【 君がいる場所 】#24. オレだって・・・*。 – Sunaga Side –

君がいる場所

#24. – Sunaga Side –

木曜の朝、俺は教室に行く前にコーチに呼ばれた。
部活で何かしでかしてしまったんではないか、
朝電話きてからそればかりだった。

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「花を・・・アイツを見張ってて欲しい。」
だけど内容は全く違うもので、
コーチの幼馴染である柊を見張って欲しいと言う何ともスリルな任務だった。
「見張るんですか・・・?それなら俺じゃなく環や双葉の方が・・・」
「それは俺も思った。だけど環はクラスが違う、双葉は女子だ。・・・大好きだった祖父が亡くなってショックが大きいんだ。今、何をするか分からない。だから頼りになるのは女子より男子のお前だと思ってる。頼む・・・」
普段から怒りはしないけど厳しい時は厳しく、
面白い人ーーー。
そんな人が俺に頭を下げるほど柊を大切に思ってるのが伝わってきた。
「分かりました、俺に出来ることなら何でも!」
ーーー断る理由なんてない。

その話を聞いてから教室に向かった俺はコーチの心配が理解できた。
元々細身の彼女だったけど、
病気していたんじゃないかと思うほどげっそりと痩せ細ってしまってた。
「祖父が亡くなったショックで痩せちゃった」
痩せすぎだよ、って周りに言われるたびにそう笑顔で答える彼女を見て俺は胸が苦しくなった。
笑いたくもない時に笑う辛さ、知ってるから。
ーーー辛いのに泣けない辛さ、俺も経験あるから。
案の定、彼女は1人になった時、俯いて涙を堪えていた。

あれは一目惚れだったーーー・・・。
高校の入学式で同じ列の二つ隣に並んだまだ名前も知らない彼女、
栗色のパーマでもしてるんじゃないかと疑ったロングヘアのかわいらしい女子。
隣の環と話す彼女を見て控えめで話し方も優しく、
俺の理想そのものだった。
目が合った瞬間、微笑んだーーー。
クリクリの瞳で、俺に微笑みかけたその笑顔に惚れた。
ーーーきっとこれからもあの笑顔は忘れないだろう。

バスケ部で良かったと思ったことは、
彼女が意外にも環と仲良くなったこと。
バスケ部という繋がりで一緒にいることが増えた。
同じクラスでいればいつか好きになってくれる、
そう思っていたけど・・・
それは簡単に樹先輩の存在によって裏切られた。
樹先輩が彼女を見る視線、
すぐに恋してるんだと分かった。
そのあと少しずつ彼女の気持ちも先輩に向いていることが俺は気が付いていた。
だから友人に徹しよう、
一番の男友達になろうとそう決めた。
・・・なのにあんな辛そうな顔を見ていたら、
自分の気持ちが抑えきれなくなる。

「柊、今日屋上で食うだろ?」
「えっ、あっ、うん・・・」
環たちと約束もしてないのに俺はクラスから彼女を解放したくて屋上に連れて行った。
「ーーー強引にごめんな。」
「ううん、助け舟を出してくれたんだよね。ありがとう。」
彼女は俺に微笑を向けた。
「無理して笑うなよ、辛い時は泣けば良いって俺は思う。」
「ーーーありがとうね。ご飯、食べよっか。」
柊は俺から視線をずらし、
屋上の角っこに座ってお弁当を食べ始めた。
「なぁ・・・先輩と仲良くやってんの?」
柊の弁当に対して、俺は売店の焼きそばパン。
「何も聞いてない?笑 先輩のデビュー戦の日に、喧嘩しちゃったんだ・・・」
「1週間前の話だろ?まだ仲直りできてないのか?」
「ーーーうん。マネージャーさんに嫉妬しちゃって先輩にぶつけちゃったんだ。先輩嫉妬する女は嫌いだって言ってたし、幻滅されちゃったのかもね(笑)一度連絡したんだけど出ること無く、折り返しもなかった(笑)もうダメなのかな・・・笑」
俺にとってはきっとチャンスだと思う、
だけど俺は樹さんも好きだから奪いたいとかは思ってない。
むしろ2人仲良くしていてほしいと思ってる。
「ーーー今日の部活に樹さん来るってグループラインで言ってたぞ。柊も来て話せば?」
それを伝えると一瞬彼女の顔が曇った。
「・・・忙しくてメール見てないかなって正直少しだけ思ってたんだ。でも須永くんたちのLINEに返すってことはメールは見ていたんだね、、、やっぱり幻滅されちゃったかなぁ。ははは・・・」
また泣きそうなのを我慢してる顔をしてる。
「ーーー悪い、余計なこと言ったな。」
俺は彼女の頬に自分の手を添えた。
えっ、と驚く彼女に俺は微笑んだ。
「わたし、怖いんだ。」
「怖い?」
「父と母が亡くなって祖父まで亡くなった。いつ祖母がいなくなってしまうんだろうって思って、本当は静岡に残りたかったんだ。でも剛くんにも祖母にも反対されてここに戻ってきた。そして思ったの、私の周りの人みんな消えて行っちゃうんだろうなって。私がきっと元凶を作っているんだろうなって。」
遠回しに自分と距離を置けと言われてる気がした。
不幸になるから関わるなと言われている気がした。
「ーーー本当に辛かったんだよな、だからそう思ってしまうんだよな。おれもばあちゃん子で、ばあちゃんが死んだ時同じように思った。」
だけどオレはそんなこと気にしない。
今、柊にとってオレは友達だ。
それで十分なんだ。
「先輩のことも同じなんだ。私が不安になることで先輩に迷惑かかるし、きっと先輩がいなくなると思ってるから私の気持ちが不安定なんだと思う。周りの人を巻き込んで消してしまうくらいなら自分が消えたいと思った・・・」
「えっ・・・」
柊は目に涙を溜めて俺を見て頷いた。
「ーーー昨日、本気で消えたいって思って良くないことしたの。だから剛くんがすごい心配してる、学校でもやらかすんじゃないかって。・・・私と一緒にいるように頼まれたんだよね?ごめんね。」
柊はコーチが俺に頼んだこと気が付いていた。
「それもあるけど・・・」
「でも大丈夫、私なら大丈夫だから。ゴメンね。」
ほとんど食べなかったお弁当を彼女はしまい、
屋上から出て行った。

オレは思ったーーー・・・
彼女の逃げる道はどこにあるんだろうか、と。
コーチはともかく、
心の拠り所として頼れていた樹さんという存在を今頼れなくて・・・
誰をどこに頼るんだろう、と。
オレは焼きそばパンを口に入れ込んで、
彼女を追った。
「柊!」
2年の渡り廊下で彼女を見つけオレは叫んだ。
彼女はその声に驚きながら振り向いた。
「オレが味方になるから!」
「えっ?」
「ーーー柊に頼るところがなかったらオレを頼れば良い!暗い檻から明るい灯火が欲しければオレが柊の灯火になる!オレは絶対に柊のそばから離れない!」
「ーーーありがとう。」
それだけ言って彼女は笑顔で微笑んだ。
そこに涙はなかったけど、
その時の彼女が何を感じていたのかは分からない。

2年のほとんどの学生にそれを聞かれていたオレは、
愛の告白だと冷やかされた。
自分でもそんなつもりはなかった、
だけど確かに柊に対する告白だったのかもしれないと思った。
唯一の救いは柊自身が告白だと思っていなかったことだ。

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コーチに言われた通り、
その日の柊を見て過ごしたけど特別問題はなかった。
「ーーー柊も体育館行こう。」
「そう言われた?」
「えっ、花、今日見て行くの?先輩来るみたいだもんね!行こう行こう!」
柊の返事する間もなく隣のクラスから割り込んだ環が双葉に柊を託した。
そしてオレの横に並んで歩き出した。
「ーーー覚悟した方が良いよ、多分、先輩たちの耳にも入ってるから。」
「なにを?」
「先輩の彼女だって知ってて告白してんだから・・・ましてや樹先輩だし・・・なんで花を好きになるかなぁ、もっといたでしょう・・」
そんなこと言ったって気持ちには逆らえない、
仕方ないじゃんかと思う。
「ーーー分かってる。けどおれ、先輩より柊のこと好きな自信あるわ。」
「あっそ!私は応援しないよ!」
それだけ言って環は双葉の方に走って行った。

体育館でオレたちを見る柊ーーー・・・
その視線の先に誰を見ているのだろうか。
一瞬でも良いからオレを入れて欲しいと思った。
勢いで告白したには学校中に知れ渡るという失点を起こしたけど、
それはそれで樹さんに対して警告が出せて良かったかなと思った。
「ーーーいつから好きだったんだ?」
部活が終わり顔を洗っている時、
樹さんと正樹さんの隣になった。
「少なくとも先輩より先に好きでした。でも別に邪魔しようとしてるわけじゃないですし・・・」
「そっ。ーーーだったら邪魔すんなよ。」
「だったら不安にさせるようなことしないでもらいます?先輩がそんな感じなら、本気で奪います。」
「は?どういう意味だよ?」
部活でも怒らない樹さんがすごい顰めっ面で睨んできて、
これはこれで怖い。
だけどオレも負けていられない。
「今、アイツがどんな思いでいるか想像出来ます?!信頼してたお祖父さんを亡くして悲しみを必死に・・・」
「お祖父さん亡くなった?!」
オレの暴走を驚いて聞き返す先輩に少し勝ったと思った。
「ーーーそれも知らないんですね。そりゃそうですよね、アイツからの連絡応答しないんですからね。」
ーーー尊敬する樹先輩だろうが、
オレは先輩の本心を聞きたくて挑発する。
だけどそこに邪魔が入った。
「須永くん!喧嘩売るのやめて!自分の価値下げないで!」
ーーー柊自身だった。
「ーーー帰ろう。少し冷静になろうよ。」
柊は先輩じゃなくオレの前に立ってタオルを渡してきた。
「悪い・・・着替えてくるわ。」
「ーーーうん。」
オレは少しだけ2人に時間を与えることにした、
そして正樹先輩の腕を掴んで、
2人で体育館に戻り部室に戻った。

ーーー少しカマをかければ樹さんも柊と、
柊も樹さんと話せると思った。
どうか2人が仲直りしますように、
矛盾している気持ちを掻き消すように強くシャワーを浴びた。

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