#22.
大学リーグの試合は、
高校に比べて名は知られてるもののそこまで人が多くないと思った。
ーーーでもそれを良い意味で裏切り、
人によっては応援うちわだったり、
バスケしていますと言った背の高い方々や、
保護者であろう年配の方たちも多くの方でとても賑わっている会場だった。
・
「あっ、ごめんなさい・・・」
体育館に入ってから人混みで混みすぎて前に進むのがやっとで何度も何度も私は大きな人たちに囲まれて潰されそうになりながら謝っては前に進んだ。
「柊!こっち!」
そんな私を探しに先に進んだ須永くんが戻ってきてくれた。
「遅くてごめんね・・」
「置いてってごめん!俺の服掴んでて!」
「ありがとう。」
今まで樹先輩と剛くんしか知らなかったけど、
須永くんも大きいんだなぁってシャツを掴みながら目の前を歩く彼を見て思っていた。
先輩たちの試合は第二試合で、
交代制の座席なので時間まで中に入れなかったけど私たちが到着したのがちょうど交代の時間だったのでナイスタイミングで中に入ることができた。
その近くでちょうど樹先輩の応援うちわを持っている女子学生らしき人たちの姿が見えて複雑な気持ちになった。
まだ入学して数ヶ月なのに、
今日がデビュー戦なはずなのにもう人気が出てるんだねって嬉しい気持ちと寂しい気持ちの両方を兼ね合わせた。
先輩が走るだけで「頑張れ、樹くん!」という声が聞こえる。
先輩を知らない人たちからも「あの人かっこいいかも。」という声も聞こえ、ある意味でのデビュー戦にもなったんだなぁと思った。
でも確かに今日の先輩はかっこいい・・・。
走る姿も凛々しい、
パスを落とすこともないし、
ゴールも何点もインしていた。
素人の私から見たら完璧だった、
こりゃファンが増えても仕方ないと思った。
ーーー先輩の大活躍のおかげで見事に勝利した。
「悪い、待たせたーーー」
「大活躍だったな!」
正樹先輩が樹先輩と連絡を取り合っていたらしくて終わったらロビーで待ち合わせをしていたらしい。
「まぁな、次はお前の番だな。来週楽しみにしてるわ。」
「今日はメンバーと打ち上げっすか?」
「ーーー多分な。」
この会話を聞いて環境が変わったんだなと改めて思う。
前までは待ち合わせをしてみんなでご飯が当たり前だった、
学校が変わることでそれが出来なくなるってこういうことなんだなと少し寂しさを覚えた。
「環も双葉も・・・柊も来てくれてありがとう。」
「えぇぇ、明日雨でも降るかなぁ?樹先輩がお礼いうなんて・・・笑」
「お前・・・2度と言わねえわ笑」
やっぱりこの2人はいつも楽しそうに話す、
先輩も環とだと笑顔が自然と溢れている。
良い関係だなって正直羨ましく思った。
「あのっ・・・」
でも凹んでる場合じゃない、時間も限られてるからと私も何か話をしようと声をかけようとした。
「樹!こんなところでサボってないでよ!キャプテンが探してるよ!」
・・・の予定だったんだけど、
遠くの方から先輩を見つけた1人の女性が凄い目つきで叫んできた。
「・・・すいません。友達が来てくれていたので。すぐ戻ります。」
どうやら先輩らしくて、
樹先輩が敬語を使うなんてとても新鮮だった。
「ーーーじゃ、またな!」
その人に連れられて先輩は戻ったけど、
自然にその人は先輩の腕に手を絡めて連れて行ってた。
私はそれが非常に不愉快だった。
彼女は私なのに、と黒い感情が生まれた。
・
夜、私は疲れているはずの先輩に会いに行った。
「えっ・・・何でいんの?」
待てど待てど先輩は帰ってこなくて、
実家だし勝手にチャイムを鳴らすわけにもいかずに門の近くで待たせてもらってた。
ーーーだからいるはずもない私が待ってることに、
先輩は驚きを隠せない様子だった。
「ごめんなさい、会いたくなっちゃって・・・迷惑だって思ったし、疲れてるとも思ったけど・・・」
「いいよ、とりあえずあっちに行こう。」
迷惑な顔はせずに先輩は途中の自販で飲み物を購入して私を近くの公園まで連れて行った。
公園に到着するなり私は先輩に抱きついた。
「・・・どした?」
「先輩が・・・遠い人に感じました。」
「何言ってんだ・・・笑」
立場をわきまえてか先輩はそれとなく私と先輩との間に距離を作った。
ーーーそれをされただけで私の心は傷ついた。
「環たちが言うんです、付き合って半年も経つのにキスだけなんておかしいって。私と先輩はのんびりで自分たちのペースで進んでるって思っています、でも・・・」
「それを鵜呑みにして気持ちが不安になったってとこか?」
「ーーーはい。」
「不安になる気持ちも分かるけど、俺たちには俺たちのペースがあるから周りに影響されんなよ・・・」
「ーーー分かっています。でも・・・」
納得してる自分と納得できない自分がいることを先輩に伝えたかった。
「何だ?」
でも少し先輩に近寄ったところで先輩の携帯が鳴った。
「悪い・・・マネージャーだわ。」
「出て下さい。」
「今日の試合のことだろうし、すぐ済ます。ーーーもしもし。」
電話の向こうから聞こえる女性の声、
私にはわかるさっきと同じ女性の声だって。
先輩はずっと敬語を使ってる、
きっとやましい関係ではない。
今のところーーー・・・。
「悪い、次の練習の時間の変更だったわ。」
マネージャーさんからわざわざ?今?
そんな黒い感情を必死に隠そうと思ったけど無理だった。
「で、何だっけ?」
「・・・ねぇ、どうしてマネージャーさんが先輩の連絡先知ってるんですか?」
「どうしてって、マネージャーだからな・・・」
「高校の時、私が連絡先を教えて欲しいと断ってきた時言ってましたよね?マネージャーすら知らないって。」
「それとこれは違うんだよ・・・高校と大学のやりとりの大事さが全くちがう。」
「私には分からないって、そう言うことですか?」
「そうじゃない・・・全ての連絡はマネージャーを通してくるんだよ、うちの大学は。だからマネージャーとの連絡手段は必須なんだよ。」
「ーーーマネージャーなのに腕を組むんですか?」
「あの人、海外育ちだからスキンシップ強いのはオレだけにじゃない。」
3ヶ月大学で一緒に過ごして、
先輩はそれが当たり前になっちゃったのかな・・・。
「ほんの数ヶ月なのに、先輩変わっちゃったね。」
「なんか誤解してるようだけど・・・彼女は・・・」
説明しようと私に一歩近づく先輩に今度は私から距離を作った。
「・・・今日は帰ります。突然きてすいませんでした。試合もお疲れ様でした、失礼します。」
「おいっ!」
一歩進めば一歩下がる、
そんな私たちだなって思った。
・
その夜は頭痛に苦しめられた・・・ーーー。
精神的に弱い私は心が弱ると体にガタが来る、
昔はこんなことなかったのに何が起きてこんなことになってしまったんだろうと自分の体に不思議な疑問を抱く。
それと同時に失ってるはずの記憶を元に戻したいとも思った。
自分の記憶・・・
10年前に事故に遭ってということでしか聞いてないし、私もその辺の記憶が事故のショックで覚えていない。
そのことを剛くんに聞いても彼は絶対に口を割らない。
ーーーお姉ちゃんも。
誰に聞けば教えてもらえるのだろうか・・・
見当もつかない私は結局自分次第なんだと思った。
何か・・・きっかけがあれば良いのにと思うけど、
それすら思いつかないから思い出せる気配が全くない。
そんな時だった・・・。
祖母から祖父の体調が良くないと連絡を受けたのは。
「じいちゃんに会いたいんだろ?行った方が良いんじゃないか?」
それを知った剛くんはつかさず私に言った。
「多分愛梨は行かない・・・っていうか行けない。だから愛梨の分も花がお見舞いしてやって。学校はなんとなかるし。」
「ーーーありがとう。なら朝イチで行ってくる!」
剛くんはすぐにチケットを手配してくれ、
私は祖母に明日の朝に向かうと連絡をした。
おばさんと折り合いは悪い私だけど、
祖父母は小さい頃からずっと良くしてくれていた。
だからこそ祖父母が大変な今は私がお世話したいと思う。
祖父がどのくらい体調悪いのか分からない、
だからこそ私はどのくらい静岡に戻るのかも分からなくてとりあえず先輩に伝えておこうと電話をした。
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