話も受けることが出来ずに次の日を迎えた。
・
私は叔母さんやおばあちゃんに言われた言葉の一つ一つを思い出し、
それが真実なのだと痛感していた。
そして何もよりも心を痛めたのは剛くんのことだった。
これまでどんな気持ちで私に接して来たのだろう、と。
私を恨んだに違いないのに、
優しく接することが辛かったはずなのに・・・。
叔母さんが言うように私の存在自体が叔母さんを苦しめる。
ーーーきっと私の存在自体が、
剛くんをも苦しめているんだと思った。
何も事故のことは思い出せないけど、
それが何よりも悔しいけど・・・
でも誰1人として嘘は言ってないことは分かる。
私は誰かを苦しめるために生まれて来たわけじゃない。
誰かと笑い合いたかった・・・ーーー。
ただ家族に愛されたかった。
そしてこの10年、剛くんに守られて来た。
ーーー彼を苦しみから解放する時間だ、
そして行動に出た。
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