#25.
正樹先輩と須永くんが去って、
私は樹先輩と残された。
・
「私もそろそろ帰りますね・・・」
「・・・お祖父さんが亡くなったって本当なのか?」
「ーーー本当ですよ。今日から学校に復帰しました。」
「何で連絡してこなかった・・・」
「したよ!電話しても出なくて、折り返ししてこなかったのそっちです!」
「ーーーそれはマネージャーの件でだろ?お祖父さんの件で何で連絡してこなかったと聞いてる!」
「先輩と私の祖父に関係性はありません。」
矛盾してるよ、わかんないよそんな事って正直思った。
「ーーーそうだな。それでも一言メールでも良いから伝えていて欲しかったわ。」
「分かんないです・・・」
「何が?」
「マネージャーさんの件で謝ろうと思って電話して出てもらえなくて折り返し来なくて、そしたら怒ってるって思うの間違ってますか?それで祖父の件を連絡しろって言われても私そんな空気読めない・・・こっちだって前に進まなきゃって必死なのに、そんなこと考えてる余裕なんてない・・・」
また私が暴走したーーー・・・
また先輩にわけわかんない顔させてる。
「ーーー悪い、そうかもしれないな。こんな痩せるまでだもんな、ショックだったよな・・・」
先輩は私に向き合おうとしてくれてる、
だから私に一歩近づいた。
「私は今日会ったらただ普通に話したかった。ただそれだけでした・・・」
「柊・・・」
先輩が一歩足を出すたびに私が一歩引くから距離が縮まらない。
「分かんないです。・・・これから先、先輩とどうやって付き合って行ったら良いのか分かんない・・・」
「ーーーオレがバスケをしてるからか?高校と大学で離れてるからか?」
「分かんない。」
「分かんないだけじゃオレも分からないし、何の解決にもつながらない。」
「ーーー私は・・・いつも不安だった。先輩モテるから気持ちが離れたらどうしようっていつも不安で必死でした。しまいに環たちには性行為しないのはおかしいとまで言われ・・・先輩の気持ちも何もかも分かりません。」
涙を拭うのに必死だったけど、
暴走を止められなかった。
「ーーー柊を抱けば納得するのか?だったら抱くよ、それで満足するなら・・・」
違う・・・。
私が求めてるのはこんなんじゃない。
性行為って、愛があって幸せを感じながらするもんなんじゃないの?
言われてするもんじゃない、私はそう思う。
「・・・ごめんなさい。そんなことを言わせたかったわけじゃない・・・」
樹さんは大きなため息をついた。
はぁぁぁ、と。
「一度冷静になろう。柊は今、感情的になってる。何を言っても無駄だと思う。気持ちの整理をした方が良い、待つから。柊の気持ちが落ち着くのを待ってるから、そしたら連絡欲しい。またその時に本当の気持ちを話そう。」
それだけ言って先輩は私の前から去ったーーー。
気持ちの整理なんてつくのだろうか・・・
私の気持ちの行き着く先はあるのだろうか。
そんな不安を抱えながら、
考えること1ヶ月、
私は先輩に連絡を取った。
・
先輩は《 了解 》とだけ返信してきた。
そして落ち合うのは今日、
朝からいつもよりもおしゃれした。
洋服はお金がないからあるもので、
少しでも先輩と釣り合うようにと選んだ。
「遊園地行きたいなんて珍しいな。」
「前に友達と行って、今度は先輩と行ってみたくなったんです。」
私は先輩と遊園地に行きたいと誘った、
この1ヶ月がまるで何もなかったかのように2人で楽しんだ。
カップルのように手も繋いだし、
ずっと笑顔でいられたと思う。
作った笑顔じゃない、
本当に心から楽しんだ。
「あーー、楽しかった!そろそろ帰らないとですね。」
時計を見るともう8時、
高校生はそろそろ帰らないとダメな時間だ。
でも今日は本当に楽しかった。
先輩と付き合ってこんなに楽しかったデートは初めてだ。
デート自体あまりなかったから。
「そうだな、帰りますか・・・またくれば良いし。」
私は苦笑いで返事した。
最寄りの駅までたわいない会話で過ごした・・・
精神持つかすごく不安だったけど、
何とか持ったことを誇りに思いたいくらい。
「来週からオフに入る。夏は暑いからな・・・。海でも行くか?」
「いや、海苦手なんで・・・みんなで行ってきてください。」
「ーーーどっか行きたいところあるか?」
私は首を横に振った。
大きく深呼吸して、先輩に伝えた。
「この1ヶ月、どうすれば良いか自分なりに考えました。ーーー先輩と2人でこうして会うのは今日が最後にしようと決めました。だから・・・最後だから・・・笑顔で終わりたかった、すごく楽しめて良かったです。」
本来もっと早くいうべきことを今言えた・・・。
「オレを嫌いになったか?」
「違う・・・」
「もっと好きな人が出来たか?」
「違う。」
「じゃあ別れる理由を教えて欲しい。」
先輩が納得できるような理由なのだろうか。
分からないけど私は先輩に自分の気持ちを話した。
「素の先輩を出せる人と付き合って欲しい。私では不安になりすぎる、気持ちの違いが大きすぎる。」
「それだけの理由で別れるのか?あの日、もう一度始めて欲しいって言ったのは、柊の全てを含めて受け止める覚悟で言った。お前もそうだったんじゃないのか?」
「わたしは・・・」
「不安なら取り除いていけば良い。確かに物理的に離れて不安な気持ちも分かる。それに柊に比べたらオレはバスケもあるから寂しく感じる時間は少ないかもしれない。だからと言って別れたいという理由にはならないと思う。好きだから逃げるんじゃなく、好きだったら相手とどう向き合えるか、それをオレは柊に考えて欲しい。逃げる道じゃなく、向き合う術をお前にはつけて欲しいと思う。もう一度きちんと考えて欲しい、それでも気持ちが変わらないならその時は受け入れるよ。」
先輩のその話を聞いて、
私はもう何も言えなかった・・・。
そうだよね、私はいつも逃げている。
先輩の向き合う力、少し欲しいなって思った。
私に気持ちが薄いから冷たくあしらわれているのかと思ったけど、
私に向き合う力、強くなって欲しいから先輩はわざとそう仕向けているんだと今知った。
「柊にはオレが環といた方が楽しく見えるのかもしれない。だけどそれは柊から見えるオレであって、オレの気持ちではない。・・・オレは環を後輩以外の目で見たことはない。不安になるなら何度だって伝えてやるよ。」
今日の先輩はいつもより優しい気がする。
確かに先輩と一緒にいれば不安を取り除くチャンスをたくさん作ってくれるのかもしれない。
だけどそれは私が先輩に迷惑ばかりかけているってことにもつながる。
・・・重荷になるのは嫌だ、
そう思うからこそ何も答えられなかった。
「・・・とにかく、もう少し考えてみて欲しい。」
そう言って先輩は私の肩をトンと叩いて、
帰路に向かった。
こんなに大好きな人なのに、
手離したくないのに、
自分自身どうすれば良いのかもう分からなくなってた。
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