#23.
先輩は電話に出なかった。
寝ているだけかもしれない、
お風呂かもしれない、
疲れていたのかもしれない。
頭ではそう理解しようとしているのに、
どうしてもあのマネージャーさんが頭に浮かんで不安な気持ちに勝てなかった。
同じ学校だったらすぐに解決できていたことが、
学校が離れるだけでこんなにダメなんだと私は辛くて仕方なかった。
・
新幹線に乗っても考えるのは先輩のことばかり。
祖父のことを心配しなきゃダメなのに何やってんだろって思った。
それに昼を過ぎてるというのに、
私からの昨日の着信に気がついてるはずなのに、
先輩は電話どころかメールさえもして来なかった。
ーーー簡単に嫉妬して幻滅したかな。
嫉妬する女嫌いって言ってたもんね。
そう思うと胸がズキンと痛んだけど、
少し諦めてしまっている自分もいた。
静岡に到着して、
いつもなら祖母が来てくれているお迎えが今日はない。
ーーー1人でバスに乗って、
祖母の家に向かう。
これでも静岡では大きな旅館なのだ。
一時期危うい時期もあって、
その時に私と辻堂の結婚話が出たけど、
おばあちゃんの力で持ち堪えたって聞いた。
祖母の自宅に到着して私は裏から自宅の方に回る。
「ーーー戻ったのね。あなたの部屋はそのままです。」
愛想悪いけど歓迎してくれているのかな、とおばさんに対して思った。
「ありがとうございます。」
荷物を置いて父と母の仏壇に挨拶をして、
私はすぐに祖父の部屋に行った。
そこには祖母がついていて、
おかえり、と笑顔で言ってくれた。
ああ、お母さんに似てるなって、そう思った。
ーーーズキンーーー
それを思った時、頭がいたんだけど気の迷いだと気がつかないふりをした。
祖父は私が想像していたより体調が悪そうで、
動くのも出来なくて、
毎日医者が診察に来ているんだって。
「本当はね・・・ずっと入院してたんよ。花に心配かけまいと内緒にしていてごめんなぁ。」
入院先でも回復につながらない、
本人が自宅に戻りたいと希望しているからつい数日前に帰ってきたと。
ーーーそして覚悟を決めてください、と医師から宣告を受けて私に連絡をしてきたことも話してくれた。
「ーーー私こそ学校を理由にして帰って来れなくてごめんなさい。」
苦手なおばさんがいるからって、帰らない理由にはならないと自分の甘さを後悔した。
「学生は勉学が基本だからなぁ(笑)」
「ごめん、本当にごめんなさい・・・」
私は何度も祖母に謝罪した。
毎日祈ったーーー・・・
祖父が良くなるように、私に出来ることはそれくらいだったから。
あとは祖母の代わりにはならないけど旅館を手伝ったり、
祖母の炊事のお手伝いもした。
でも私たちの願いは届くことなく、
数日後に祖父は他界した・・・ーーー。
幸せそうな微笑を浮かべながら、
祖父は空に飛んで行った。
「花が帰ってくるの待ってたのかもね。」
おばあちゃんはそう言ってくれたけど、
私は心からそれを真に受けることはできなかった。
・
「剛、花を頼むよ・・・」
お通夜とお葬式に剛くんもお姉ちゃんも来た、
でも仕事があるからとお姉ちゃんは先に帰った。
「いや、帰らない!わたし、ここに残る!」
祖父が亡くなったことで精神が壊れた私は東京に戻るより静岡に残ることを選んだ。
「何言ってんだ・・・花には学校があるだろう。」
穏やかな口調で祖母が言う。
長年連れ添った夫を亡くした悲しみで1番辛いのは祖母なのに私は何をやってるんだろう。
「おばあちゃん1人にしたくない・・・」
「お母さんの面倒は私が見ます。」
おばさんがハッキリと私に言った。
「でも・・・」
「花、ショックなのはみんな同じなんだよ。だけどな、前に進まなきゃならない時もある。花はまず学校を卒業するんだ、お前の父と母のように。そしたらまた戻っておいで。」
「ーーーおばあちゃん・・・」
「剛、花を頼んだよ。迷惑かけるけど、卒業までよろしくお願いしますね。」
祖母は剛くんに深くお辞儀したーーー。
それに応えるように剛くんもお辞儀をした。
・
東京に向かう新幹線の中、
私は憔悴しきってて一言も話さなかった。
剛くんはそんなこと気にしない、
多分理解してくれている。
自宅に戻って私は何も言わず部屋に入る。
小さい頃に父と母を失った私、
今度は育ててくれていた祖父を失った。
・・・こうして私の周りからどんどん好きな人が消えていくのだろうか、と不安を覚えた。
恐怖で体が震えた、
怖くて怖くて失うのが怖いと思った。
それならいっそう自分が消えて仕舞えば良いと・・・ーーー。
そう思ったら机にあったカッターを取り出して、
自分の左腕に刃物を向けていた。
「花、夕飯だけど・・・花!お前何やってんだよ!」
私が深く刃物を差し込んだところで、
剛くんが来て阻止した。
「離してよ!もう・・・離してよ!みんな私のせいで死んじゃう!お父さんもお母さんも、おじいちゃんも!みんな私のせいで・・・」
「・・・思い出したのか?」
「知らないよ!でも感じるのよ、私のせいで死んだんだって!ーーー私がいなければ何も起こらない。お願いだから放っておいてよ。・・・もうこれ以上、犠牲を出したくない・・・私を消してよ・・・怖いんだよ・・・」
剛くんは私を強く抱きしめた。
「違う!花は何も悪くない!たとえそんなことがあったとしても・・・俺が守る。俺には花を守る責任がある!だから絶対にお前を守る!だからしっかりしろ!」
私はそんな剛くんの腕の中で号泣した、
父と母が亡くなった時くらいに激しく泣いた。
・
気がつけば朝だったーーー・・・。
目を開けると隣に剛くんが眠ってる、
久しぶりに一緒に寝た。
久しぶりに剛くんの寝顔を見た。
それを見てごめんねって思った。
どれだけこの人に助けられるんだろう。
どれだけこの人に迷惑をかけるんだろう、と。
深く眠る剛くんを置いて、
久しぶりに2人分の朝食を作る。
ーーーおばあちゃんの言う通り、
前を向いていかないといけないと思った瞬間でもあった。
「ーーー学校行くのか?」
剛くんが起きた時、制服を着ていた私を見て驚いてた。
「行く。」
「でも花・・・」
「前を向いていくしかないんでしょ?だったら学校頑張んないとじゃない。」
頑張って私は笑顔を作った、
精一杯だった。
笑っていれば良いことがある、
きっと笑ってれば何か辛いことがあるなんて誰も気がつかない。
私はそう思った・・・ーーー。
そう自分にも言い聞かせていたーーー。
自分が壊れる前に、
笑って過ごそう。
きっと人を失った辛さは時間が忘れさせてくれるとそう信じて、
私は笑って過ごした。
大好きなおじいちゃんともお別れ、そしてこれから自分の過去と向き合うと言う苦しい状況に入ります。
少し悲しい状況が続きます・・・
苦手な方はスルーして、数回過ぎ去った貝から閲覧してくださいませ★
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